合理的依存症  趙孔(私設)


*セフレ趙孔
真面目→甘→フェラ→縛りと色々流転しますので、なんでも大丈夫な人のみどうぞ
文中で孔明がつかう「愛人」はセフレの意味です。





勇猛を誇る将が揃い、人望も志もあるにも関わらず、曹操と敵対してからは抗しきれず停滞している劉備の軍の行動に、知略による筋目が通ったということに気付く者もいる。
劉備軍に参陣した軍師はただならぬ智者ではあるまいか、と。

そうなると、曹操に抵抗する気概は無さそうな劉表をはがゆくおもう豪族らが劉備に期待して接近しようし、ことに三顧で迎えたという新任の軍師に会いたがる。

結果として、徹夜を続けても終わらぬ戸籍の整備に苦心するさなかに、連日ぞくぞくと押しかけてくる豪族や識者との会談に多くの時間を費やしている孔明は、脳芯が過熱するような興奮と疲れに襲われていた。


これは、どうすれば。
身体は泥のように疲れており、人との会話と論戦に酷使しすぎた脳は沸騰しそうに過熱している。
徹夜が続いて体調は悪いのに、気分が悪いほうに高揚している。正直、興奮しすぎて吐きそうだ。
ああ、誰かに抱擁されたい。抱擁されしばし厳しい現実を忘れて癒されて、それでもって滅茶苦茶な情交がしたい。
甘やかされたいし、激しくもされたい。
若干血走った目をうつろにさまよわせて、軍師は考える。
そうでもなければこの昂ぶりはおさまるまい。
そのあとで、気を落ち着ける薬草茶を煮て、あたたかい粥でも食したい。そこまですれば眠れるだろう、たぶん。

というのに、今日も愛人は不在なのだ。
樊城経由で襄陽まで使いに出たものの、ひと月も経つのにまだ戻ってこない。
昼間に行った豪族らとの会談には一般の護衛兵が控えていた。それも疲労の一因でもある。

勇猛で忠義に厚いと評判をとるあの将が背後に立つだけで、会談も舌戦も非常にうまく進む。在野の農夫であった若輩よと侮る輩は口をつぐみ、趙将軍が護る軍師ならば信頼できると腹を割った話へと進んでもいける。

それが不在となれば、どうなるか。
実績のない事を侮られ、若輩であることを侮られ。
現行訪ねて来るのは劉備に好意的な者たちだから、劉備をだましているのではと疑いの目で見られ、うさんくさい詐欺師ではないかと眉をひそめられもする。
それを説き伏せることから始めるのは骨が折れ、無為な時間でもある。

孔明からすると、自分が劉備をだましているはずもないし、詐欺師でもない。
むしろ劉備にだまされているのは自分ではなかろうか。
劉備を主君とし天下国家のために働く、とは誓ったものの、こんなに行政も軍事も外交もなにもかも丸投げされるとは。
天下国家のために働くのに否やはないし、やりがいがあるから、全力でやってはいるが。
全力でやりすぎて、おそろしく疲弊している。
あの将がいれば行き過ぎが続いたあたりで止めてくれていたのに、彼が不在であると、止まりたいのに止まれない。

ああ、あの将を自在に傍におけるほどの権力があればよいのに、と考えてしまう。
実のところその権力が無いわけではない。劉備を通して、或いは通さなくとも、軍師命令でそばに置くことはできよう。

だけど。
そのような私情にまみれた命令にあの将を従わせるわけにはいかない。
なにより、あの勇敢な年上の男に、軽蔑されたくない――


心身にふつふつとくすぶる熱と疲労をやわらげるために、孔明は高い位置にある露台に立った。
湿った風が吹き抜け、きつく結った髪をなぶってゆく。
切ないような気分になった孔明は、ふところから組み紐をとりだして眺めてみた。
別れる前夜にあの将が置き忘れていったもので、深蒼の糸が組まれた丈夫なものだ。
端を龍の文様の金具で留めている。
さんざんに乱れた牀台の敷布の波間に、これを見つけた。
細工の無骨で剛毅な荒々しさからして軍装の際に用いる品ではないか。
他人の閨に軽々しく放っていってよい品ではないだろうに。
髪をおろした彼に組み敷かれたことを思い出す。
髪を上げていても凛々しいが、髪をおろすとなおさら雄々しく野性的にみえる。
この上なく勇猛であり厳しくもあり、軽々しい虚飾はない。
言動は朴訥であるのに、閨での愛撫は甘くはげしくて……

ああ、逢いたい。
あなたがいないと、だめなのだ。


「ご帰還だ」
「あの騎乗ぶり、ほれぼれするな」
普段は気配を消すようにしてひっそりと控えている護衛兵らが嬉しそうにざわめいて、孔明は視線を上げた。
山野の途切れる荒野にもうもうと上がる砂塵のなか騎馬の一隊が駆けてくる。
速い。疾風のようだ。
先頭は、精強かつ清楚でもある、ひときわ目を惹く白馬だった。





