新野のウワサと騒動と2 趙孔(私設)

 


軍師府を出て、食堂に向かった。
食堂といって、実は単なる屋根と柱があるだけの空間だ。ぼろいが、屋根があるだけまだましである。
途中で陳到と合流した。趙雲を待っていたらしい。律儀なことだ。
食堂では数百人が飯をかきこんでいた。時間の関係ですべて趙雲の率いる騎馬の軍の兵たちだ。男しかいないのだからむさくるしいことこの上ない。しかも主君の影響なのか劉軍の兵は異常におしゃべりが好きで、この日も、食堂内は喧騒に満ちていた。
が、趙雲が入っていくと、ぴたりと止んだ。
趙雲はまったく気にしない。
武将がウワサの的になることは珍しくも無い。
劉備をはじめ、関羽、張飛、それから趙雲。
ウワサになるということは、関心があるということだ。
兵が自分らを率いる将に関心を持つことは当たり前で、どのように言われようとも、趙雲が自分に恥じることは何もない。

料理人が顔を出した。料理の手伝いや洗い物をするのに近所のおばちゃんもいるが、料理長といった立場に立つのはむさくるしい髭の親父だ。当然、戦場にもついてくる。
「おう、趙将軍、最初の鍋は野郎どもに底までさらわれちまって空っぽだ。次のが煮えるまで、もうちょっと待っててくだんなせぇ」
「分かった。気にしないでくれ」

卓につき、水を飲む。趙雲が卓につくと、兵が寄ってくることもあるが、今日はみな距離をとり、静かなものだった。
椀についだ水を飲み干して、趙雲は口を開いた。
「・・・虫さされだったぞ、叔至」
同じく椀から水を飲んでいた陳到が噴き出す。
「ぶほッ・・・・え、そうなの、マジで?お前わざわざ確かめてきたのか?」
「軍令書を返すついでにな」
手巾なんて洒落た物を持っていない陳到は、手の甲で濡れた口をぬぐい、まじまじ趙雲を見る。趙雲は腕を組んだ。
「へんなウワサを流すな。主公に迷惑だ」
「へ、主公?主公って、劉備様?・・・・主公に何の関係が」
「あれが、情痕だ、誰がつけたのか、とかいうくだらないウワサなのだろうが。彼の相手として名が挙がるのなんて、主公くらいだろ。ほかにアレに手を出せる強者がいるか?」
「え・・・いるか?って言われても、その、ええと・・・えーと、お前、その、いるだろ、ほら、」
ふん、と趙雲は鼻を鳴らした。
「趙子龍が守るものに手を出す愚か者が、陣営にいると、お前はいうのか、叔至」
「うっわぁ・・・・・いっぺん言ってみたいわ、そのセリフ・・・お前が言うとまったく洒落にならんけど・・・・・いや、ちょ、なんつーか、お前・・・」
「主公は、屁とも思われないだろうがな。間が悪い。夫人がご懐妊中だ。待望の主公の第一子なのだぞ。妙なウワサを流して夫人にご不快があったら何とする積もりだ、お前ら」
「うー、あー・・・・お前、醒めてんのに、その辺忠義だよな、女子供にはやさしいっつうか、モテんのもその辺が原因か?いや、そんなことどうでもいいけど、・・・・うーん、・・えーと・・・・」


趙雲が座り、陳到と話しはじめてからがやがやと賑わいが戻ってきていた食堂が、再び、しーーーーんとなった。
それはもう先ほどの比ではない、異様なほどの静寂である。
凍り付いているといってもいい。
さすがに趙雲も何事かと首をひねり、長袍をまとった長身を目に入れた。
「・・・・将軍」
やっと見つけた、と言わんばかりに口もとに笑みをつくり、彼が歩みだす。
水の上を歩くかのようなすべらかで優雅な動きだ。一歩進むごとに袖がなよやかな風を起こす。身なりはたいしたことが無い。さきほど執務室で着ていたとおりの、質素といえる白い袍だ。
劉軍にあってさえ目立つ衣装ではない。だのに、そこだけに美しい光が差し込んでいるようだった。
おまけに、歩むほど笑みが深くなっていく。
趙雲は首だけ曲げて、文官を振り仰いだ。
「さきほどのお返しに、これを差し上げます」
おしゃべりと、ものを咀嚼する音、食器の触れ合う音、立ち歩くものが武器をがちゃがちゃと鳴らす音などなどの喧騒に満ち満ちあふれていた広間はいまや、箸をうごかす音さえしない。
「なんです?」
「虫さされの薬ですよ」
小さな容器を受け取った。蓋を開くと、清涼な香りが漂う。蜜のようにとろりとした薄黄の液体がはいっていた。
「薬草の油を抽出したものです。以前つくっておいたものですが、さきほど、効能と香りが良いものを何種類か選んで、虫さされに効くように組み合わせました」
「薬草の―――油?つくったとは、どのように?」
「薬草の葉に蒸気を当て薬効をふくんだ水蒸気を抽出します。それを冷やして精油を取るのですよ。・・・・意外ですね、ご興味が?」
「いい香り、だ」

