初夜2 魏孔(私設)

 

狩り場の城館は、のどかに静まっている。
魏延はうなった。
このまま、情事へなだれ込んでしまいたい。
奥の一室にでも篭って錠をおろしてしまえば、誰もはいってこられまい。
だが軍の主力を出しての大規模な狩りの最中である。なにか不測の事態でもあって主君が城館に戻ってきてしまったら。
軍師と淫行にふけっているさまが主君にばれたらと思うと、さすがの魏延も躊躇するものがあった。


吐精の衝動に耐えたあとの軍師はしばらく息を弾ませていたが、台の上に身を起こし、うろたえた様子で衣を整えている。
このような日の高いうちの屋外で、下肢をさらされ吐精させられたのだから衝撃であろう。
遠くで鳥が鳴いていて、森が風に揺れ、近くでは温泉の湧き出る音がしている。
のどかな景色のなかで、溢れるように湧いて出る欲情を持てあまして身震いし、地を蹴りつける魏延のほうを見て、諸葛亮は言った。
「わたしは、公安の館に戻る。・・・そなたは、どうする、魏延」
「どうする、とは?」
魏延はがばりと顔を上げた。
「狩りは好きなのだろう?手柄をたてる機会でもある」
「狩りなぞどうでもよい。貴公の方がはるかに大事だ。城に帰るのなら、護衛いたそう」
狩りは心躍るし、主君によいところを見せる機会でもある。
だが軍師のほうがずっと大事で、そばにいたい。

「うう・・・ああ、したい。抱きたい、・・・軍師」
やっと触れられた衣の下の肌をもっとしかと弄りつくしたい。
あらゆるところに触れ魏延というものを刻みつけ、彼のもっとも奥深いところを侵略したい。

飢えた獣そのものに落ち着かず欲をたぎらせる魏延に、諸葛亮は嘆息した。潮時か、とおもう。
「では、――城に戻ったら、わたしの寝室へ。・・・許す」

身支度を整え、先に帰城することを劉備に伝えるよう兵に頼んだ。
良い湯で充分にくつろいだので、城に戻ります、と。







諸葛亮の私室は、居間と寝室に分かれている。
居間は広く庭の眺めも良く、親しい者とはそこで語らうし、側仕えの者や警備兵も出入りする。
持ち帰った多くの政務を行い、趣味と実益を兼ねた発明の実験や検証を行い、気が向けば琴を弾いたり碁などを楽しむこともあるので、それぞれに使用するさまざまな道具が置いてあり、書物をおさめる棚もある。


寝室はまったく別で、物は置かず他者を極力入れていない。
ごくわずかな使用人だけが、諸葛亮の留守に限って掃除をして洗濯ものを入れ替えに出入りする。
暗黙の了解として、諸葛亮が寝室にいる間は、寝室へはもちろんのこと居間のほうにも遠慮して誰も入ってこない。
例外は新年から居座っていた護衛であり、その護衛はあろうことかしばらくのあいだ居間で寝起きをしていた。
劉備によって将として取り立てられた現在は将校用の宿舎に移っているが、しばしば、ほんとうにしばしば、やってきて泊まり込んでいく。
泊まり込む際に毎回、毎回、寝所にいれろと騒ぐ。
騒がれても脅されても猫撫で声でなだめられても首を縦には振らなかった諸葛亮であるが、今日、とうとう彼を寝室に招いてしまった。


いまその寝室の中の、牀台の上にぱたりと諸葛亮は倒れ込んだ。
疲れたのでもなく、眠いわけでもない。
「・・・・・」
握っていた陶器の壺を、牀台の横の小卓にそっと置く。
(このようなものを作ることになろうとは。人生とは、なにがあるか分からないものだ・・・)
白っぽい壺はありふれたものだが、中身は諸葛亮がついさきほど苦心して配合した香油である。
植物の油を花の蜜で香りづけして、とろみのある草の汁を混ぜ合わせてある。いずれも人の身体に無害であるものだ。
芳しい香りを漂わせ、べたべたせずにさらりと手になじみ、ほどよいとろみと粘着性があるという、急いで配合したにしては会心の出来である。
使用用途を考えると顔を上げられないけれど。


