50題―40.雨

 


気配がして、趙雲はつむっていた目を開けた。
びゅうと風が吹いて下草をさわがせるごく軽い気配、屋根をたたくささやかな音色―――
戦乱の世を駆ける将であれば、気配に敏感なことは当然だが。
普段、趙雲はこんな自然の事象にさして気をとられはしない。

このときも趙雲が感じ入ったのは、天空の気配や風雨の音にではなく。
「・・・降ってきましたね」
腕の中に閉じこめていた人が身じろいで、つぶやいたからだった。
「・・・あなたは、風雨の気配に敏感ですね」
「そうでしょうか」
そういいながらその人はゆっくりと身を起こした。腰近くまである髪が流れ、さらりと音を立てる。
背を伸び上がらせるようにして窓に手をかけ、外をのぞき見た。
外がうかがえるのは、窓の外側にある板戸が上げてあるからだ。

出会ったころ、この人の部屋の窓の板戸は、夜かならず閉めていた。警護のため、そうせざるを得なかったのだ。
そうしていると、この人は朝必ず起きられなかった。閉め切った部屋は暗いため、朝が来ても目が覚めないのだと。主騎として毎朝起こしに行く趙雲に、すまなさそうな、ばつの悪そうな様子をしていたものだ。
『板戸を開けて眠れば、朝、自然に目覚めると思うのですが・・・・』と目をそらして言う人に、趙雲はさして構えもせずに、答えた。『別に構いませんが』と。

『戸を上げてお眠りになりたければ、そうなさっても構いません。ただ、夜、板戸を上げておくのなら、私は同じ部屋で眠り、警護します』

そのときの事を思い出すと、微妙な気持ちになる。
よくもそのようなことがいえたものだ――――今となっては苦笑しか出ない。

だがそのときは、本気でそう思っていた。
世にも美しい宝石を隠すように、夜毎寝所で同衾させていた新しい軍師―――三顧によって得た、稀代の智者だという人を、主君である劉備から引き渡されるように預かってから、7日ほど経った頃のことだったか。
朝日よりもきらめいた存在だった。
この才知は、守らねばならないと、心底から思い、毎夜、この人の眠る寝所の隣の居室で警護についていたのだ。

板戸を閉めていれば、外から破られたとしても、隣室から駆けつければ間に合う。
だが戸を開けて眠れば、侵入者があった場合、間に合わぬ可能性がある。
だから言ったまでだった。板戸を開けて眠るなら、隣の部屋ではなく、同室で警護する、と。



そして今は。
同室どころか、同床で眠るようになった。
おのれにとって、至福ともいえる幸せなことに――・・・


・・・風雨の気配に敏なのは、隆中にて農を行っていたためであろうか。
それとも、天の声に耳を澄まし、天の時を選ぶ軍師としての習性なのか。
生まれながらの、性質なのか・・・

どちらにせよ―――
趙雲もゆっくりと身じろぎ、横顔がよくみえる姿勢になった。
黒い髪がかかる額の秀麗さ、筆で描いたような弧をえがく眉、長い睫毛、通った鼻筋、淡色の唇。
どれをとっても沈静に整っている。
雨を見つめる横顔はさながら、深山の幽谷で、棲み家である深緑の沼から外界を眺めている龍の化身。

趙雲は身を起こしながら、たくましい手をのばした。所作だけは静かに、だが強い力で肩を抱き、もう片方の腕を身体に巻きつけ、顔を寄せた。
「あまり、ほかに気を取られないでください。・・・・雨にも嫉妬しそうです」
「・・・・・・・・」
抱きとめると驚いたように小さく身じろいだのが、困惑するように沈黙する。
外気にさらされて少し冷えた身体を背後から抱き寄せ、体温を移すように密着させると、息をひそめるようにして、おのれの気配をうかがっているのが知れた。
まだこの人は、おのれの気配に馴れないのだと思いながら、片手で抱き寄せて、口を塞いだ。
とっさにか身を引こうとするのを抱き止めて、唇を合わせる。