「ようやく過ごしやすくなってきたようです」
「……ええ」
襄陽への使いから戻った趙雲は、軍装も解かずに孔明の室にやってきた。動揺を押し隠して迎え入れる。
趙雲からは襄陽にて知りえた州牧劉表一家の不穏な動向を、孔明の方からは豪族との会談でえた北部と曹軍の動静を、互いに得た情報を交わし合ったあとは緊迫がゆるみ、しばし、気の抜けたような雰囲気になった。
会話のあいまに孔明は鎮静にきく香草を選んで煮た。開け放した窓から湿った風が入り、清らかな匂いの湯気がたなびく。
ようやく秋の気配が立ってきた。熱いものを飲みたいと思うほどには。
薄緑に煮えた香草茶を杯にそそいで丁寧に供すると、将は目を細めた。
「うつくしい色です。香りもいい」
「将軍のような豪の方の口に合うかどうか」
劉備軍では、薬草や香草を煎じて淹れた物はほとんど飲まれていない。愛されているのはもっぱら酒だ。

大きな手で茶杯を持ち上げた将は、熱さを計るようにすこしだけ口をつけ、熱いなというようにゆるく首を傾げたあと、ふうと息をふきかけてしばし冷ましてから、喉を鳴らしてうまそうに飲んだ。
子どものようでもあり豪快でもある飲み方をするのが可笑しくて孔明は目を伏せ、すこし笑った。
「うまい、とおもいます。色も香りも良く、これはなにか身体によい茶なのでしょう。いくつもいくつも美点があるところが、あなたらしいという気がする、軍師」
趙雲もまた口端を上げている。
この将は精悍な顔つきだが、微笑するとほんとうに優しげな表情になる。
孔明は思わずうつむいた。笑みと共にいわれた誉め言葉が胸をくすぐりざわめかせて恥かしくなる。
軍用での外出の帰りを待ちかねて、急な帰還に動揺し、ていねいに淹れて差し出した香草の茶を誉められてその笑みにまた動揺している。
まるで恋をしている小娘のような恥じらいと胸さわぎではないか。


本当は、露台から白馬を見事に御する勇姿を目に入れたとき、城門に出ていって迎えたかった。無事でよかった、逢いたかったのだと駆け寄って抱擁したかった。
勿論そのような真似をするわけにはいかなくて、露台を離れて室に篭ったのだ。



「疲れてしまって」
二杯目の香草茶を飲みかけている途中に思わず本音がこぼれた。
「また、寝ておらぬのでしょう」
咎めるきびしい声音に、図星であるので身をすくめた。
「ですが、やってもやっても戸籍が整わない。眠ろうとしても眠れないし、ここ数日は劉備様が不在なのに豪族やら論客やらが押し寄せて、その対処も一人でたいへんで」
頑是ない子供のような愚痴が口をついて出てくる。
「あなたがいないせいで……」
言いかけて口を閉ざす。
これではまるで情で結ばれた恋人同士のような泣き言だ。

「あなたがいないと、豪族から信が得られず、話が進まないのだ」
つよい語調で言い直す。
実際、趙雲が横か後ろに立っているだけで、相手は孔明が劉備からこの上なく信頼され期待されている軍師なのだとあっさりと認める。
それが無いとなると、一から孔明の思想や知性を知らしめないといけなくて、まったく話が前に向かって進まない。
「あなたがいないと、私は」
眠りたいのに眠れないというのも本当だ。寝所に入っても心も身体も緊張から抜け出せず、興奮しあれこれ考えすぎて不安にかられる。


「某は、貴方の役に立っているのですか」
「もちろん。大いに」
もちろん役に立っている。
だってあなたが不在というだけで、私はこんなに疲弊してしまっている。
「戦では必ず役に立つという自負はあります。だが、戦以外でも、貴方の役に立っているというのが、これほどうれしいとは、軍師、不思議なことだ」
破顔するような笑みを向けられて、脳がぐらりと揺れるようだった。脈が速くなり鼓動がとどろき、顔が赤くなる。
我慢にも限界がある。茶など飲んでいる場合ではない。もう限界だった。茶杯を置いた孔明は胡床から立ち上がった。がたりと無作法な音が鳴る。

「………、趙将軍」
「なにか」
「趙、……」
「どうなされました、軍師」
「今夜、軍務はおありだろうか」
相手の都合を聞いたのは最後の理性だった。
ずっと城を空けていたのだから多忙であるに違いないのだ。
職務がたまっているかもしれないし、私事があるかもしれない。
ほかに行きたい所があるかもしれないし、ほかに会いたい人がいるかもしれない。
誰からも頼られ、慕われている人だ。みな彼のことを待っているに違いない。
だけど、ああ、だけど。どうか、

「都合がつくようなら、……私の室に、留まっていただきたい、このまま」
だけど、私のことを選んでいただけないだろうか。
「趙子龍殿。私は、あなたが欲しいのだ」






軍装を解き沐浴をして戻ってきますと、趙雲は云った。
必ず戻ってきますので、必ず待っていてください。
そう云われてされた熱烈な接吻によって腰がくだけた孔明は手で顔を覆い、敷き物のうえにへたりこんでいた。
愛人相手にあのような口づけを交わすとは。
趙雲は他者と口を合わせるのがよほど好きなのだろう。
いったい、これまでどれほどの者とあのように熱い口づけを交わしたのか。
……いけない。
孔明は重い息を吐き、立ち上がった。
情愛をともなわない関係において、相手の過去を詮索するなんて、合理的ではない行為だ。必要のない事だ。

