梔子 趙×姫孔

 




「なんだと」
従者に耳打ちされて趙雲は思わず声を上げ、刃をつぶした直槍を下ろした。
「いかがされた、趙将軍」
「――屋敷に、客人が来ておられるらしく、」
「その様子では、よほど大事な客であられるのか」
一瞬口をつぐんだ趙雲は、目を伏せてかすかな含羞を浮かべた。
「・・・この上なく」
「はは、想い人でも訪ねて参ったのかな。いや、野暮な詮索はすまい。調練はこれまでにいたそう。まことに有意義な時間でござった。礼を申します」

調練用の獲物をおろした相手が、丁重な拱手をする。
趙雲もていねいな軍礼をして頭を下げた。


馬を飛ばして屋敷に戻ると、待ち構えたように家僕が飛び出してくる。
「どちらに、おられる」
「将軍の居室にお通ししております。不在ならば帰りますと仰せでありましたが、無理にお引き止めしてしまいました。無礼でありましたでしょうか」
腰を曲げて恐縮する家僕を、よくやったとねぎらう。


荒々しくならないよう床を踏み、私室の扉を開けた。
「軍、――・・・」
出しかけた声を趙雲は抑えた。

西日が射し、部屋は薄紅色の美しいひかりに包まれている。
卓上に重ねた自らの指に顔をうつむけて、世にも稀な智者が眠っていた。
つくりものめいた白皙の容貌と、きよらかな白袍が、夕暮れ空の茜色に染まっている。
やすらいだ静かな寝顔が、趙雲の言葉を奪った。


それに、かの智者の両肩を覆っているのは、己の肩衣ではあるまいか。
床几の背に掛け置いていた気がする。
どこか尖ったようなところのある容貌がやわらかくほどけているのは、まさか、・・・私のものに包まれているから、だろうか・・

いとしさのあまり息を呑み、しばらく放心したように立ち止まっていたが、室に入り、音を立てずに扉をしめる。


どうしようかと考えながら近寄ると、気配に気づいたように、まぶたが持ち上がった。
けして驚かせたりはしないよう、やわらかい音律で趙雲は声を発した。

「お目覚めになられましたか、軍師殿」
「・・・私は、眠っていましたか。失礼をいたしました」
「いいえ、私のほうこそお待たせして申し訳ない。主公に援軍を申し出る豪族と急遽、模擬戦にて調練を行っておりました」

思い当たることがあったのだろう、ああ、と頷き、すこし微笑んだ。

「勝ちましたか?」
「一応は」
「そうでしょうね」

笑みがふと深くなる。
表情のやわらかさに見惚れていると、淡色のくちびるが花のようにほころんだ。

「あなたは、お強いから・・・趙雲殿」

たまらなくなり、趙雲は片手で顔を覆った。


「いかがなさいました?」
「・・いえ」

あなたの寝顔を見ながら、考えた。
目覚められたら、如何しようか、と。
まだ明るいならば、我が馬にお乗せして、気晴らしに少し駆けてもよい。
もし日が落ちているのならば、夕餉を共にして、星が出るのを待つのもよい、と・・・だというのに、

・・・あなたが欲しくて、たまらない・・



諸葛亮もそうであろうが、趙雲も色事に対する興味が薄い。
―――いや、薄かった。

なのに、どうだ。
自制が難しい。自制できなくはないが、難しい。


まだ落日までにはすこしの間がある。
このような時分から牀台にお連れしたら、性急で粗暴な男だと思われてしまうだろうか。
だけど、このような早い宵にふたりきりになれることは、めったにないことだ・・・


趙雲は、軍師の痩身をおおう己の軍衣ごと、静かに抱き寄せた。
「なぜ、これを・・?」
「・・・寒かったので、お借りしました」
目を伏せて恥じらいを漂わせ、かすかな声でつけくわえる。
「というのは、建前で、・・ほんとうは、・・・・あなたのものに包まれると、安らぐ気がして」

どうしてか。
どうして、この人のつむぐ言葉ひとつに、こうも心が揺れるのか。


「・・・孔明殿」
呼び方を、わざと変えた。それで意図は伝わる。
視線が交わるのさえ、出会った当初と比べれば、格段の進歩だ。

「どうして、ここへ」
想われている。
でなければ、ひとりで男の屋敷を訪れたりなんて、けっしてしない。

すこしためらう仕草のあとで、袖から書簡を出した。
「・・・これは?」
「軍令書です」
「・・・・」
趙雲は内心でひどくがっかりした。咄嗟に言葉が出ない。
軍用があって、訪れただけだったのか。

