投果と宝玉  趙孔(無双)

 



数日後。
孔明は果実と宝玉を用意した。玉は迷ったすえにすべらかな白い珠をえらび、特別に丈夫な織り方をしているという綾紐に通し、金具で補強する細工をしてもらった。
精強と胆力を誇る武人である彼が普段使いに出来るように。
それを懐におさめて、ゆったりと歩いて移動し、彼の居室の前に立った。夜の警護を終えた将が戻ってくるのを知っていたから。

やがて生真面目な表情をした蒼将が姿を見せた。
自室の前にいる軍師を目にして、彼は目を細めた。少し照れたような、甘い微笑を口端に浮かべる。
無言で、彼は自室へと入った。拒まれなかったので孔明も後から続く。
初めてではなかったが、慣れているともまだ言い難い趙雲の居室。

彼は窓を開いた。清涼な朝の気がいっきに入り込んでくる。
つめたい空気を吸い込んで孔明は、ふところにいだいていたものを取り出して静かに卓へと置いた。
武人が振り返る。肩の広い長身。艶のある黒髪。若い武神かとみまがう見事な武装。



妻になれる身ではない。
だけど共に在ることのせめてもの、証として。
わたしはあなたに、果実と宝玉を贈る。

「趙将軍――趙、子龍殿。わたしはあなたに、求愛をいたします」

ふりそそぐ凛冽たる冬の朝日のなかで、孔明はゆっくりと微笑んだ。

 









(2021/5/1)

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