「そうでしょう?」
諸葛亮はうれしげに微笑んだ。食堂はもう、痛みを感じるほどの静寂に包まれている。
趙雲はまじまじと良い香りのする綺麗な液体を見て、髪を掻き揚げた。
「俺が差し上げたのは、安物だったのに。これでは釣り合わない気がします」
「なにか、うれしかったのです。今晩いっしょに寝るのだからすぐお会いできるのに、つい持ってきてしまいました」

かちゃ、がちゃーーーん、ガチャ、ガラガラガラとあちこちで物が落ちる音がした。箸を落とすもの、匙を落とすもの、食器を落とすもの、はては武器まで落とすものが続出したためだ。

音だけは騒々しい中、出来上がったばかりの料理の良い匂いが立ち込めた。
「趙将軍、陳将軍、お待ちどう」
髭の料理人が、盆を抱えてやってくる。
「今日の献立は自信作ですぜ、生きのいい鶏が手にはいって」
卓に豪快に料理を置いて、そこではじめて親父は目線を上げた。そして硬直した。
兵たちの異常な言動にはまったく動じていなかった親父が、ぽかん、と口をあけて固まる。

無理も無い、と趙雲は腕を組む。
膚は真珠で、目もつややかに黒い真珠だ。髪は黒絹で、眉目はどのような古今の絵よりも美しい。
しかもこの絵は、生きているのだ。
眼は生気と叡智を宿して深い輝きを放ち、淡い色の唇は、他愛のないことに喜びを見出し、笑みを形づくる。

「いい匂い・・・これ、なんですか」
髭親父は応えない。趙雲は肘でかるく、親父の腹を突っついた。
はっと我に返った親父は、じどろもどろで応える。戦場で敵に囲まれた時、包丁を振り回して応戦したという逸話の持ち主、豪胆さは折り紙付きのはずなのだが。
「とっ・・・鶏と野菜のごった煮・・・でさ」
「ふぅん」
諸葛亮の目がきらきらしている。
普段、食い物に関心をしめさないと聞いている。付けている兵が不安を感じるほどの小食であるらしい。人の食っているものは旨そうにみえる性質なのか。
ためしに趙雲は「鶏と野菜のごった煮」の熱くないあたりを匙ですくい、ちょいちょいと指先で手招いた。
素直に頭をさげた諸葛亮が、ぱくりと食いつく。
むぐむぐと咀嚼して、
「・・・美味しいです、とても。でも塩の精製がよくありませんね。雑な精製方法の安い塩を美味しくする方法を、教えて差し上げましょうか」
星のような眼を料理長に向けたので、料理長は「む、」と固まった。
ごつい手から取り落とされた盆を、趙雲は空中でひょいと拾い、卓におく。

諸葛亮から視線を向けられて、趙雲は隣の席を目で指した。
「お座りください、軍師殿」
座らせておいて、もうひと匙あたえる。
もくもくと食べている様子に、匙と皿ごと押しやった。
「食べてください。夕餉はまだなのでしょう」
「よろしいのですか」
「もちろん」
数百人分の男の飯をまかなっているのだ。1人増えても問題があるわけが無い。
「ところで、あの」
趙雲の分も新たに運ばれてきたのを期に、諸葛亮が周囲を見渡す。

「劉軍は、食事の間、黙っているという規則でもあるのですか。ずいぶん静かですね」

黙っていた陳到が、その時、ぶっ、と噴きだした。
腹を抱えて笑うのに、趙雲はまったく興味がない顔で料理に手をつけた。
しーーーーーんと痛いほどの沈黙の呪縛が解け、一斉に止まっていた食事が再開された。
だが誰もしゃべらず、食べ方が皆妙に気張って品良いふうを必死に装っている。