内心の落胆を隠して、書を受け取る。
近いうちに戦はないはずだ。とすれば、手ずから屋敷に届けるくらい急を要する、極秘の任務か。

表情を消し、一瞬にして武人としての緊迫をまとわせた趙雲の耳に、きまずそうな小声が届く。

「軍令書も、建前です」

「、―――は?」

さすがに趙雲も理解できず、まじまじと白皙を見下ろす。
視線が合わないまま・・・諸葛亮はひどく目をそらしたままで、床の模様に目をさまよわせながら、言った。

「仕事に一区切りがつきまして。周りの勧めもあり、数日休むことにしました。それで・・・・」
「それで?」
「あなたに、お会いしたく、なり、・・・」









******





湯殿を軍師に譲り、自らは水浴を済ませた趙雲は、濡れた髪を布でかたくしぼり、洗い立ての寝衣を身につけ、軍令書を紐解いた。

単なる隊の編成案だ。
緊急でもなければ、機密でもない。

巻き戻した薄い竹簡をこつと額に当てる。

軍令書は、建前
あの人は
数日、休みで
趙雲に、会いたくなった、・・と

水浴で引き締まった膚の表面に、かっと熱がともる。
顔も熱い。
いま、諸葛亮は沐浴をしている。
まだしばらく掛かるだろうか。
だけど、そのうちこの居室に現れる。沐浴を終えた、姿で。

声が掛かり、盆を持った家僕が入ってくる。
「・・・・趙将軍」
「ん?」
「趙将軍より端整な方はこの世にあるまいと、ひそかに思うておりましたが。あの方は、なんといいますか」
「驚いたか」
「この世のものではないような気が、します」
「どうされている」
「沐浴を終えられたかと。妻がお着替えの世話を」
「着替え、――」
着替えが、この家に、あるわけがない。
目で問うと、家僕が頷いた。
「主公から賜った上絹を、仕立てたまま大切に仕舞っておりました。それを」
「そうか」
気が利く、とつぶやくと、口端で笑んだ家僕が頭を下げる。
卓に水差しと椀がのった盆を置いて、出ていくのと入れ替わるように、家僕の妻女が現れ、その後ろから。


真新しい絹の衣を着た軍師は、淡いひかりをまとっているようだった。
白い硬質な肌は上気して、わずかに赤みがさしている。
そのかすかな赤みによって、しずやかでうつくしい気配に、いろめいた雰囲気がまじっていて、趙雲は内心で息を呑んだ。

主君から賜り、家人が趙雲の丈で仕立てた衣だ。
長さはそうおかしくない。動きやすさを優先する武官の衣は、裾を上で切るゆえ。そのほかは、やはり少し、大きい。
合わせがあやうくゆるやかで、袖の長さも余って、手の先まで隠れている。

なにより、趙雲であれば一重で留める帯が、二重に巻かれ結ばれて、それでも余って垂らされている。

細腰であるのは、知っていた。
だから、抱くたびに、壊しそうだとひそやかな危惧を―――

考えただけで顔が熱を持つ。それでいて視線が外せない。

「身ひとつで来てしまい、ご迷惑を。身支度のことなど、考えもせず」

逸れていた視線が交わって、一瞬後にはまた離れた。

「そのように、見られますと」
「見るな、と?」
それは、難しい。
己の衣を着た諸葛亮は、いつも通りにうつくしく、いつもよりはるかに可愛らしく、それ以上に、あやうい。