自分も湯浴みをしなければとおもい、ともかく心身を冷却したかったので、湯ではなく水を浴びた。身体も頭も冷えるまで幾度も冷水をかぶる。

過去はともかくとして。
今現在は、孔明だけなのだろうか?
おそらくそうだろう。相手がいないからこそ孔明とそういう関係になったのだろうし。
どうせどこかで性欲の解消をしなければならないとしたら、護衛として近くにいる相手で済ませるのは、時間と労力を無駄にしない合理的な方法である。
男を抱くのは独特の手間がかかり面倒もあるが、孕む可能性がないところは合理的である。
情誼がからまないのだから、あとくされがないのがとても合理的だ。



趙雲の戻りは早かった。他の用事は放っておいてよいのだろうかと心配になるほどに。
長めの濡れ髪をなびかせて戻ってきた彼は壮絶な色気を帯びていて、瞠目した孔明はこくりと息を呑む。
抱擁されると、呼吸が詰まりそうになった。
「このように冷えて。何故です」
「湯でなく、水を浴びたから」
平静を装って応じるも、あまりの美形ぶりに直視が出来ない。
「頭を冷やしたくて…」
今までどうやってこの人の顔を見ていたのだろう。
雄々しくも端正である容貌なのは自明のことで、声や笑みが優しげであることも好もしいとは思っていたが、このように動揺することはなかったのに。
どくどくと高鳴る鼓動が聞こえてしまわないだろうか。

立ったまま唇を触れ合わせて、舌をからめて。それだけでもう立っていられなくなる。
「逢いたかった、軍師」
私も、と言いたかったが、力が抜けて言葉が紡げない。
「よく離れておれたものだとおもいます。どうしておられるかと、いつも考えておりました」
なにかすごいことを言われているような気がするが、護衛とはこのように護衛対象を気にするものなのか。なんと意識が高いのだろうか。
「仕事、しか…していなかった」
瞬間、将が怖い顔になったのでひやりとした孔明は身をすくめる。
「人は、仕事だけして生きていけるものではありません」
没頭すると寝食を忘れることを暗に叱られて反射的に逃げ出したくなったのだが、首の皮膚に頭部が触れてびくりと背筋が伸びた。
「まったく、あなたは」
相手の濡れ髪が触れる刺激だけで感じてしまうのに、すりと首に頭部がこすりつけられて、孔明自身を確かめるように身体を将のほうに強く引き寄せられる。

「軍師、…――孔明殿」
耳元でささやかれる声に震えそうになる。このように顔も良く、声もいい男がいるものだろうか。何かの間違いではないか。
「欲しいと仰せでしたが。某の、なにが欲しいのですか」
「全部」
即答に本音が漏れてはっとする。いや、それはないだろう。愛人の全部が欲しいってそれはない。
では、なにか。身体…いや、それも違う気がする。

「甘やかして欲しい……」
うつむいてささやくと、ふっと苦笑する気配があった。
「甘やかす、ですか。さて、うまくできるかどうか」
強い抱擁はそのまま大きな手で頭部を包みこまれ、ゆっくりと撫でられた。

孔明よりも背が高い男はそういないというのに、この陣営では主君の義兄弟たちも趙雲も背が高くよい体格をしている。
丈高く厚みのある躰に寄りかかっていると心がほどけていくようで、鍛えた肩に頬を寄せるとやっと安堵して息ができるような心地になった。

ゆるやかに息を吸い、つかえながら細く吐き出す。幾度か繰り返すと細かった息は次第に太くなり、強張っていた心身が弛緩しはじめる。
「私は、」
孔明は目を閉じて、息を吐き出した。
「あなたがいないと、息をするのも上手くできないようだ…」
先ほど趙雲にされたのを真似て、すりと頭を首筋にすりつけてみる。獣同士の親愛の仕草のようなそれが気に入って、すりすりと頭や頬を寄せて呼吸すると、湯の匂いの下にひそむ男の匂いが鼻腔に入り込んでくる。
幾度も浴びた水によって冷えた躰の内側に火がついて、ふつふつと燃え始めた心地がした。
趙雲の手はまだ孔明の頭部を撫でていて、癒すようでもあり慈しむようでもある穏やかな仕草をされていながら、身体の内奥が焦がれている。

「眠れていないのでしょう。牀に、いきますか」
「……」
優しげな声に、吸い込んだ息が喉でつかえた。
「添い寝でもしてくださると?」
「お望みであれば」
そんなこと、望んでいない。いや望んでいるけど。それはあとの事だ。
だけど新野と襄陽は駿馬で移動したとしてもけして近くはない。
「あなたは、疲れているのか…?眠いのか、趙雲殿」
「…某が、眠いか、と?」
かすれるような笑声が立ってふいにぐいと腰を抱き寄せられ、堅く昂ぶったものを押し付けられた驚きに、喉奥が引き攣る。

「…駄目ですね、一度出さないと」
添い寝どころか。貴方を傷つけてしまいそうだ。
いつもより低めの声が色気を含んでいて背がぞくぞくした。
このようにしている男に戯言だとしても添い寝をなんて口にした自分が愚かな気がする。
「失礼を。閨事のお誘いかと逸ってきたもので。まさか、甘やかせと仰せとは」
「趙雲殿…」
「ひと月足らずで、お忘れですか」
眉を寄せて呼ぶと即座に艶めいた声音で諭されて、言い直す。
「……子龍殿」
あざなを呼ぶと、心のどこかが崩れた気がした。