食べ終えた諸葛亮が、ふぅと息をつく。
「・・・食事のあとは、茶が出るのでしょうか」
「出ませんよ、そんなもの」
「茶葉は高価ですが、薬草茶ならこのあたりでも作れるでしょう。食後に飲めば清涼感を得られ、虫食い歯にならないような効果があるものもあるのですよ」
「兵が喜ぶのは、茶よりも酒ですね」
「そうですか、なるほど・・・・・では、将軍、わたしの室で粗茶を一服、いかがでしょう」
「俺は、夜警の指示を出さなくては」
「ば、馬鹿、子龍」
陳到にさえぎられ、趙雲は口をつぐんだ。
「そんなもん、俺が出しとくわ」
じろ、と視線を向ける。
「何だ、急に。お前、いつもは細かい事はやりたがらないだろ」
「いいから、とっと行けっ!兵を窒息死させる気か!」
何を馬鹿なことを、と視線をめぐらすと、数百人の兵が一斉に眼をそらした。

諸葛亮は席を立ち、趙雲に顔を寄せてひっそりとささやいた。
「・・・・嫌われて、いるんですね、わたしは。この異様な雰囲気は、わたしのせいなのでしょう?もう、行きます。将軍は軍務があるのでしたら、ここで結構です」
口を開こうとしたら、向こう脛を陳到に蹴られた。
目配せをされ、息をつき、趙雲も立ち上がる。
「――室までお送りします。茶を、相伴になりましょう。但し、俺は作法などわきまえていませんよ」
「知りたければ、教えて差し上げますよ。奥は深いですが、難しいものではありません。将軍ほどの武を身につけた方なら、そこらの茶人より、深い所作をなさる気がします」

食堂となっている建物をあと一歩で出ようとする段になって、趙雲は隣にささやいた。
「・・・嫌われている、わけではありません。無骨な者たちで、どうすれば良いのか分からないのですよ」
嫌っているわけではない。あまりに異質すぎて、戸惑っているだけだ。
どうせ、趙雲らが食堂から出れば、蜂の巣を突っついたように、騒ぎを再開させるに違いないのだ。
「そうでしょうか・・・」
あまりに軍師が消沈するので、趙雲は彼の肩に手を置いた。
確かに、数百人に沈黙されたら堪えるかもしれない。趙雲はまったく気にしないが。
肩に手を置いた瞬間が、食堂から一歩出た瞬間でもあった。


ぎゃあぁぁああああぁああ


雄叫びが聞こえて、びくっとした諸葛亮が振り返ろうとするのを制して、趙雲は肩を前に向けて押した。
どんだけ馬鹿だ、あいつら。
もうちょっと遠ざかるまで待つ配慮は無いのか。一歩だけ出たとこなんか、中に居るのと一緒だろう。
「気にしないで下さい。食べ終わったら、食い物と農民に感謝を捧げて、雄叫びを上げるのが習慣なのです」
「そ、そうですか」
数百人が一斉にしゃべりだしたのだ。
蜂の巣を突っ付いたどころか、建物を揺るがして壊しそうな大喧騒が起こっている。


「でも、大勢で食べるのも良いものですね。・・・時々、行っては邪魔でしょうか」
「それは―――」
趙雲には、軍師が兵卒らに近づくのが、良いのか悪いのか分からなかった。
用兵をする軍略家は、時として、非情でなければならない。
この先、どれほどの兵の生命がこの細い肩にのしかかるのか―――
趙雲は立ち止まり、軍師の肩を引いた。向かい合う形になる。
命を背負う―――それは趙雲も同じだ。だが間違いなく、この先、この軍師の背負う命のほうが大きく、重くなる。
守りきれるのか。――――いや。どうあっても、守りきらなければならないひとなのだ。
「・・・あなたが来たければ、いつでも」
頬に指先を伸ばして触れた。白い陶器のようであるのに、ふわりとした体温がある。
えがたい・・・どのような宝石よりも貴重なひと・・・・・
長い睫毛ごしに、黒い真珠の眸が趙雲を見上げた、そのとき。