卓にはほかに飲み水のはいった水差しと杯、薄く水を張った盥、やわらかい布などが置いてある。いずれも諸葛亮が整えた、あの男と閨を過ごすための用意である。


昼間、魏延の手で達かされた。
諸葛亮にふれる手は強引で、荒々しくもあったが、諸葛亮への気遣いもあり、意地悪でもあり、ひどく興奮していた。
口付けと抱擁はただただ心地よいばかりであるのに―――その先はというと、嵐のようだ。
きっとこれから牀台でおこなう行為も嵐のようであるのだろう。
ためらいもあり戸惑いもおそれも山のようにある。
それでいて、心の奥が痛むような疼きがあった。
諸葛亮は壺に手を伸ばし、首を数度横に振ってから、壺の中身を封じ込めた蓋を開けた。









暗黙の了解として、諸葛亮が寝室にいる間は、寝室へはもちろんのこと居間のほうにも遠慮して誰も入ってこない。
それを知っていながら、魏延は諸葛亮の私室に入ると、内から錠をおろした。そうしておいてようやく、髪から垂れる水滴を布でぬぐった。

沐浴をしてくるとよい、念入りに、なるべく時間をかけて。

逃げるつもりではなく、なにか準備をしたいのだろうと察したので魏延はその言葉に従い、それは念入りに水浴をしてきた。
濡れ髪のまま移動してきたのはご愛嬌だ。気がせいて仕方がなかった。
軍師の寝室の前に立つと中に人の気配を感じて、腰奥がぐっと熱くなる。
これからあの者を抱くのだ。やっと許された。
やや強引であったかもしれぬし、最後は魏延のしつこさに軍師がおれたという、泣き落としに近いような形だったのが少々業腹であるが、ともあれ許しは得た。

この上は首尾よう事を為して、軍師の身体を堪能したい。
あわよくば快に耽溺させて魏延なしでおられぬ身体にしてしまいたい。

魏延はふところに隠していた小壺を取り出して、眺めた。
以前より用意しておいた香油である。
実は、薄い媚薬が仕込んである。
ほどこされた者が媚薬を仕込まれたなどと分からないよう、ゆるゆるとほどよい頃合いで効いてくるはずだ。

壺を元通りに隠して厚い木材を用いた扉を叩くと、中から「入れ」という返答がある。少々上擦った声に、動揺しているなとほくそ笑む。軍師が魏延を前にして冷静さを失い動揺すれば動揺するほど楽しくなるのは、魏延の悪癖である。

魏延も冷静ではない。興奮をあらわして鼓動は強く脈打ち、情欲が全身を駆け巡っている。
重い扉を魏延は開けた。

諸葛亮の寝室に入ったのは初めてではない。劉備に命じられ、護衛につくと決まったその日に入って検分した。
互いに嫌い合い警戒し嫌悪し合っていたその日は、賊が居た場合の逃げ場や、間者がひそみそうな調度を調べただけだった。

いまは、まったく別のものが目に入る。
ものが多くはない室の奥にはゆったりとした牀台があり、そこに世にも稀な智者が、妙に覚悟を決めた様子で座っていた。
美しい墨色の髪を結わずに解き流し、薄い生地の夜着をまとっており、格好はきわめて無防備であるのに、ただならぬ緊迫した雰囲気をかもしている。

「お逃げにはならなかったか」
相手のあまりに張り詰めた様子に、魏延は思わず軽口をたたいた。
「逃げてもよいならば、今からでも逃げたい・・・」
「逃がすわけがなかろう」
悲愴な声音に即座に返すが、いや待て、軍師はわけの分からぬ発想をする発明家でもあるのだ。寝所に逃げ道の仕掛けなどはあるまいな、と疑念がわいた魏延はあわてて牀台に近づき、諸葛亮の両肩を掴んだ。
逃がさぬように性急に行ったが、相手に逃げる気配はない。逃げられてたまるかと、口を塞いだ。
口づけをした回数はもはや数えきれぬ。だが、今回のこれには続きがあるのだと思うと情欲がやまず、より淫猥にふかく合わせていった。
舌を口腔にもぐりこませ、粘膜を刺激する。離し、また重ねるということを繰り返すと、えもいわれぬ快さがわいてくる。やわい舌をとらえて甘噛みすると、軍師の喉が震えて、くぐもった声がもれた。


腰帯を解こうとすると、止められた。まだ明るいから、と。
夏の午後だ。戸を閉めていても室内は明るい。
「俺の身体は醜いから、見たくないと?」
盛り上がった筋肉の連なりの上にむごい傷痕が縦横にはしる己の身体を揶揄してみせると、顔色が変わった。
そして驚いたことに軍師のほうが魏延の衣の腰帯を解いた。
「・・・そなたの傷は、そなたが生きてきた証であろう。そなたの身体は、醜くない」
などと言い出すから、魏延は力任せに彼をかき抱いて、口を合わせる。瞬時迷ったが彼のほうの帯は解かずに、胸元をくつろげるにとどめた。