触れなば落ちん風情とでもいうのか。
すこし触れただけで、花びらを落としそうだ。

遠慮がちに寝所を見渡した諸葛亮は、淡い色のくちびるを開き、悩ましげな吐息をこぼした。

「・・先ほどいただいた夕餉に、その、何か、はいっていませんよね」
「――何か、とは」
「その、こう・・・・・・・・情を、かきたてるような」

趙雲は驚き、あぜんとした。
「私が、軍師殿に、何か、おかしなものを盛った、と?まさか」

緊張した様子で袖を上げた諸葛亮は、白い指先をくちびるに当てた。大きすぎる袖がさらりと音を立て、肘までもがあらわになる。

「居室もそうでしたが、寝所は。とても、あなたの気配が濃くて、この衣も、あなたのもので、・・・落ち着かなくて」

いつもは、趙雲が諸葛亮の寝所へと行く。
そうしなければ、何も、ことが進まない。
諸葛亮から求めることはないから。

諸葛亮の居室も、寝所も、当然、諸葛亮の気配が濃く漂う。
こいしいその気配と存在のすべてにあてられて、趙雲は情を高め、諸葛亮を抱く。

まさか、同じように、昂ぶっておられる、と?
趙雲の気配にあてられて。


「あなたを、抱きたい。お許しを、いただけますか」

白い頬に手を伸ばすと、困ったように眉が寄った。

「この状況で、聞きますか・・」

単身で情人の屋敷を訪れ、沐浴まで済ませた。この状況で、しないほうがおかしい。

抱き寄せた身体から感じる体温は、いつもより高い。
そっと触れ合わせたくちびるも、また。

上等の白絹は、肌を隠し、身体の線をも隠している。
その気配はひそやかで、沐浴のために湿りけをふくんだ髪ともあいまって、雨中の濃い緑陰に咲く白い花のようだ。
清雅でありながら、芳醇に香り立つ花のように、どこか官能的でもある。

静かな口づけを交わしながら、白衣におおわれた背を抱いた。
己の屋敷に居て、己の衣をまとっていても、己のものであるはずのない、人だ。
その身も、時間も、心さえも、すべてを自分のものには出来るはずのない人。
その人が、屋敷にひとりで訪ねてきて、趙雲の帰りを待ち。
いま、趙雲の腕の中に在る。


「抑えが、・・いつもより、効かない、かもしれません。御嫌でしたら、おっしゃってください」

寝台へと運び、つぶやくと、一度ゆっくりと瞬いてから、返答があった。

「あなたは、やはり、いつも抑えておられるのですね」
「当たり前です」
当たり前だ。趙雲の我のままに抱けるような人ではない。
本来は、抱きたいと思うことすら不遜だ。


「数日は、休みですので。あなたの意のままに、していただいても、・・・」
言いかけて、濃く欲情した趙雲の目の色に気付いたものか、怯えるように身じろいで、小声で言い添える。

「・・・壊さない、範囲で」







********************************





趙雲の屋敷は、特筆するものがない。
清潔でよく片付いているが、豪華なものや、物珍しいものは、見当たらない。
この屋敷でもっとも精美であり、稀有であるのは、主人である彼である、と諸葛亮はおもう。
きりりと引き締まった精悍な美貌を下から眺めて、諸葛亮はすくなからず緊張していた。

はじめて屋敷を訪れて、寝所に入ったのも、初めての事だ。

虎の穴に入ってしまったのだろうかと、思わなくもない。
武将の屋敷にしては素っ気ないほどに素朴な、この屋敷に住む虎は、たいそう強いが、やさしくて誠実だと知っている。

彼は、趙雲は、いかに過酷で不利な戦場であろうとも、逆に、勝利にわく戦場であろうとも、我を失うことは無い。
同じく、寝所にあっても。
彼は理性を失わない。

諸葛亮に対する気遣いであるのだろうけど。
つまるところ、手加減をしている。

手加減を、してほしくないとは、おもえない。
理性を無くした武人に身体を好きにされるのは、おそろしい。

乱雑には扱わないで欲しいが、だけど、彼の意のままに、して欲しい―――という思いも、ある。


いわば、ここは虎の巣穴のただなか。
どうされてしまうのだろうか。



緊張と同じくらい、情が高まる。
身を包むのは趙雲の衣であり、寝所をとりまくすべてに、趙雲の気配が色濃く漂っている。

勇ましくも凛々しい切れ長の黒眸に浮かぶ、色めいて艶やかな欲情を目にして、諸葛亮もまた、昂ぶった。

趙雲の唇がゆっくりと首筋に落ちてきて、重い体躯が重なってくる。
それだけで甘い痺れが広がった。

首や鎖骨のうすい皮膚にかるい口づけを落としながら、強靭な手が、衣の上から諸葛亮の身体に触れる。

腕からわき腹に手のひらがすべり、背を上から下へとたどった手が、腰から腿を繰り返し撫でる。衣の上から、身体の造形を確かめるように、ゆっくりと。

諸葛亮には大きすぎてゆるんだ襟の合わせに降りてきた唇が辿るのは、首のあたりと鎖骨で、ふと、もどかしい、という思いがわいた。すべらかな絹の上をすべる手指は心地よいのに、物足らない。

