月下香  趙孔(無双)

 


趙子龍はいそがしいひとだ。

戦と正式な兵の訓練以外の軍務、たとえば災害時の民への対応、賊の討伐、護衛。
日常の城の警護、夜間の警護、宴などの特別な時の警護も。
そういった細かく面倒な仕事のほとんどすべてを請け負うのが趙雲であり、彼の軍の兵卒だ。

加えて、劉備の用、張飛の頼みなどを受けることもよくある。
だから彼はとてもいそがしい・・・はずだ。


だのに現れた彼は、疲れた様子をまるで、見せない。
これまでも見せたことはなかった。

きり、と眼底に力のこもった眼差しをし、たとえ鎧を脱いでくつろいだ様相をしていようとも、長身の体躯から武人らしい緊迫を落とすことはない。

端麗といえる容貌は彼の芯から発される武威によって引き締まり、だのに、向けられる眼差しは、そらおそろしくなるほど優艶である。

長身からかもし出される武の気配と、そして包み込まれるような眼差しに遭うたび、身の置き所のない心地がする・・・・。

「・・・孔明、殿」

呼ばれて諸葛亮は目を伏せる。
彼がその呼称をつかうのは、二人きりの時だけだ。

それも、ただ他者がいなくて二人、というのではなく。
意図的に二人が二人きりになったときにのみ、つかわれる。

「食事は、取られましたか」

諸葛亮の無言を責めることもなく、声の調子は変わらない。

「・・・・はい」

「本当に?」

「ええ」

うそではない。
毎日のように発される問いに応えるため、以前はなおざりにしていた食事を、かなりきちんと取るようになった。

ゆっくりと近づいた彼が、諸葛亮を怯えさせないやり方で手を伸ばしてくる。
簡素に上げただけの頭頂の結いを外され。纏めていた髪がさらりと解き流される。
流れた髪が撫で下ろされ、頭部のうしろに手が当てられた。
やっと、眼が合う。

「口づけても?」

身の置き所の無い羞恥を感じた諸葛亮は、やっと合わせた視線を外した。

「・・・・聞かないで下さい」

「不安、なのです」

「・・・あなたが?」

武も、容姿も、忠義も、世評も。なにひとつ欠けたもののなさそうな彼が。

「お嫌であられるのではないか、・・・嫌われてしまうのではないか、と」

「・・・・・そのような」

それはこちらの方なのではないだろうか。
いつまでも慣れず、心を揺らし、口を合わせるだけでもこのように面倒な手順を彼に踏ませている。

今も諸葛亮はやわらかく笑むことも、冗談だとしても不安だと云っている彼をやわらげる言葉一つ発することもない。

「そのようなこと・・・」

「ない、と仰っていただけますか」

「どちらかというと、私のほうではないでしょうか」

「―――あなたの?」

ゆるやかに髪を梳いていた彼の大きな手の動きがとまった。

「私は何か、あなたを不安にさせておりますか・・・・」

低まった声音に、背が引き攣った。
身を引こうとするより先に腰にまわった腕に引き寄せられ、指先で顎をとられて上向かされた。

「身を許されたことを、後悔しておいでか」

「い、・・・いいえ」

どうしてここで、是となど云えようか。

「私は、・・・・あなたを、」

云い掛けて最後まで云えずに言葉がつまった。

「あなたを・・・・・・・・・・・・・」

こんな簡単なことを、云うのが何故難しいのか。
云えず、口ごもり、視線を伏せた。


「・・・あなたこそ、こんなものを相手にして嫌にならないのですか」

「私が、あなたを、嫌に?」

さも面白いことを聞いたとでもいうような、笑みを含んだ声が耳元で響いた。

「なるわけがありません。お疑いなら、どのような形でも、試されるといい」

低かった声音は元通りに穏やかに、いや穏やかな中に言い知れぬ艶を含んでいる。

「言葉にするのが難しければ、言わなくても良いのです。無理に言わせようなど、おそれ多い。ただ、・・・お許しは、いただきたい」

おそれ多い、などと。

いかに地位や立場が上であろうと、分が悪いのは諸葛亮のほうだ。
軍内では孤立しており、劉備以外のすべてから嫌われている。

おまけに・・・・・劉備の寵愛を受けていたという噂のせいで、諸葛亮を嬖妾のように見る輩は多い。
趙雲の守護なしに外を歩いたら、いつ身を引き裂かれてもおかしくない状況なのだ