静かな雨・・・清涼な朝だ。だが身の内からは止めどもなく熱いものが湧いて出てくる。
その熱さを移すように、口づけを深いものに変えていった
つかの間唇を離すと、腕の中の人が、小さく息をつく。目もとがうす紅く色をはいたことが、白皙の肌のなかで異彩をはなち、色めいていた。
「趙将軍、窓が――・・・」
「まだ、あざなでは呼んでいただけませんか。・・・孔明殿」
片手で抱き寄せたまま、手を伸ばして帳を引く。板戸が開いているので、そう暗くはない。雨天であるために煙るようにやわらかく差し込む朝日を浴びて、ほのしろく発光するような美貌は、困ったように口を閉じた。
こだわっていないわけではないが、趙雲はその話題を流し、もういちど口づけた。
「ん、」
可憐な声を耳に入れながら、舌を含ませて柔らかな粘膜を舐め上げる。雨のせいか、舌が絡む水音が常よりも湿って聞こえた。
「・・・っ・・・ふ」
舌同士を纏いつかせると支えた身体が震える。言葉にならないうめきを聞くと、身体の奥深いところで燃えくすぶっている欲が煽られた。
細腰に手を回して褥に横たえようとすると、小さな抵抗に合い、動きを止める。
「・・・趙・・、・・・」
趙雲の昂ぶりを感じたのだろう、孔明がさっと表情を変える。
「・・夕べも・・その」
趙雲は艶美に笑んだ。
「・・・夕べは加減をいたしましたので。・・・どうか、もう一度だけお許しを」
「手加減を・・・していた・・・のですか?その、あれで・・・?」
黒曜石のような硬質の眸に疑問をうかべる眼差しと目が合い、趙雲は困ったように眉を寄せ、口端をあげた。
「ええ・・。ただ、そのようなことを仰ってはいけません。・・・・・手加減をしないということがどういうことか、あなたに分からせたくなります」

「――――、・・・・・」
困惑し、怯えたように見つめ、身を引こうとするのを、可能な限りやわらかく抱き、唇を重ねた。背に回した手で細い肢体を包みこみ、欲を隠して、優しく口づける。
「怯えないで下さい。私はあなたの主騎です。それを忘れてはおりません。・・・あなたを傷つけることなど、できるはずもない・・・」
口づけの合間、髪を掻きやりながらささやく。
困惑は変わらぬまま、ただ肢体からは力が抜け、ほころぶようにかすかに口が開いた。趙雲は開いた歯の隙間から舌をすべりこませ、歯の裏のやわらかい粘膜をなぞるように愛撫する。やがて孔明の舌にたどりつくと絡めて吸った。
「・・・・っ・・・」
貪るような真似はせず、息を継ぐ時間を与えながらすこし角度を変えてまた口づけ、唇同士の交わりを深くしていく。
柳腰に腕を回して引くと、その身体はあっさりと褥に横たわった。
細腰を結わえる寝衣の帯をそっと解く。
雪白の肌に欲がいっそう頭をもたげ、ほっそりとした首のつけねから鎖骨への唇を落とし、艶のある肌のなかで色づく突起を口に含んだ。舌で舐め転がすと、孔明の身体がびくりと震える。
手のひらは衣の中、内腿に入りこみ、ことさらにやわらかな皮膚を撫ぜたあと、手を中心に移動させ、ゆるく絡ませた。
「駄目です・・・っぁ、あ、朝から、こんな事は・・・っ」
「・・・あなたが、雨になど気を取られるからです。孔明・・・」
熱くささやきながら、私の腕の中にいながら、と内心で付け加える。
主君より警護のいっさいを任されているのは武人として誉れであり、他のものに彼を任せる気には毛頭なれない。とともに、胸に灯る炎が大きすぎるほどに大きい。焦がれているといってよい。時に、公務の最中にも激しい欲情を感じるほどに。