意のままに――趙雲の好きにしていいと、言った。
趙雲が乱暴にことを運ぶとは思えなかったが、もうすこし性急に、激しいことをされるかと、思っていた。

というのに趙雲の愛撫はいつにまして優しく、ゆったりとしていて、諸葛亮は、焦りに似たもどかしさと高まる熱を、持て余しはじめていた。

首のつけねのあたりを、じゅうと強く吸われて、狼狽する。
「・・・趙雲、殿」
きっと、痕が残る。
「官服で、隠せるでしょう?」
艶やかに笑まれて、声を失う。

すこし衣をはだけて、胸元にも、同じようにされた。
一度ではなく、幾度も強く吸われて、痕を散らされる。
かすかな痛みとむずかゆい刺激に、切ない息がこぼれた。

「隠しておいて、ください。この痕、私以外には見せないように、・・・孔明殿」
「・・・」
黒い眸に覗きこまれて、そのまなざしに宿る熱と、なにか願いのようなもの・・・これは、彼の、独占欲、なのだろうか。
普段は颯爽と軍務をこなす蒼将がみせる色めいた欲に、心の臓がどくりと音を立てた。呼吸が震える。

こういう痕は、どのくらいの間、残るのだろうか。
諸葛亮の官服は、身体の線を隠すために、ことさら堅苦しく仕立ててある。
あの重い白袍のなかに、いくつもの赤い情痕を覆い隠しているさまを想像すると、戸惑いとともに甘い熱が生じて、全身へと流れた。

自らのつけた赤い痕をみて目を細めた趙雲が息を吐き、身をかがめてきた。
唇が重なる。
口づけはすこしずつ深くなった。求められて口を開くと、歯の合間から趙雲の舌がさしこまれて、口内をさぐってくる。

「・・・っ」
「孔明、どの・・・」
諸葛亮のもらした吐息も乱れているが、趙雲の声もかすれている。
兵を指揮し、主君に忠を誓う、凛として、力のこもった声が、熱く潤んで、かすれていて。
身体が、内側から溶けていきそうだ・・。

揺らぐ理性をつなぎとめたくて、そっと手を伸ばして、彼の背に流れる髪に手を通した。諸葛亮の髪より堅くて、わずかに癖がある。

髪ごと頭部を引き寄せると、はぁと息を吐く気配がした。
耳朶を舐められて、身をよじる。耳の縁を舐められて、耳朶を噛まれ・・・けして荒々しくはない、やさしい愛撫であるのに、耳に届く趙雲の荒く乱れた息づかいに、彼の欲情を感じて、下肢に熱が集まった。
・・・このように、ゆるやかにしなくとも、よいのに、どうして。

ようやく衣がはだけられ、素肌をまさぐられる。
美しい絹が左右に分けられ、胸の突起を含まれて、諸葛亮はのけぞった。愛撫を待ちかねて、ぴんと尖って敏感になっているそこに、唐突に加えられた刺激は大きく、諸葛亮の口から声がもれた。

ずっとじらされていたのに、今度はそこばかりをいじめられる。
「ああっ・・・んっ、だめ・・あっ」
繊細に舐められ、舌で転がされ、おもわせぶりに吸われる。動きが変わるたびに、声が上がって息が乱れた。
固くしこって敏感になったそこを歯でやわらかく噛まれた時には、はしたない声をあげてしまった。
「あ・・、んぅ――っ」
されればされるほど過敏になって、繊細な愛撫にも反応してしまうし、腰奥にもどかしい熱が集まっていく。

片方を舌で舐められ、片方を指で摘まれて、こするように合わされて、繰り返し与えられる快感が、身体の芯を甘く溶かしていく。

乱れた衣の隙間に手が挿し込まれて、諸葛亮はぎゅっと目を閉じ、顔をそむけた。
足のつけ根に指が忍びこんで、秘所をさぐられる。
くちゅりと淫靡な音が響いた。
「あっ――・・・!」
咄嗟に足を閉じようとしても無駄で、趙雲の指が、中に挿し込まれる。快感が突き抜けた。
快楽に戸惑って頭部を、敷布にこすりつける。
指をさしこまれたそこは、さして抵抗もなく受け入れて、くちゅりと甘い水音を響かせる。