「・・・・許して、おります、すべて」

震える声でささやくと、苦笑混じりの艶と深みのある声で返された。

「すべてをお許しいただいているようには、見えません。すべてを望むわけでもありませんが・・・・・口づけをお許しいただけるなら、眼を、閉じてください・・・」

諸葛亮は息を吸い込み、眼を閉じた。

頬に手のひらの体温を感じて、唇になにかが重なった。
触れてすぐに離れ、ふたたび触れたあとはゆるやかに重なったままだった。

口づけを受けながら徐々に、固い体躯のほうに引き寄せられていく。急がない、体温を移すようなやり方に、諸葛亮の身体からすこしずつ強張りがとけてゆく。

だけど芯のほうではまだ硬質なものが残っており、舌が唇を分け入った時にはびくりと背が引き攣った。

「・・・・っ」

それから口付けが深まるのは早かった。
引き攣った背をなだめるように撫でながらも、そして合わさる唇さえも柔らかくありながら、熱を移すように激しくなる。

苦しくなった諸葛亮は眉根を寄せ、唇をずらして息を継いだ。

「孔明殿・・・・・」

やわらかく呼ばれて、諸葛亮はうっすらと目を開け、どきりと心の臓を跳ねさせる。
精悍な顔にはふわりとした笑みが浮かんでいる。
見られていることに気づいたのか趙雲が視線を上げ、目の形を微笑ませた。

「どうなさいました・・・?」

なんて表情をしているのか。・・・なんて眼で見るのか。
艶やかでありながら優しい瞳に囚われそうになる。

また唇が合わされて深く口づけられ、舌が絡んだ。
諸葛亮の硬質な肌が、うっすらと朱に染まりはじめる。

「・・ぁ・・・・ふ・・っ」

強引ではないが、粘膜を舐められ、舌が奥へと入り込んでくる。
思わずこぼれた吐息をも、呑み込まれた。

脳芯がしびれ、身体が熱を帯びるのが感じられた。

「・・・・・」

趙雲は、公務上では諸葛亮の護衛だ。
だからなのか、行為の際はささいなことにも許しを求める。

素直に彼を求められず、言葉にも態度にも表すことができない諸葛亮は、許しを請う彼の言葉に小さなうなづきを返すことで、彼の求めに応えてきた。
自ら求めた事は一度もない。