公務で、邪魔はしない。全身全霊をもって守る。
だから休日くらいは腕の中にいて欲しい。


彼の中心は熱を持ち、しっとりと潤んでいた。指を絡ませ、上下に動かすと、刺激に耐えかねるように身をくねらすさまが、艶かしい。
たくましい手で中心をやわらかく、執拗に愛撫し、胸の突起を舌で舐め転がしていると、咎めるために掴んでいた孔明の手から力が抜けた。
「あ、ぁぁ・・・!」
湿った吐息が漏れるたびに、ちがう意味の力が篭められて、細い指先が趙雲の鍛えられた腕をかきむしる。
指で、唇で刺激を与えながら、腕に彼の指が絡むたび、趙雲は恍惚とした欲情に襲われる。
はやく、・・・・はやく貫き、押し広げ、体表よりもよほど熱い彼の粘膜に包まれたい。
・・・思うさまに突き上げて泣き叫ばせ、求めさせたい。
快楽に堕として、彼の口に子龍、とあざなを呼ばせたら、それはいかほど甘い響きなのだろう。
湧いてくる望みを、欲を、押さえ込む。
孔明の中心は勃ち上がり、いまにも弾けそうに震えている。
衣を掻き分け、身体を下げてその花芯を目に入れると、狼狽と羞恥に潤んだ声が上がった。
「いや・・・っ見ないで下さ・・・や、ぁぁあ!」
とろとろと溢れる先端の蜜を舐めると、美しい顔がゆがんだ。
濡れそぼった中心を、口に含み入れる。
「ぁあっ・・・いや、いやぁ・・・!趙、駄目、止めてください・・・・!」
泣き声が上がる中、舌を使って先端を刺激し、口腔に含みこんで吸えば、 白い足が敷布を掻いて震えた。
腿の裏に手のひらをあてて持ち上げるようにして脚を開かせ、より深みに含みこむ。
「あ、あ、・・・趙・・雲どの、だめっ、もう、出・・いや、離し、て・・・っ」
悦楽と混乱を極めた声音を聞き、すこしだけ花芯から唇を離す。
「構いません、このまま――」
あとは言わずに、あふれ出る蜜を吸い、深く咥えこむ。
「や、っ!・・・・・・・ぁあああ!」
手の内にある足も、口内にある花芯もすべて震わせながら敷布についた背がのけぞって、趙雲の口に白露が注ぎ込まれた・・・。



可憐な花芯から吐き出された白露を味わい、飲み下した。
白龍の化身かとおもう叡智と外見をもつ軍師であるが、精はほろ苦く、えぐみも含めて生身のものである。むろん、ほかの者の精など味わったことはないが、独特のにおいから、やはり他者と変わらぬものだろう。それでいて嫌悪はなく、あるのはいや増す情欲だけだ。

くたりと力を失って敷布に沈み、凛冽たる智慧を宿す目元を潤ませて、怜悧なことわりをつむぐ口元を濡らして、玲瓏とした白磁の肌を汗に潤ませて、寝衣の前をひらき肌をさらして横たわっている軍師をみると、趙雲はやるせないほど昂ぶった。

力なく放心している白い肢体に、鍛えたおのれの体躯をかさね、うなじから背中を手のひらで撫でおろす。
同時に、首から肩へと唇を滑らせ、肩口に張った皮膚をつよく吸った。
「ん・・・ぁ、あ・・!」
達したあとで敏感になっているのだろうか、皮膚はやわらかく潤み、吸うと乱れた声音が響く。制止されぬのを良いことに、趙雲は濡れた肌を執拗に吸い、痕を残した。
黒い髪が乱れて敷布にうねり、白い肌に朱色を散らして、閉じられない唇からは濡れた息が吐き出され。ぎゅっと目を閉じて慣れない快楽に耐える姿が、淫らで愛らしい。
胸の突起を口に含むと、詰まったような声があがり、のどが反った。
胸への愛撫を続けながら、しなやかな足の片方を折り曲げて開かせる。あらわにした腿の内側に手を滑らせると、足がひくりと震えた。なだめるように腰を幾度か撫でてから、そっと深奥に指を辿りつかせた。
夕べも抱いた入り口は、彼自身からこぼれた蜜と白露によって潤んでほころんでいた。
趙雲の指がゆっくりと、秘められた箇所に沈んでいく。精を吐かせたせいか、其処はゆるみ、潤んでさえいた。奥深くへ指を沈め、粘膜を練るように擦りあげる。
「・・・・あ、あっ」
顔を上げた趙雲は、孔明の顔を見つめた。
かたく目を閉じ、顔を背け、侵略に耐えている。乱れて吐き出されるせわしい吐息が、色めいて潤んでいた。
趙雲は指を抜き、2本に増やしてまたゆっくりと奥処に沈めていく。
「ぅん・・っ」
すこし苦しげな表情に身体をずらし、頬に口づけ、耳を食む。耳朶に舌を入れながら、片方の手で中心に触れると、秀でた額に汗が流れ、髪を揺らしながら首を振る。
「あ、あぁん・・っ」
趙雲は髪にも唇を落としながら、指を抜き差しの速さと深さを増していった。
内側を擦り上げると、脈打つ内壁は指を呑みこみ、蕩けるような熱さをもって締め付けてくる。
片手を絡めた花芯は内部とはまた違う熱を持ち、かたく勃ちあがって涙をこぼしていた。
趙雲は花芯から手を放し、後方で深くうごめかせていた指も、抜き取った。