「あ、・・・」
指先に蜜をからめるように繊細に動いていた指がそっと抜かれて、諸葛亮はおそるおそる目を開け、濡れた指を口元にかざした趙雲と目が合った。
目が合ったまま、趙雲は舌を出し、指にからみつく愛液を舐めた。
中指を舐めたことから、先程自分の中に入っていたのは、その指であるのだろう。

「――――、・・・」
何か言いたいが、言葉にならない。
逃げ出したいような衝動に駆られて、無意識に衣を搔き寄せたが、ふと、気付いた。
この衣は、趙雲のものだ。それも真新しく、上等の・・。
「衣を、汚し・・・」

脱いでしまえばよかったのか。いつも諸葛亮は閨では着衣の脱ぎ着さえも趙雲に任せきりで、そんなこと考えもしなかったが。

「かまいません」
うろたえる諸葛亮に、趙雲は、微笑を浮かべてみせた。
「かまいません。もっと、汚しても・・・孔明どの」
凄艶な微笑の色気と、言われた言葉の恥ずかしさに眩暈がしそうになる。


それからも趙雲の指と舌の動きにほんろうされた。
下肢のつけ根に手が触れて、びくりと腰が震える。直截な快楽を待ち望んで蜜を湛えている箇所には、いっこうに触れてもらえない。触れられるたび、感じやすくなった肌から淫らなしびれが広がる。

身の置きどころがなくなるくらい全身の肌に触れられて、もうろうとしていると、ふと、趙雲の頭部が下に沈んだ。
趙雲は諸葛亮の腿に手をかけると、それをそっと左右に開く。
「・・・っ―――や、やめ、・・・あ、」
なかば呆然として、首を振った。だが、下肢に顔を埋めた男は、秘部に舌を這わせはじめる。

執拗な愛撫によってしとどに濡れている箇所は、広げられ、夜気にさらされて、露に濡れて夜風に揺れる花のように震えた。

濡れているところを舌でたどられて、与えられる快感が、身体を芯から溶かしてゆく。
口元を手で覆って声を殺そうとしたが、息は熱くてひどく乱れた。舌が這うたび、身体のうちから蜜のような液がこぼれでてくる。

腰を逃がそうとしても唇が秘裂を這い、熱い舌が襞の内側に這入りこもうとする。
唇と舌がみだりがましい水音を立てるさなか、趙雲の指が、ひかえめに隠れている陰核に触れた。

「あ、だめ、あ・・・あ――」
あまりにも強い刺激に、濡れた声が上がった。

「あっ、んんっ・・・や、いやっ、あぁっ」
どちらかだけでも十分につよい刺激なのに、両方を一度にされると感じ過ぎてしまう。
秘裂の縁を舐められ、中にも舌を差し込まれながら、果実のように赤味のある花芽は指で優しく摘まれ、はさんだ指で繊細に擦られる。
同時に与えられる快楽が強すぎて、身体が熱く乱れた諸葛亮は、高く啼いた。甘い熱が急速に高まる。

「あ、ぁ、だめ、あ、――」
こらえようとしても駄目だった。腰奥がうずいてきゅうと締まり、背を仰け反らせて達する。

達したというのに、愛撫はおさまらなくて、諸葛亮は悶えた。
とろりと溢れる蜜液を舐め、指で擦り上げていた花芽に、今度は唇が這った。

「ふ、・・う、あ、ああ」
胸の粒を愛撫するときのように、尖らせた舌でつつかれ、唾液をまぶすように舐められ、なぶられる。
下肢からつぎつぎとわきあがる愉悦に、じんじんと腰がうずいて、どうにかなってしまいそうだった。
ふと、花芽を唇で擦るように押しつぶされ、唇でやさしく甘噛みされる。意識が白く昇りつめた。
「ひっ、やぁ・・・あぁぁ・・!」

吐く息が熱い。立て続けに絶頂を味わった全身は高熱に浮かされたように熱くて、どこにも力が入らない。
それでいて、まだ満たされていない身体の芯がずきずきと痛いほどにうずいている。

耳朶に唇が落ちてきて、びくりと身じろいだ。
「・・耳が、紅くて、熱く」
なっている、と、そこでつぶやかれると、また熱が広がった。
趙雲が姿勢を変えて、・・いよいよ繋がるのか、とどこかほっとしたのに、大きな手は衣の内側に入りこんだだけだった。