深くなる口づけに身体から力が抜けた諸葛亮は、乱れた息を吐き、か細くつぶやいた。

「趙雲・・・どの」

「・・・はい」

返答ともにすこし乱れた熱い吐息が耳朶に吹きかかる。
背に、快楽としかいえない痺れが走り抜けた。

耳朶に口づけられ、反り返った首筋にも唇が這う。襟が緩められ、胸もとに指先が忍び入った。

「ん・・・っ」

抑えた声を漏らし、身体をのけぞらせた諸葛亮の耳にかすれた声が注ぎ込まれる。

「口付けだけのお許しでしたか、孔明殿・・・?この先に進んでも・・・?」

眼を閉じたまま諸葛亮は、小さくうなづく。
瞬間ふわりと身体が浮き、抱き上げられたまま隣室への運ばれ、寝台に優しく降ろされた。

腰帯が解かれ、重ねた衣を落とされる。
肌をさらされて、羞恥がよみがえった。
上着だけを脱ぎ捨てた趙雲が、ゆるやかに覆いかぶさってくる。

「・・・あなたは、脱がないのですか」

思えば、彼はいつも脱がない気がする。
身体をつなぎ合わせる時は肌同士が合わされているのだが、その前にある長い時間、薄いとはいえ単衣を着たままだ。

「―――あなたと肌を合わせると、抑えがきかなくなりそうですので」

「何の・・・・?」

意外なこと聞かれたというように眉を少し上げ、趙雲が苦さも含んだ笑みをこぼした。

「・・・私が木石ではないことを、御身は知っておられるでしょうに」

下袴をつけたままの下肢を押し当てられ、諸葛亮は息を呑む。
そこは明らかな雄の昂ぶりを示していた。

「あなたが欲しくて、欲しくて・・・・このように」

苦笑を深めた彼は、諸葛亮の胸に顔を埋めた。

「あ・・・っ」

薄朱の尖りを舌先で甘く舐められ、控えめにしていたそこは膨らみを増した。
唇で優しく、執拗に愛撫される。

「あ・・・、んっ」

色味を増してきた朱粒を舐めながら、武人が両脚のあいだに身体を割り込ませる。

薄手の衣服を着けたままの体躯が腹部に、脚の間に擦れ、自分が裸身であることを意識するとともに、空気にさらされた自分の下肢に、布に包まれた彼の昂ぶりがときおり触れるのが、もどかしくも淫らな刺激になった。

「・・・衣を脱いで・・・いただくわけには、いきませんか・・・?」

乱した息の下からささやくと、顔を上げた彼にのぞきこまれた。
いつもなら眼を伏せるのだが、指先でやわらかく頬に触れられ、視線を合わさせられる。

「なぜですか」

「・・・・・・・・・分かりません」

ほんとうに分からなかった。羞恥のあまり言葉が出ないのではなくて。
ただ、そうして欲しいと思ったのだ。

この期におよんで甘い言葉ひとつも云えないのに、彼は不快な顔ひとつしなかった。
どころか、仕方ないというような甘美な吐息をついて身を起こし、手早く、衣を落とした。

夜気に晒された武人の躯がすぐにかぶさってくる。
膚が触れた瞬間、背から脳幹まで痺れがはしった。
武人として鍛え抜かれた、厚みのある胸。
力強い腕・・・・彼を躯を構成するものが、膚の表面を通して神経を刺すような刺激を与えてくる。


「・・・あっ」

膚が重なってからは、たくましい体躯を押し付けるように強く抱きこみ、急に飢えたように身体のあちこちをまさぐっていた彼に、奥処に指を挿し込まれた。
いつものように、慣らされているのは分かるが、いつもより遥かに性急だった。

「あ・・ぅ・・・」

高められて、意識がとろけそうになってから施されるのと異なり、狭隘な媚肉に押し入ってくる感覚が鮮明すぎた。

怯えを含ませて喉を引きつらせると、ふ、と彼の体躯から力が抜けた。

「お許しを・・・・・性急すぎました」

なだめるように頬に、こめかみに、唇を落とされる。
一度抜かれた指が、ゆっくりとふたたび埋め込まれた。

小さくうめき、それを受け入れる。
ゆるやかに埋め込まれた異物は、狭隘な柔肉を押し広げながら奥へと進み、根元まで埋まるとすこし掻きまわすように動かされた。

「ぁ・・あ・・・」

身体の奥からじわりと沁み出すものがある。
奥でしばらく蠢いていた指が、途中の壁をこするようにしながら、抜き出されていく。
耳朶に舌を這わされて身をよじると、ゆっくりとまた這入ってきていた指を締め付けたのがわかった。

「・・・っ」

息を吐いたのは、彼だった。
は、と吐き出された、熱を含んだ吐息が首筋に触れる。

それを感じると、異物に怯え、拒んでいた内壁がゆるんだのがわかった。
下腹部に熱が生まれて、指を埋め込まれて抽送を繰り返されていた肉襞が潤んで、彼の指に絡みつくのが感じられる。

中での蠢きが増し、くちゅくちゅと空気を含んだ淫らな音が羞恥を呼びこんだ。

「・・・・ん・・あ・・ぁ・・っ」

自分の唇からこぼれでるはしたない声を、とめようと思っても止まらない。

いつのまにか増やされた指が、敏感な内襞を優しくこすりながら奥へと挿し込まれ、そして拡げるように動きながら抜かれる。
刺激に首を振りながら、両脚は閉じられずにゆるんで開かれたまま・・・