立ったままであったのを牀台へとうながす。趙雲には牀のへりに腰をかけさせて、孔明はその前に立った。
自室ではないからか趙雲は袍を羽織ってきている。広い肩をゆるやかに覆う淡青の袍を落としてから、床に座り込む。
なにをするつもりか察したのであろう趙雲が、声を上げた。
「孔明、殿」
布越しでもその大きさがうかがえ、触れると丸みをおびたふくらみが情欲をさそう。
単衣をとどめる腰帯をそっと解き放つ。
「、立派であられるな…」
衣の下からあらわれ出たものを目に入れて孔明は息を吐いた。
立派であるのは身をもって知っていたが。まじかで見ると存在感がなかなかにすごい。
自身に備わるものと同じであるはずが、まるで異なる物質を見るような目で見てしまう。
このようなものがいつも自らの身の内に突き込まれていたのかと思うと畏怖を感じるし、はしたないことながら奥が渇くように疼いてくる。
「そのようにご覧になられると」
さすがに恥ずかしそうな声を掛けられて我にかえった孔明は、手指をのばして剛直を絡めとり、ゆっくりとそれをしごき始めた。

趙雲の手でされたことは幾度もある。
大きな手でなぶられるといつも背が震えるほどの快感に襲われる。若き日より武具を扱って皮膚が何度も破れて再生したのだろう、堅い表皮に覆われたがっしりとした手指でやわらかく握られるとそれだけで快感が湧き上がり、槍も剣も巧みにあつかう勇将に何てことをさせているのだという背徳感がたまらないのだ…

いつもされてばかりだ。
彼にも悦くなってほしい…

自分にされる快感を思い起こしながら、指先でくびれをやさしくこすって刺激していると、上から低い笑声が響いた。
「そこは、貴方が好きなところですね」
あけすけな言いまわしに赤面する。
「……あなたは、好きではないのか」
「気持ちいい、ですよ…」
言葉通りすでに完全に勃ち上がっている。
自分がされて良いところ弱いところをなぞって愛撫を進めていくが、相手を喜ばそうとする手管は、そのまま自身が感じるところを教えていることになりそうで、どうにも気恥ずかしい。

先端に露が結ぶのを見てしばしためらい、意を決して唇を近づけて雫を舐めとり、そのまま口腔のなかに迎い入れた。長大なものすべてを含みこむことはできず、なんとか半ばまでを口内にて出し入れする。
裏の筋に沿うように指でなぞりながら竿を舐めると趙雲の呼吸が乱れるのが、官能を呼んだ。
すこし慣れてくると、唇をすぼめると締め付けることができるということに気付いて、締め付けながらゆっくりと出し入れしてみる。
先ほど孔明が好きなところだと揶揄された先端のくびれも舌と唇でくりかえし愛撫した。

「孔明どの…」
困惑と熱を含んだ声音が吐き出されて、乱れた吐息とともに堅い武人の手が伸びてきて頭部を撫で、髪を梳いた。
「……あなたの好きなところは、…?」
「どうでしょう。あまりに、すべてが、心地よくて…」
このように拙い技で?
意外だとおもった。趙雲ほどの男であれば奉仕されるなど馴れているだろうに。
だが快を感じているのは確かなのだろう。声はかすれて息は荒く、なにより孔明の手の内にある剛直はこの上なく勃起しており、短い会話のあいまにもあからさまな欲の反応をみせている。

ふたたび彼のものをくわえこむ。舌をからめて吸うことを繰り返し、のみこめぬ部分の竿を手で愛撫する。
「孔明どの、もう――出ます」
出るから離れろというのか、出るから咥えていろといいたいのか、どちらを求められているのだろう。
離してほしいのなら孔明を引き剥がせばいいだけで、そのまま出したいのなら孔明の頭部を押さえつければいい。
だけど趙雲はどちらもしなかった。そういえばいつも、そういうことはしないかもしれない。たいていのことは、孔明の望みに合わせる。

私の望み、は。
このまま口内に出されたいか否かというと、出されたくないというのが本音だ。
男のものを舐めしゃぶって口中に射精されるなんて考えただけで忌避感がある。
考えただけで嫌悪と忌避があるのに、孔明は吐精が近いであろう趙雲のものをより深く咥え込み、締め付けた。

この剛直で後孔を押し開かれる圧迫感と、肉襞を幾度も執拗に擦られる淫靡な刺激が思い出されて苦しくなる。
湧きたつ情欲に思わず自身のものをなぐさめようとして、男に止められた。
「駄目です。ご自分で可愛がるなど、孔明殿。それは、某が、することだ」
かすれた声は優しげありながら、言っていることは淫猥で、その様子は獣を捕食せんとする肉食の獣のようで、孔明は上目遣いに雄の顔をしている男を見詰め、無意識に咥内のものを喉奥で締めつけた。