膝立ちにさせ、向かい合わせに己の膝をまたがせる。
魏延はその無骨な両手をつかって、軍師の身体を確かめた。骨格の美しい背や腰を手のひらでたどり、肉付きの薄い尻も撫でまわす。腕も足も触ってみた。長身の男であるだけに手足は長い。

諸葛亮もまた魏延の身体に手を這わせている。魏延は衣の上から諸葛亮に触れているが、諸葛亮のほうは素肌の上に手のひらを辿らせている。存外に遠慮なく触られて、魏延は目をすがめる。指で傷の痕を辿られると、胸奥が騒いだ。


向かい合った体勢をよいことに、魏延は己のものを軍師のそれにすりつけた。
魏延のものはとうに固くしこっているが、軍師のものもまたゆるく立ち上がっている。
芯をもって張り詰めたものを、敏感な裏筋を潰すようにごりごりとこすりつけて合わせると、強い刺激を呼び込んだ。
「そのような、こと・・・・ん、あ、・・っ」
上擦った軍師の声と、倒れまいと魏延の背に縋りついてくる仕草が魏延の欲を増長して、たちまちに更に堅く大きくなる。たくましく勃起したものを軍師のものにすりつけるほどに軍師のそれもまた固くなっていった。

魏延は手を差し伸べ、軍師の熱を握って動かした。
「あっ・・!」
先端を手で刺激して悶えさせ、潤み出た先走りの液を互いの男根に絡めるのはどうにもいやらしく、軍師のものに押し付けるように腰を動かし、手指も呼応させればぐじゅぐじゅと水音が響くのがまた卑猥だった。

「わたしも・・・したほうがよいか」
荒い息のなかでそのようなつぶやきが聞こえ、何をするのかと疑問に思う間もなく、しろい手が伸びて魏延の雄をいきなり掴んだ。
喉をついて出る驚きと悦楽の喘ぎを魏延はとっさにこらえる。
たどたどしくおそるおそるというふうに触れ、魏延のもののたくましさに息を呑んだようだった。
「お、大きいな・・・」
「煽ってくださるな」
魏延も動揺を隠せない。衣をほどかれた時、実は、むくつけき体躯と惨たらしい傷痕の醜さのほかに、男根の太さに引かれぬかと危惧していたのだ。魏延にとってはおおいに自慢であるところの巨根であるが、軍師にとってはどうだろうか。どう考えても大きいことを喜びはすまい、むしろ恐怖であるだろう、と。

「無理をされずともよい」
今日のところは軍師に奉仕をさせるつもりのない魏延は、やさしげに言った。
「・・・・意外にやさしいな、そなたは・・・そうだな、これはもう無理な気がしてきた。いや、絶対に無理だ、そうだな、無理であるよな。うん、無理だ」
「いや待て、無理ではない。無理ではないぞ、軍師」
魏延の雄に奉仕はしなくてもよいが、交合は行う。
絶対に、だ。


かたい決意のもと、なにやら遠い目をしている諸葛亮の腰を抱き、欲をあおるように手指を動かす。
「よ、せ・・わたしばかり、・・」
諸葛亮はあらがおうとするが、じきに上擦った声が絶え間なくこぼれだし、魏延もまた高まる情欲に荒い呼気を吐き出しつつ、彼の欲を高めていった。
軍師ばかりへ快を集めるのは、いわば先払いである。念入りに行うべきだ。

白い膚に口をつけつつ、頭をずらして胸の粒を強引に含むと、諸葛亮は息を呑んだ。
「貴公のここは、まことに愛い」
「なにを言って」
なめらかな白い肌のなかにある濃い桃色の粒は愛らしくいかがわしく、舌先で粒をつつくと背がひくりとしなる反応もまた愛いものだった。
彼の男根をあやすように握りながら、胸を舐めると腰が浮いた。
浮き上がろうとする腰を掴んで引き留め、弄られて赤みを増して尖った胸をさらに強く吸う。
「ひ、や、ぁっ、だめ、ああ」
胸を弄りながら軍師のものを手のひらで包み、しぼるように根元から先端へと快を加えていく。
あふれる先走りを塗りつけるように竿を刺激し、鈴口にぐりぐりと指を食いこませれば、幾か所から与えられる強く直截な快楽に諸葛亮は背をのけぞらせた。
「あ、あ、・・はなせ、ぎ、えん・・もう、・・・やっ、あぁぁぁっ!」
高い悲鳴があがり、指が魏延の肩に食い込む。
長さも太さも男性として申し分ないのにどこか品の良い軍師の男根から吐き出された白濁を、魏延は掌で受け止めた。