メキメキメキバリッ・・・・・という物音がして、食堂を形成していた柱が数本、倒れた。

「うぎゃあぁああああああ」
「ぐえ、ちょ、踏むな、死ぬっ」
「ぎゃあぁあぁああ、やっべえ!やべえだろ、これ、オレらの食堂がぁ」
「屋根!屋根も、崩れかけてるぞ、おいっ、逃げろ」
「つか、無理、後ろに下げれねえええええ」
「前行けよっ馬鹿ッ下がるな!どんだけ後がつかえてると思ってんだ」
「いやだぁぁぁ趙将軍に殺されるだろ、俺ら」
「前線に送られる〜〜〜って全然かまわんけど、前線送りは」
「どうせオレら、いつでも最前線だもんな。つか、だから前に逃げろッつってんだろ、下がってくんなっ!!」
「前線より趙将軍のがヤバイだろ、この場合明らかに!!前に逃げれるかァッ!」
「じゃあ踏みつぶされて死ね!」







くずれかけた食堂と雪崩れるように折り重ねる兵卒らを振り返って超半眼になった趙子龍は、軍師に、「絶対に近寄らないように」と言い置いて、その肩を離した。

「―――1卒隊!」
趙雲が叫ぶと、喧騒がぴたりと止んだ。兵卒がびしッと垂直に背を伸ばし姿勢を正す。
「はっ!」
「東の柱1本、死ぬ気で支えてろ。第5、北側の柱3本を支えろ!第3、南の柱4本!第2、第1の補助で東だ。――第4卒、北からすみやかに出ろ、第6,7、南から抜けろ、第8、西から撤退」
先ほどまでの喧騒がうそのように、ばたばたと一糸乱れぬ動きで走り回り、作業と撤退に従事する。
瞬く間に、食堂とされていた柱と屋根で囲まれているだけの広間の中央の空間から、人が居なくなる。
「第5、柱を離して北から撤退。同じく、第3、南に抜けろ。――第2、ゆっくりでいい・・・・・柱をはなせ。ひ、いや、・・・南から出ろ」
支えを失って、今やぐらんぐらんと風前のともし火である建物を支えているのは、残った第1卒隊。800を数える趙雲の兵の中でも、常に趙雲の側で戦う、精鋭の25人だ。
趙雲と軍師のやり取りを、最前列で見物した馬鹿どもでもある。こいつらを先頭として百人単位で群がったので、もとからぼろい造りだった柱が倒れて建物が崩壊しかかっているのだ。
いまにも崩れそうな屋根を見上げて、趙雲は配下に近づく。
這いつくばって柱を支える最前の一兵が、にやりと趙雲を見上げた。
「趙雲様、冥土の土産にひとつだけ」
「言ってみろ」
「できてるんですか、軍師様と」
趙雲はひやりとした笑みを浮かべて見せた。刃物のように物騒な笑みだ。
「無論、できている」
「ご婚姻はいつでしょうか」
「いつしようかと、迷っているところだ」

おおおーーーー

超場違いな歓声が上がった。
土台、趙雲とともに修羅場をくぐってきた男らなのだ。この程度のぼろい建物が崩れるくらいでは、動じない。

「な、わけがあるか。できてないし、男同士で婚姻できるか、この馬鹿ども。―――前だ。東に逃げろ。こんなくだらぬことで一兵でも死んでみろ、お前ら、地獄を見せてやるからな」
言って、兵らとすれ違い、趙雲は崩れそうな建物に入っていく。
腰の剣をすらりと抜くと、迷わず西の柱を一閃のもと残らず薙ぎ払う。
東に傾きかけていた建物は、屋根は、支えを失って迷うようにゆらゆらと揺れたが、真下に落ちた。轟音が響き、土煙がもうもうと上がる。
もちろん、趙雲の兵卒は一兵も損なってはいなかった。

「趙雲様ーー!」
「趙将軍、ご無事ですかァーー」

砂煙をまともにかぶってげほげほ咳き込む兵卒らが寄ってくるのを無視して、趙雲は東に歩んだ。
軍師のところに戻ると、無言で布帛を渡された。
崩壊した食堂の再建計画である。木の切り出し場所から運搬方法、予算まで書いてある。ちなみに予算がどこから出るかというと、趙子龍の俸給から差し引くことになっていた。
趙雲は墨痕もあざやかな布帛を一瞥しながら受け取り、そのまま風に流した。
夜の風に布切れが舞って、いずこにか消え去る。