息を乱し切った孔明が目を上げる。
潤んで揺れる黒眸を目に写しながら、乱した奥処へ自身をこすりつけ、ぐっとあてがう。
「・・・趙・・将軍・・・っ」
「・・・軍師」
あまりに真剣であったため、つい役職を呼んだ。

ぐぐ、・・・・・と、入り込むにつれ凄まじい圧迫に包まれる。
趙雲の先走りのぬめりも助けとし、わずかずつ呑みこまれてゆく。ひと晩置いた隘路は思った以上に狭かったが、先端から順に熱い粘膜に押し包まれるのは、白炎に灼かれるような悦を呼んだ。
「孔明・・・どの、孔明」
たしかに彼を抱いているのだと確信を深めるべく、月の光のように美しい彼のあざなを呼ぶと、呼応するように中がすこし熔けてほころんだ気がした。
受け入れられている気がして、身とともに心が、焦げるように熱くなる。
すべてまでおさめさせて、趙雲は火照った息を吐き出した。
恍惚を噛み締めながら、無理をさせた頬を撫で、汗にうるむ額にくちづけ、ほんの少しずつ動きながら、彼が自分に慣れるのを待つ。
やがてきつく絞るようであった締め付けが、熱くうるんで絡みつくようになった。かぼそい悲鳴を上げていたのどから、せつなげな喘ぎに変わりはじめる。
身体の震えから、感じているのが痛みだけではないと分かり、趙雲は身をかがめて唇を合わせた。
舌を絡めて吸うと、内部がきゅうと収縮した。
途轍もない快楽に息をとめた趙雲は、次の瞬間、動き出した。
激しく荒れ狂う欲情を一抹の理性で手綱をつけ、がく、がく、と細腰を揺らす。
「あっ、あ、あ」
色づいた口びるからこぼれる嬌声に混じって、ふいに趙雲の耳に、雨音が忍び込んだ。
どうやら、本降りになったらしい。屋根や樹木をたたく雨音が聞こえる。
だが、―――見下ろすと孔明の表情も白い肢体も趙雲の動きに翻弄されており、雨音などに気づいている様子はない。
趙雲の耳にとて、聞こえるのは雨音よりも結合部からの水音のほうがよほど近く大きい。
趙雲は自身の欲望を、ぐっと、さらに奥へと押し進めた。
「ひぁ・・!・・・ああ、」
ふいに、やるせないほど愛しくなった。
「好きです、軍師・・・・孔明殿」
すすり泣くような細い嬌声をつむいでいた孔明が目を開ける。荒い息を吐きながら、潤みきった目で趙雲を見上げた。
「・・・ぁ、私も・・・・あ、あなたが好き・・です・・っ」
切れ切れに、紡がれる不器用な告白に、とっさに趙雲は白い肢体を掻き抱いた。
おずおずと白い手が首に回される。
「―――っ」
一瞬、息をとめた趙雲は強く抱きしめたまま律動を早める。
「孔明・・・・」
耳もとにささやきを落とすと、中が小さく痙攣した。背に絡みついた細い腕に力が篭められて、同時に、内部では受け入れた趙雲を締め付ける。
深く、深くへと腰を進め、抜き差しを激しくする。それでも、壊してはならない、傷つけてはならないという意識だけは残っていた。
壊すほど叩きつけずとも白熱した快楽は身を灼き、脳裏まで痺れるほどの鮮烈な快美に満たされている。
「ぁあ・・・っあっ!」
びくりと背が反り、孔明が激しく身悶えた。収縮する内部に趙雲も快楽を解き放った。

   
 







拍手のメッセージに「相愛っ相愛を下さいーー」と熱く叫んだ方がいらっしゃったので、「・・・そ、そ、そんなの私だって欲しい!!」と叫び返してみました。たぶん?その方は趙孔だと思われますので。

姫孔明です、コメの言葉遣いがたどたどしいとか怯えまくっているとかにはイロイロ裏設定があるのですが。
ちなみに、この趙雲は「無理矢理」の趙雲と同じ人です。ルートが違うだけです。
どうでもいいですか、雨エッチ好きだな自分。。。


(2014/5/31)

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