孔明殿、と荒いつぶやきが耳に届いた瞬間、剛直が喉奥に届いた。
「ん、…ッ」
「ああ、…いいです、…たまらない」
喉の奥を圧迫するものの熱さと硬さにえずきかけたが、口中を埋めるものの大きさにそれすらもできない。
苦しさに目線を上げると、趙雲が眉を寄せて目を閉じていた。苦しげにも見える表情は、剛直が孔明の喉の奥に当たると唇がゆるんで恍惚とした吐息がこぼれでる。
淫らな雄の表情に、孔明の身の熱も上がった。
口内を埋められ喉奥をこすられるのは苦しいのに、快感がある。自分がされるのとも違う、中を穿たれるのとも異なるどこか背徳的で、倒錯的な悦楽だった。

「、――出、ます」
「ふ、っ、ん、んん―」
喉の奥が焼けるようだった。それでも口を離さずに吐き出された熱い飛沫を受け止める。
咄嗟にどうしたらよいか分からなかったが、飲み下すしか呼吸をする方法がなく溢れる液体を喉へと送りこんだ。
趙雲の男根が引き出される。まだ口内に残る液体を、孔明は呆然と、こくりと喉を鳴らして飲み込んだ。

「飲まれたのですか」
頭部に置かれていた趙雲の手が動いて、さらりと髪をすいた。眉を寄せている。
「無体を、しました。…お許しを」
「…いい…私が仕掛けたことだ」

互いに荒い息を継ぎながら見つめ合った。
「このあとは何をお望みですか、軍師」
普段から眼光の強い趙雲の目には、一度出したとておさまらぬ、いやいっそう強くなったような欲情の熱がともっていたし、おそらくそれ以上に孔明の方も熱に浮かされている。
「私が、添い寝を、望むとでも?」
「添い寝など、できそうもありません」
荒い熱を持った瞳と視線が重なる。捕食者の目だ。これから獲物を食い荒らそうとでもいうような。
私は食われる側か。屈辱を感じても良いのに身体の奥が熱くなるのは、もうどうしようもなくこの男に惹かれているのだろう。


――欲しいと仰せでしたが。某の、なにが欲しいのですか
――全部

そうだ、全部欲しい。
でも、すべては与えてもらえない。すべてを欲しがってはいけない。そんなことは分かっている。

「あなたが欲しい。趙…子龍殿。滅茶苦茶にしてはくれまいか」
いっとき、なにも考えられないように。
「滅茶苦茶に、……とは、どのように」
「…あなたの、好きに」
唇が重なり、瞬く間に深くなる。
「…っ、んぅ、ふっ」
口唇のなかに分け入ってくる舌を抵抗なく受け入れ、孔明は趙雲の首に腕を回した。口唇と舌は角度を変えながら重なり絡みあう。
昂ぶりをうながすような接吻に孔明は目を閉じてただ翻弄された。

肩のみに引っ掛かっていた趙雲の単衣が脱ぎ去られ、孔明の衣の帯も解き放たれた。
下肢を包む布が湿っているのは、趙雲のものを含んでいる間に自身の先端からとめどなくこぼれ出たものだ。
男の陰茎を口で愛撫して衣をしとどに濡らすなんて、なんて淫らなのだろう。

「持っていてくださったのですね、軍師」
趙雲の手が、孔明のふところからこぼれた深蒼の組み紐を取り上げていた。無骨な指が、荒々しい細工の龍の留め具に触れている。
「……あなたが、忘れていかれたから」
「忘れたのでは、ありませんが、―――」
「え、…?」
では、――
考えかけたことは、されたことの衝撃で消し飛んだ。

下帯をゆっくりとずらされた。窮屈な場所から解放された孔明のものは勃ち上がって雫をしたたらせている。
「あっ」
それに触れられて孔明はたまらず声を上げた。
だけど触れられたのは、いつものようにそこを愛撫されるためではなかった。
先端の、好きなところだと揶揄されたくびれを撫でられて喘ぎそうになったのに、くるりと組み紐が男根に廻されて根元に巻き付いて結ばれる。
「趙……」
「大丈夫です、軍師。貴方を傷つけるような真似は、いたしません」
「……」
あまりの所業に頬が紅潮する。目の前がぐらぐらと揺れそうになり、孔明はこくりと喉を鳴らして唾を飲みこむ。喉奥にはまだ趙雲の味が残っていて、余計に混乱を誘った。

勃ちあがった己のものを目にするのでさえ恥であり居たたまれないのに、それに武人の持ちものである無骨な組み紐が絡みついて結ばれている様といったら、目に入れることさえはばかられた。

震えながら問いを発する。
「…これは、……男同士のまぐわいでは、よく行うことなのだろうか」
「普通のまぐわいよりはるかに、快が深い、と聞いたのです」
……いったい誰に聞いたのだ。
牀台のほうに押されて、孔明はとさりと敷布にしずみこんだ。


「あッ…!」
良い香りの油を絡めた指が奥処に押し入ってきて、入り口をぐちぐちと馴らしかとおもうとずるりと内奥へはいり込んでくる。
拒むように固く閉ざされていた入り口はあえなく篭絡されてゆるみ、肉襞をなぞられると腰がみだらに揺れた。
「ああ…あ―――ひ、ッ」
敷布に頬をすりつけて喘いでいた孔明は、悦いところを突き上げられて悲鳴を上げた。快楽におとされ高揚していく。
後ろを弄られたまま、あらわになっている胸の尖りを舐められる。
人生の圧倒的大部分で胸の突起なんてものは存在さえも意識しなかったというのに、この男にかかると疼くような快感が生まれる。
指で可愛がるように愛撫されたかとおもうと、歯を立てられて震えあがる。
「や、いや、……や、あっ!」
甘く噛みつかれて腰が浮いた。射精感がこみあげるのに堰き止められている苦しさに悶えて身をよじる。
「いや、ですか?」
「や、いや、いや……ぁ…やめ」
「やめません…好きにしてよいと、仰せでしたので」
胸を舐められて甘噛みされ、達することができず身悶えているというのに趙雲の手の動きは止まず、中の良いところを突き上げてぐじぐじとかき回す。