趙雲は肩越しに振り向いた。
「―――明日の朝までに、元通りにしておけ」
「そのような」
諸葛亮は息を呑んだが、聞いた兵卒はまったく動じない。

「あーはい、こんくらい、別に」
「新しい木材使うまでもないっすね。ツギハギで充分」
「食器のほうがやばくねぇか!?」
「あー結構無事。先に逃げたやつらがしっかり回収してっから」
「うぎゃあぁぁぁぁオレ、武器置きっぱなしだった!」
「武器なんて貴重なもん、沈めるわけねえだろ、誰かぜったい避難させてると思うぜ」
「屋根、もうちっと軽くしねえ?」
「つか、柱増やしたほうがいいかもな」
「ってか、この騒ぎで馬が、怯えてんじゃねえのか。誰か、厩舎見に行ってんのか?」
「第2隊がとっくに行ったぜ。あいつら馬ラブだもん。ちなみに主公への報告は第2隊長が行った」
「よっしゃ。おい、奇数!第3、5、7、9――11から15まで連れて予定通り夜警についとけ!明かり持って来い!たいまつ燃やせ。大工道具調達して来い。ーーーーー取りかかんぜ」



始まった大騒ぎに趙雲は髪を掻き、軍師に向き直った。
「大丈夫です、お忘れください。朝には元に戻っています」
「・・・しばらく、ここで見ていては駄目でしょうか」
笑いをこらえるように、諸葛亮が言う。
「あなたの隊の頼もしい奮闘を、見ていたい」
「駄目です」
趙雲はにべもなく言い切り、軍師の腕を取って、歩き出す。
「あなたは、茶を飲んでさっさと寝てください」
「将軍は戻られるのですか・・・?」
「いえ――」
趙雲はちらと少し下にある白面を見た。
「茶も、牀も、一緒に、とお誘いいただいたと思いましたが?」
「なんとなく、寝れない気がします。気が昂ぶってしまって」
「子守唄でも歌って差し上げましょうか」
軍師は目を丸くして、涼やかに笑った。
「・・・・趙子龍の子守唄など聞いたら、ますます眠れなくなりそうです」
下を向いて笑みを押し隠す襟足、うなじの付け根に、薄くなった紅い痕が見えた。

今回の騒動の根源―――ウワサの元・・・・・


これがほんとうに誰かがつけた情痕だとしたら、自分は何としただろう。
・・・・・何とも、しないだろう。
趙子龍の守るものに手を出す愚か者は陣営にはおるまいが、彼が惹かれたら別なのだ。

「劉軍にいると、毎日いろんなことがありすぎて、時間が飛ぶように過ぎていきます。・・・・室に戻り、まずは沈静に効く茶を、煮ましょうか」

「ご自由に」

並んで歩みながら、ふと心底が小さくざわめいた気がして、趙雲は夜空を振り仰いだ。

 







【補足】<できてない趙孔における趙雲の部隊についてのねつ造設定>
(勝手な設定なので真面目に読まなくていいですが。あと、歴史に詳しい方の「ねえよ」の突っ込みもノーサンキューで)

趙雲さんの部隊は新野時代で800人、全員騎馬兵。この800騎が趙雲指揮下の部下で、戦の時はこれに1〜3千くらいの歩兵がフレキシブルな感じにくっついてくる。
800の中でも、25人ずつの1〜10までの部隊250人が精鋭。正式名称は「第〇卒隊」だけど、適当に第1!とか2番!とかって呼ばれてる。1から順番に趙雲の側にいる感じ。
この第1卒隊〜第10卒隊はいつも趙雲と戦ってて、強い上に、めちゃくちゃ融通の利く、なんかすごい要領のいい人たち。
奇襲夜襲大得意、護衛もオッケー、突撃どんとこい、土木工事も実は得意。
劉軍の中でも際立って若手ばっかり。いっつも戦場の最前線、いちばん危険なところにいる。 遊撃部隊になることが多いので、各自の身体能力も判断能力もめちゃ高く、各部隊で独立して動くこともできるし、連動することもできる。
各部隊長同士がいかがわしく仲が良いのが希望。(つか全員総ホモでOK)

(2014/6/22)

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