埋め込まれた指が抽送をするのにもう何の抵抗もない。
なめらかに抜き差しが繰り返され、諸葛亮ののどから溢れる声も甘美に潤んだものになっていた。

「よろしい・・・ですか・・・?」

耳元に、かすれた吐息だけでささやかれる。
自身も荒い息をつきながら、それでも此の方の意思を聞いてくれる、優しい人・・・・

こちらも吐息だけでうなづくと、奥の襞を慰んでいた指を抜かれた。
濡れた其処に熱いものが押し当てられ、ゆっくりと彼が入ってくる。
熱い。

「・・・・・動きます・・よ」

根元まで自身を埋め込んだ趙雲は、熱っぽくつぶやくと、腰を揺すって中から諸葛亮を翻弄し始めた。

「あ、ああ・・・んっ・・・・ぁ、あ」

掻き混ぜられ、内からあふれる蜜と絡まって中をこすられる感覚に、喘ぎしか出ない。
ゆるやかに抜き差しを繰り返され、なかがゆるむと徐々に大きく。
羞恥が、快感に塗りかえられていく。

最奥を突かれるともう駄目だった。
そこが好いことが彼に知られているのか、趙雲はそこばかりに彼自身を押し当て、抉りこんで来る。

「んんっ!ぁああ、んっ・・・あぁ、あ!」

指でされてもたまらなかったのに、くらべるべくもない熱と質量を持つものに突かれて、快感の炎に煽られる
もっとも敏感な核のようなところをくりかえし突かれて、諸葛亮は白い身体をびくびくと震わせた。

焼けるような体温が重なり、はげしく動かされている部分から熱く おそろしいほど快美な感覚が湧き出で、全身を甘く駆け巡った。
幾度も挿しこまれまた出ていくものが、思考を奪い、意識を霞ませていく。

「ぁん・・あっ・・・あっ」

身も世もなく喘いでいると、ぐ、と奥まで自身を挿しこんできた彼に強く掻き抱かれた。

肌に触れる彼の、鍛錬により鍛えられた肌が熱を帯び、汗ばんでいる。
吐く息も荒く、熱い。
武にすぐれ忠義に厚く、瑕疵のどこにもない彼が、こんなふうに――・・・

抱き込まれたまま動く速度が速まり、絶頂感がこみ上げ、諸葛亮は泣くように喘いだ。

「孔明・・どの・・・っ」

抜けてしまう、というところまで抜かれ、最奥まで貫かれた。そのまま奥ではげしく動かれる。
その直後に字を呼ばれ、感覚が一気に上へと駆け上がった。

「・・っ・趙雲・・どのっ・・・・もうっ、もう・・・」
「ええ・・・一緒に」

脳芯が焼ききれるような衝撃に灼かれて、全身が震え。
彼の雄の放出を体の内奥で感じた。













「お辛くは、ありませんでしたか・・・・?」
「・・・はい」
「では、好かった・・・・ですか?」
身体を拭われながら問われても、応えられなかった。
「・・・・・・その・・ようなこと」
聞かないで下さい。
甘美にゆるんでどこにも力が入らなくなっていた身体に羞恥が帰ってくる。

気配だけで笑みをもらした彼に、抱き寄せられた。
大事な・・・・・この上もなく大切なものを抱くように強く、繊細に、腕を回される。

「・・・・・・私は、ひとを好きになったことがありませんでしたので。
いとしい人にどう接すればよいか、分からないのです」

それでつい聞いてしまうのです。

「触れてはならなかったのだと、思います。 あなたの立場とただの一将である身の程を思えば・・・
だが・・・・・・・あなたが欲しかったのです。どうしても」

お許しください、と口づけられた。






寝台に落ち着き、掛け布を分け合って横たわる。

諸葛亮は、夜半、目覚めた。
しずかに身を起こし、隣を見ると、趙雲が眠っていた。
彼の寝顔は、力強く精悍であり、美しくもあり・・・・・・・寝ているせいかほんのすこしあどけなくもあった。

・・・・・・私も。
あなた以外のひとをすきになったことがなく・・・・・
・・・・・・・・・どうしたらよいか、分からないのです・・・・

指先を伸ばして、彼の腕に触れる。
いつも守ってくれる、腕、存在・・・・・・

いまは、望まれるまま抱かれるくらいしかできない。
けど・・・・・

「言葉にできるまで、もうすこしだけ待って――ください・・・・・・」

諸葛亮は彼のそばに横たわり、目を閉じた。

 







姫コメです・・・・・実は女人です・・・・・・が、さすがに直接女人描写はあまりにも恥ずかしく。
もう10年以上くだらぬ小説を書いてますが、男女カプのえろ書いたことない。

(2014/6/28)

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