「や、あぁああ」
いままでの交合では加減をされているとおぼろげに気付いてはいたけれど。
それを思い知った。
足の開かせ方も容赦なくあられもなく開かされ、胸もあかく腫れ上がるまで執拗に愛撫されながら、奥処を指でさんざんに弄られる。
張り詰めた孔明の芯からはとろとろと透明な雫があふれているのに、紐で縛られたまま放置され、襲い来る快楽になすすべもなく震えながら新たな雫をこぼした。

「は、はぁ、…ぁ、あ」
趙雲の指が抜かれ、支えを失った孔明は這うように身をよじり、絶え間のない快にさいなまれる身を逃がした。
牀にうつ伏してわずかな安寧を享受し、こらえきれない疼きに紐を解こうとするが、震える手では結び目がどうなっているのかさえ分からない。
達したい、あ、あ――
身悶えた孔明は敷布に己のものを擦りつけた。
いましめられたまま張り詰めた陰茎は昂ぶって放出を待ち望み、やわらかい敷布にこすりつける刺激がもどかしい。

「孔明殿、そのようなことを」
咎める声に羞恥に顔が紅潮した。
あなたがそうしたのだ、とうらみごとを言う暇もなく、腰を背後へと引くように持ち上げられてやわらかな敷布の感触が遠ざかり、あっと息を呑む。
膝を立てさせられて、混乱と羞恥と期待と、そして恐れとに背が戦慄した。
「待って、ま、前を、解いてくれ、子龍…殿」
泣くような声を漏らしたのに、ぐいと足首を掴まれて大きく足を開くようにさせられる。
双丘が割り開かれて、後ろに熱いものが押し当てられた。
「や、ぁ、―――やだ、や、あ、いや…ぁ……っ!」
香油のすべりを借りて、燃え滾るような怒張が埋め込まれていく。
「ひ、――ひ、ぐ」
わずかにある痛みはより大きな悦楽に呑み込まれ、射精感が押し寄せるのに射精が出来なくて、足が震えた。
趙雲はひといきに奥までは貫かず、いちど腰を引いた。
「あ…っ」
局所を縛められてのまぐわいに対する躊躇とは別に、疼いてしょうがない身体が、奥を求めている。もっと深く。
「や、あ、あ」
また進み始めた怒張がすこしずつ奥へと侵入してくる。
それを口に含んだことを思い出した。
自分の持ちものと同種のものとはとても思えなかった形状や熱さや、吐き出されたもののえぐい苦みの味さえも、まざまざと。
思い起こすと同時に脳裏がかっと熱くなり、腰の奥を締め付けてしまう。
「……っ、は…っ」
趙雲はかすれた息を吐き、目を閉じてしばし締めつけを味わい、目を開けてぎゅうと収縮する中を掻き分けるように甘く突いた。
そのままゆっくりとじらすように突きあげ、熱くからみついてくる内襞のなかを突き上げて、やがて奥にまで侵略を果たす。
「ぁあっあっ――しりゅう、だめ、……きもち、いい、あぁッ」
快楽の放出を許されない身体は昂ぶって、胎の中を深く責めるものを締めつけながら腰を揺すり、乱れたあえぎを上げた。
いつもより敏感な中はじらすように動く趙雲のものの動きをつぶさに感じて、官能が掻き立てられる。
剛直の動きはだんだんと激しくなり、孔明を乱した。
強引に奥を抉って孔明を惑乱させたかとおもうと、やわらかく内襞を責められて身悶える。
「気持ちいい、ですか…?」
「あぁぁあ、気持ち、いい、ぁ…ん、子龍、…や、あ、ぁ、あ――ッ!」
腰を掴まれ深くに突き込まれて、孔明は深く絶頂した。
「ふぅ、っぁ、…」
下肢を重く甘苦しい快感がどろりと渦巻いて、身体が逆上せるような熱をもつ。
指先で布のかたまりを掴み寄せ、指の節が白くなるほど握りしめた。
そうやって快楽を逃がさないとおかしくなりそうなのに、それでも襲い来る深く熱い快楽の波は容赦なく身を包みこみ、胎のなかで荒れ狂う。

「は、はぁ、あ、や、やだ、いや」
まだ腰も全身も震えているというのに、趙雲はすこししか待っていてくれず、動きだした。
「やっ、あ、ん、や、…ッ」
快楽の激しさに首を振るも意識が呑まれそうになる。
なかで達し、じんじんと痺れるような悦楽に内奥がひっきりなしに痙攣している奥所を激しく穿たれて、終わらない悦楽に濃密な欲情がつもり溜まってゆく。
「ぁああ、あ…んっ、あぁあ!」
目の前が白くなるほどの快楽に全身を絡めとられて、悲鳴とともにふたたび気をやった。
精を吐き出さない絶頂は快楽が全身に行き渡るようで終わりがなく、悦楽の波が深く強く押し寄せて、しかもその波が止まることなく繰り返しやってくる。気持ちよすぎて怖い。