また最初からやり直し、とでもいうように、身体の線をなぞられる。
だけどもう最初には戻れなくて、どこを触られても泣きたくなるような快楽に襲われた。
耳元に息がかかるのにも、大げさなほど身体がはねる。肌の表面を丹念にたどる柔らかな刺激にも、触れられたところから火がついて、快がはてしなくつもっていく。

やがて手指は下肢へとすべり、腿の内側を撫ではじめた。
乱れに乱れ、着ている意味のないような衣の合間に、手が忍び入ってきて、清潔な敷布に背を摺り寄せていた諸葛亮は、思わずきつく目を閉じる。
無意識に足をかたく閉じた。

「孔明、どの・・・足を、ひらいて」
羞恥と惑乱に、掻き集めた敷布をぎゅっと握りしめる。
けれど逆らえなくて、背と両脚をわななかせながら、そっと左右に膝を開いた。

指が、おそらく一本、中にはいってくる。
趙雲が、濡れた指を舐めていた記憶がよみがえって、顔が熱くなった。
あのときよりも、秘所はとろとろにとろけていて、どうしようもない快楽を呼び込んだ。

「っ・・・は、ぁ・・あ、あ、・・・っ!」
すこし浅いところを、指の腹がくりかえし行き来すると、背は弓なりにしなった。内壁をやさしくこすられると、乱れきった喘ぎがとめどもなくこぼれる。

くぷくぷと甘ったるい音が羞恥をまねくが、やめてほしいとはとても思えない。
やめてほしいどころか、もっと、ほしい。
身体の、もっと奥深いところに、感じたくてしかたがない。
願うほどに内壁がつよく指をしめつけて、腰が揺れた。指は、届くかぎりの奥まで入り込んでくるが、まだ足りない。・・・足りない。

奥まではいった指が、ゆっくりと出ていく。そしてまた奥へと沈む。
やがて二本に増えた指が、悦楽のもとを掻くように折り曲がってうごめいて、官能をひどく煽ってくる。

溺れさせるように、一方的に快を感じさせられる、その動きがもどかしくて、諸葛亮はきつくつむっていた目を開けた。
熱に、うるむ黒い双眸で、見上げる。

「・・もう、」
「―――もう、・・?」
はげしく高鳴る鼓動が耳に迫るようだ。身体の芯がとろけるように高揚して、もう、たまらなかった。

「あなたが、欲しい、のです」
諸葛亮は両手を伸ばして、片方の手をたくましい首を抱き、もう片方の手で広い肩にすがった。

もっと、ほしい。身体の奥深いところへ。
深くに、彼を感じたい。なにも、だれも、はいりこめない奥深くに。彼だけを、むかえいれたい。

快が、欲しいのではなく。・・・あなたが、欲しいのだ。


このような懇願を諸葛亮はしたことがないのだが、この時は、黒眸を熱に浮かせて潤ませて、まっすぐに見詰めて、一途に求めた。
一瞬、ひどく驚いたように目をみはった趙雲に、腰を引かれた。

「・・・私が、欲しいと――乞うて、くださるのですか」
ささやく声は熱く、そしてあふれんばかりの想いがこもっていた。
「孔明どの」
あざなを呼ばれて、身体も、心も、内側から溶けていきそうになる。

想いも、欲も、すべてが、自らに向けられているのを感じて、諸葛亮はその広い背に手を回した。
本能のままに膝を開く。
いままでゆったりとした動きが嘘のような性急さで、その合間に趙雲の下肢が割り込んでくる。

「・・よろしいですか、・・?」
切なく、懇願するように、許しを乞われた。いつも通りに。
諸葛亮は、鍛えた首と肩に触れていた両手を、広い背に回して自分のほうへと引き寄せる。
「あなたが、・・あなただけが、・・欲しいのです。趙雲どの―――」
息を呑む気配がしたあと、濡れそぼった箇所に熱いものが触れて、息を詰めた瞬間、趙雲のものがはいってきた。

「――――っ! あ・・っ、あ、ん、あぁぁ」
こぼれでる嬌声は、ことさらに甘い。
身体の奥にたまりにたまった濃密な快楽のとろみになかに、滾った怒張が沈みこんできて、背がしなった。
秘部がうごめいて、快を味わい、そのまま昇りつめようとさえするのに、趙雲は、ふと腰を引いてしまう。

「・・・・、・・や、」
より深く、彼の背にしがみついた。
「ぬ、抜かないで、・・」
「・・・壊して、しまいそう、で・・」
かすれた声で、趙雲が言った。その声で奥がぎゅうと締まってしまう。
「・・・壊れませんので、・・もっと・・深く・・欲し」
言った瞬間、ひといきに奥まで貫かれた。
「あ―――・・・っ」
すさまじくも甘い衝撃に、達してしまい、がくがくと背が震えた。
とろけた内部で締め付け、よりいっそう彼の存在を感じ、また襲いくる快の波にのまれる。

内奥がはげしく甘くうずいていて、うずきが全身に広がり、身と、心が焦げるように熱い。
せわしなく息を継ぐと、耳に、自分とは異なる息づかいが響いた。
荒くて、それでも抑えるような。

目を上げると、欲情と懇願があいまじった視線と合った。
抱き締められながら、口を合わせる。
下肢でふかく繋がり、口も合わせ。全身を隙間なく重ね合うような感覚が、震えが起きた。

抽送が始まり、はげしい律動に、息の詰まりそうな快が、くりかえし襲いくる。
ぬかるんだ秘所は何の抵抗もなく熱塊をのみこんで、ますます蜜をこぼし、趙雲の動きにあわせて淫らな水音が響いた。

敏感な内壁から蜜液が滴り、こぼれおちそうになるところを、趙雲の猛りによって、押し戻される。

「ふっ、・・・ああぁ・・あ、っ」
羞恥を感じるひまもなく、感じるところをすりあげられて、甘い声は途切れる事を知らずにこぼれた。

感じるところを小刻みに揺すられ、かと思うと、最奥まで満たされて、内側から溶かされていくよう。

「あっ・・ふっ、あ・・、・・あ、あ」
口づけは解かれていたが、かわりに手が繋がれていた。
その手を力のかぎり握りしめると、さらなる奥へとうがたれる。
とどまることなく高まる快に翻弄されるけれど、うがたれる趙雲の雄もまた質量と熱を増すばかりで、おそらく彼も快を感じている。

はげしくはされているけれど、奪われているという感覚は、まるでない。求める以上の強さで、与えられている。

熱い快美に、肉壁が脈打ち、這入りこんだものにからみつく。
諸葛亮の腰は無意識にみだらにくねり、その動きがさらなる快をまねいた。

ぎりぎりまで引き抜かれたものが最奥を突き、あまりの快に逃げようとするが、繋いだ手と全身で動けなくされて、奥まで呑み込まされた。

「あっ、ああっ、あ、んっ・・・」
「・・こうめい、どの」
「ふ、・・ぅ、あ、ああ、あぁ―――――」
性感帯を幾度も突かれてうごめかされて、痙攣するように身体を揺すって絶頂した諸葛亮は、趙雲のものを内壁で圧迫しながら、背をそらした。
蜜をたたえた秘所の、極まりの締めつけに身をまかせて、趙雲もまた極まり、精液を散らした。
中に放たれた熱い熱に、諸葛亮はふたたび絶頂に達し、嵐のような快美に脳が白く染まる。



言葉も無く息を継いでいると、身体を抱き起こされた。
かろうじて腕に引っ掛かっていた衣を、取り払われる。
熱くとろけた身体を抱かれ、向かい合わせに、彼の膝をまたぐような姿勢を取らされた。
なにも言う暇なく、口づけられて、力の入らない身体を厚い胸に預けていると、熱い塊が、粘膜に触れてくる。

ついさきほど精を吐き出したはずなのに、おとろえているようには思えない熱塊に、下から貫かれる。
ひと息に最奥をうがたれる恐怖に震える前に、強い腕に身体を支えられ、腰がすこし浮いて、安堵する。
いままでにない体勢に心はすこし怯んでいるのに、内壁は受け入れていて、なかをみっちりと占拠する熱い楔をしめあげた。

腰を抱く手に力がこもり、すこしずつ突き上げが強くなる。
「あ、あ、ぁあ・・ん!」
これまでの交合とはことなる異物感があるのに、上へ、上へと責め立てられると、意識が呑まれそうになる。

「ん、や、・・あ、・・ん―――っ」
もがいた足先が、敷布を搔いた。また達してしまう。
快楽に追い打ちをかけるように中を攻める勢いが増して、奥底をうがたれる。


「も、もう、・・・」
おもわず泣きごとが出そうになるが。
彼を欲しがったのは、自身の方であることを思い出す。
うやうやしいほどに優しく、丁寧な愛撫をさえぎって、彼を、求めた。