「あっ…ぁ、趙、うん、どの……しりゅう、は、外して、ほんとうに…もう許して」
過ぎた快楽に腰がこわばるたびに内襞で剛直を締め付けてしまい、そしてまた快楽を感じて達してしまう。達すると中がより敏感になって趙雲のものを感じ内壁を締め上げ、全身に快楽が行き渡る。感じすぎて苦しい。
「うう、っ…う」
内奥を焼く快楽の激しさに堪えていた涙がこぼれ落ちた。溢れて頬から褥へと落ちてゆく。
「孔明どの…」
躰を寄せた趙雲は、手も膝も自身を支えきれず崩れた孔明の肢体を背後から抱き寄せ、前に手を回して軍師のものを戒めていた紐をほどいた。
組んだ糸の戒めから解放されて荒く息を継いでいると、後ろから男根を握られた。
狼藉を癒すように優しくこすられ指で先端をいじられると泣きたいくらいに気持ち良く、身体がこまかく震えはじめる。
雄芯をぎゅっと握られて、止まっていた抽送がまた再開される。
「や、や、…いや、も、もう、」
熱くて硬いものが内壁をえぐるように動き、やがていちだんと激しくなった。
狭雑な襞を掻き分けるように力強く突かれて、下肢ががくがくと震えた。
強すぎる快楽にあたまがおかしくなりそうだと孔明はうめく。
奥の秘所をいっぱいに満たしたものが動くたびに、身も世もない泣き声が上がった。
「っぁ、ぁ、あ、ああ、ああ、ん、もぅ、だめ」
「孔明殿、……」
かすれた声で趙雲がつぶやき、そのあからさまに欲情した息を乱した声音に思わず締めつけた奥を、ずんと突き上げられた。
「ひ、ぁッ…‥ああ、あああああ」
性感が突き上がり、躰を仰け反らせた瞬間に握られていたものを放されて、とうとう孔明のものの先端から精液が吐き出される。
耐えに耐え、溜めに溜めていた射精が解放されて吐き出された白濁は趙雲の手だけでは受け止めきれず、乱れた敷布の上に撒き散らされる。
ほとんど同時に趙雲もまた極まり、のぼりつめて激しく震える内奥に向けて雄の快楽を解き放った。

吐精をともなう絶頂の快楽もまた深く、孔明は息も絶え絶えといった風情で、力の入らない身体を寝台に投げ出した。
いったい何が起きているのか分からない。
滅茶苦茶にしてほしい。好きにして。
そう願ったから。
好きにされて、滅茶苦茶な交合をされた。
ただそれだけの事実がじわじわと脳内に染みわたり、ぎゅっと目を閉じる。




「貴方に泣かれると、…胸が締め付けられるようだ」
互いの息がだいぶん落ち着いたころになって、悩ましげに男がつぶやいた。
「それなのに、…この上なく興奮するのです。お泣きになるほど乱れておられることに。…誰も見たことのない貴方なのだろうかと、おもうと」
優しい手つきで孔明の髪をまさぐる男を、どう思っていいのか。
世の中の愛人とは、こういうものなのだろうか。
愛人とは、対等の関係であると孔明は考えている。
利を与えて、利を与えられる。
「あなたは、満足されたのか、趙雲ど、…子龍殿」
ふ、と唇の先で息を吐くような小さな笑いが、武人からこぼれた。
「いいえ。まったく」
濃厚な蜜でできた快楽の沼のなかに囚われてしまって浮き上がってこられないというような状態の孔明は、手指さえも動かす気にはなれないというのに、たいそう壮健な様子の愛人は、目を細めて微笑し、孔明のことを仰向けに押し倒した。


孔明は、肉食の獣を前にした草食の動物になったような焦燥に襲われて男を見上げた。
機嫌のよい虎に押さえ込まれてしまったいたいけな兎になったような気分になった孔明は、目を開いて震えながら首を振ったのだが、男は孔明の拒否をまるで意に介さず、うれしげに、艶やかに目を細めた。
「某の好きにしてよいと云われたのは貴方だ、孔明殿……このような僥倖をいただけることは、そうないでしょうから」
何かを言う前に唇を塞がれた。
舌を絡めるのすら過度の快楽を呼び込み、口中に生じるかすかな水音にも激しく下肢が疼いた。
広がりゆく熱を煽るように、後孔に指が挿し込まれる。
浅いところを撫でさする指の感触に、合わせた口腔のなかにうめきを漏らした。
「ん、んーー」
しこりをかすめるように撫でられると中が淫らに悦ぶ。
いつもですら感じる箇所は、中で極めたせいなのか遥かに敏感になっていて、やわらかく撫でられただけでたまらない快楽を呼んだ。

「いつもより、感じておられる」
うれしげに楽しげに云った男は、甘やかすように柔らかく指でしこりをくすぐり、押しつぶす。
背筋に響くような甘い衝撃に濃密な疼きが高まってゆく。
繋がる準備として後孔を広げられているときは違和感も不快さもあるが、いま趙雲が行っているのはただただ孔明に快を与えるためだけの愛撫で、それがなおさらに羞恥と快楽を掻き立てた。
「こわい…」
おもわず弱音をつぶやくと、ふと表情をひきしめた整った顔が近づいた。
「こわい、ですか、某が?」
「き、気持ち良すぎて…こわいのだ…っ」
孔明は必死で云っているのに男ときたら更に機嫌がよくなったようで表情をゆるめ、
「そのようなことを云われると。止まれなくなります」
そう云って、口を塞いできた。
やわらかく唇を食まれ、逃げようとした舌が吸い上げられる。あふれた唾液を舐め上げる淫靡な動きにすら感じて腰が揺れる。感じすぎてこわい。

二本に増えた指が、内壁をゆるく掻きまわして突いてくる。
しこりからその奥までをなぞるように強く押された瞬間、いつのまにか張り詰めきっていた孔明のものが震えた。
「ん、あああ...!は、あ、やぁああ、…」
先端から白濁があふれ出てくる。しこりを押されながら男根で射精する独特の感覚はおかしくなりそうで快楽が強すぎた。


「孔明殿…」
かつてないほど乱れる孔明の様子に欲情の色を濃くした趙雲の声音に煽られて、孔明の奥がまたきつく締まった。
指が抜き取られ、かわりに熱塊が押し当てられる。

先ほど背後からの行為では確かめられなかった軍師の表情を堪能するべく、趙雲は孔明の顔をのぞきこみながら挿れていった。
玉を彫ったような白皙はあかく潤み、形よい眉はせつなげにひそめられ、うるわしい明眸を涙で濡らして、喘ぎを止められない唇を開いている、趙雲の為した色事になすすべもなく翻弄される顔を見ながら。

「あ…ぁ…ああ」
先端が入っただけで、ぞわりとした快楽が背筋を伝い、脳髄までも痺れるようで、唇から崩れるような声がこぼれる。
その人らしくもない弱々しくもろい喘ぎに煽られ、趙雲のものが更に膨れ上がる。
「ひ、…ああ…!」
後孔を押し広げるその大きさに悲鳴を上げるも、抜いてくれないばかりか、その剛直はぐっと奥まで進んでくる。
狭いところを熱い怒張が少しずつ押し進むたびに悶え、入口近くにある弱いところを甘やかすようにゆるく擦られてさんざんに泣かされた。
「ひ、ぁ、…あ、いやぁ…い、や」
「おいやだなどと、云わないでください……どうか、いい、と」
「い、いい、あぁ…」
やがて奥深くを突かれながら掴まれた腰を揺さぶられた。
激しく突かれて、狂おしいほどの悦楽が波のように襲ってくる。
もうだめだ、これは、もうだめだ。
「あ、あ、もう、だめ、」
腰から脳にまで快楽が駆けあがり、その未知の悦楽に何もわからず何も考えられなくなる。
「だ、め、う、ぅ、あ、あああ」
壮絶な悦楽に耐えきれず男根から薄い精を吐き出し、それでもまだ快楽はやまずに内壁を震わせて中でもまた絶頂して全身を震わせる。その最奥に向けて、趙雲の精もまた解き放たれた。
「ひ、ぁ、ああ、や、ぁーーああ……!」
達している最中の内奥を蹂躙され、熱く滾った精液を放たれた内襞は蠢いてみだらな熱を味わう。
もうだめだ。
もう一度そう思い、趙雲の背に回していた手をぱたりと敷布へと落とした。
というのに、片足を趙雲の肩に掛けるようにされて、違う角度から挿入されて、またゆるやかに揺さぶられはじめる。
「し、しりゅ、――んん、あう、あ」
「もう、すこしだけ、…‥孔明どの」
ゆっくりと腰を引いて、また入ってくる。
「このひと月は長かった……まだ、足りない。貴方が足らないのです」
すでに朦朧とした意識の下で繋がった場所の熱さと、こめかみにされた口付けを感じた。







「眠れそうですか」
「うう…」
抱き寄せられ、頭を撫でられている。眠れそうどころか、気を失いそうだ。
「激しすぎる……」
「激しいのを望まれたのでしょう」
「過猶不及」 (過ぎたるは猶及ばざるが如し『論語』)
心外だというように、男が嘆息した。
「新兵の訓練より、加減が難しいですね…」
なにが新兵の訓練だ。
「いっそ、飯の盛りを指定するように、小とか、並みだとか、大盛りだとか云ってくだされば、分かりやすいのですが」
「―――今宵は、激しい(小)で頼む、とかあなたに注文するわけか…………ぷ、くく、あはは」
腹がよじれるくらい笑って、意識が眠りの深みへとおちてゆく。
久しぶりに感じる感覚だった。

「目が覚めたら、また城からあなたがいなくなっていたら嫌だな…」
「目が覚めるまではここにおります、軍師…孔明殿」
「ん…そう………うれしい…」

趙雲は軍師を抱き寄せ、彼が寝入るまでその頭部をやわらかく撫で続けた。



――欲しいと仰せでしたが。某の、なにが欲しいのですか
――全部

「全部…ですか、軍師―――すべては、差し上げられません…孔明殿」
ですが、すべて差し上げても良いとは、おもっております。

 









(2024/9/20)

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