「・・お辛い、ですか」
苦しげな声音に、諸葛亮は、首を横に振った。
途端に、より深く抱擁され、腰を強く抱えこまれた。
這入りこんだものに下から掻き回されて、逞しいものに擦り上げられ、身がのけぞる。

「あぁ・・ん、・・ん、あ、・ああ・・っ」
趙雲のものにぞんぶんに突き上げられながら、胸の先端まで指と、口唇でなぶられて、相乗される快楽に、あえぎがとまらない。

ふいに、窒息しそうなほど強く抱きしめられた。
かたすぎるほど勃ちがったものが、内壁の、奥側をつよくえぐり、諸葛亮は身体を跳ね上がらせて絶頂した。
ほとんど同時に趙雲も、ひときわ奥で精を吐く。
腹底に熱いものが染みわたっていくのを感じるとともに、身体のなかでおおきな性器が脈打っているのさえ感じて、諸葛亮は全身を震わせた。







いったい何度、果てたのだろう。
そして、いったい今はいつなのか。夜なのか、朝方なのか、それとも昼を越しているのか。
優れている、と称賛されているはずの諸葛亮の頭脳は、白く霞みがかっていて、いっこうに働かない。


水を飲まされ、果実を口に含まされたのを――どちらも、口移しだった――飲み下したのは、いったいいつだったのだろう。



どれほどのあいだ繋がっていたのか。
逃げようとする身体はやさしく引き戻され、制止のために口を開けば、声どころか吐息までも奪うようにふさがれて。
幾度気をやり、彼の熱を受け止めても、終わりにはならなかった。


「孔明殿・・・お目覚めですか」
戦ともなれば万の兵卒を指揮する張りのある声が、甘くかすれている。清廉そのものの涼やかな瞳は濃い艶を含んで、獣のように深い光を放っている。


・・・いったい、いまは、いつ、なのだろう。
閨の中はうす暗いが、真っ暗ではないことから、実は、昼間なのでは。


鍛えられた腕に引き寄せられて、囲い込まれて、口を塞がれた。口づけはたちまち淫らなものになった。

「趙雲殿、あなたは、・・・軍務は、・・」
強靭な胸板に手をついてやっと離れ、息をつぎながらきれぎれに訴える。
「・・・私は、あなたの護衛です。護衛とは、お傍に、いるものですから―――」
「・・・っ」
声が気まずそうであるのは、きっと彼も、詭弁であると分かっている。
でも、言葉が終わる前にすでに肌に手が這っていた。意識をせずとも、膝が震える。

表情で乞われて、首を横にふるけれど、せつなげに、やさしく、熱く、ささやかれるともう駄目だった。

「あなたが、恋しくて、・・・欲しくて、たまらないのです。孔明殿」

拒絶の言葉を吐くとでもおもったのだろうか、せつない告白のあとで、性急な口づけで言葉をふさがれた諸葛亮は、手を伸ばして、広い背に腕を回した。

その仕草を了承としたのか、強靭な腕が閉じこめるように諸葛亮に絡みつき、また熱いもので、下肢のうろを満たされた。
もう何度目かも分からない快楽の波が襲ってくる。

あやすような、なだめるような口づけをされ、その仕草とはうらはらに、下肢を満たすものは獰猛だった。
濃艶な快楽にさらされつづけている身体は、やわらかくしなって、男の欲を受け止める。

「わたしも、・・あなたが、好きです。・・・趙、・・・子龍・・どの」

快の波にさらわれきってしまう前に、諸葛亮は、それだけを言った。











趙雲の屋敷の使用人は多くはないが、男はすべて、元は趙雲の率いる隊の兵卒である。
趙雲の気性をよく知っているし、かつては前線で修羅場をともにした彼らは、たいていのことには動じない。

だから、趙雲が、軍師を、三日間も自宅に閉じ込めて、寝所から出さなかったことにも、驚かなかった。


だけど、妻女は別だ。驚いたし、呆れたし、気をもんだ。
そして、
「・・・あの御方の丈で、着物をおつくりしておきましょうか」
という申し出に対し、しばし考えた将軍が、真顔で、
「・・・私のもので、良い気がするが」
と答えたのには、心底あきれてしまったのだった。


 









(2024/6/23)

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