「好かったか、軍師」
白濁を拭い、魏延は諸葛亮を牀台に押し倒し、腰のあたりに引っ掛かっているだけの彼の衣の帯をほどいた。
有無を言わさず形よい太腿を開かせ、その奥に息づくすぼまりに触れる。
逃げようとするのを全身で押さえつけて指先で其処を撫ぜると、すでに濡れた感触がある。
触れればやわらかく、試しに力をこめるとなめらかに呑み込まれていくではないか。
「ぅ、あ、あっ!」
「濡れて・・・ご自分で、準備をなさったのか」
返答はなく、羞恥のあまりか諸葛亮は腕を交差して顔を隠してしまった。
蚊のなくような小声で、「卓に、用意が」とつぶやく。

牀の脇には繊細な彫刻がほどこされた卓があり、その上には水のはいった盥や布が置いてあった。見てみればそれはいかにも閨の行為につかう用具で、諸葛亮が用意したに違いないのだが、どのような顔をして準備をしたのか気になるところだ。

魏延の目は、卓の上にある白い壺の上で止まった。
なんの変哲もない小壺を持ち上げて蓋を開けてみると、かんばしい花の香りがただよう。
「この香、貴公からしている匂いか」
寝室に入った時から感じていた、百合のような甘く清楚な匂い。軍師が普段使っている香はもっと涼やかなものだ。
「・・・わたしが作った」
「軍師が?なんのため、に・・・・・・―――――!」
唐突に正解を思いついて魏延は絶句した。まさかこれは交合のための潤滑剤か。それを軍師が作った、と?
「・・・植物の油を花の蜜で香りづけして、とろみのある草の汁を混ぜ合わせてある・・・」
生真面目に説明されて、魏延は悶絶しそうになった。
まさかこの堅物が?いったい、どんな顔で!

手のひらに出してみると、美しい透明で芳しい香りを漂わせ、ほどよいねばりがある。
魏延はそれをたっぷりと軍師の奥処にほどこした。一本の指は難なくはいった。付け根まで挿入させ、ゆっくりと中になじませる。
使っているうちに気付いたのだが、べたべたせずにさらりと手になじみ、とろみがいつまでも続いて乾くことがない。驚くべき高品質である。

「このようなものにまで才を発揮するとは」
魏延が用意した媚薬入りの潤滑剤は、脱いだ衣服にまぎれてどこにいったか分からなくなってしまった。
が、諸葛亮が配合したというものがあるので問題ない。というかこちらのほうが素晴らしい。さすが軍師、天才である。

「・・・動かすな・・っ・・ひ、・・あ、ああ!」
「お苦しいか。しばし、こらえてくだされ」
軍師手製の優秀な潤滑剤をふんだんにまとわせて、奥まった箇所へと指を進める。
首すじに口をつけ舌を這わせ、ふっくりとふくらんだ乳首を指で挟んで愛撫する。
口づけを交わせば、軍師が中に入れた指を締め付けるものだから、魏延のものもたぎって仕方がない。
痛いほどに勃起した魏延の雄が軍師の腹や腰などに当たると、軍師が眉を寄せた。

「・・そ、そなたも、苦しいであろう」
「いや、まだだ」
けなげにも魏延を気遣う軍師に胸も腰も熱くなるが、魏延はこらえにこらえ、慎重にことを進めた。
苦しまぬよう、痛まむようできうる限りやさしく指を進め、中を探る。
半身にも愛撫をくわえつつ指を増やしていけば、きついばかりであった窄まりはしだいにほどけていった。
軍師の喉からは怯えたような引き攣った喘声が漏れているが、達したばかりの彼の男根は徐々に芯を持ちはじめているので、後孔で悦をひろっているのだろうか。

四本が動かせるようになって、魏延はようやく自身の箍を外すことにした。
指を抜きとり、小壺をとりあげると中身をおもいっきり自らの雄芯にほどこす。
百合に似たあまい香りと、獣のように浅く吐き出される荒い息が不似合いだったが、もう止まれる気がしない。
際限なく膨らんだ熱塊が腹奥でとぐろを巻いている。軍師の最奥で解放せねば到底おさまらない。

後孔にふれる感触を知覚したのか、諸葛亮が目を開け、次の瞬間、へなりと眉を寄せた。
「ま、待って」
「もう待てぬ。我慢の限界というものだ」
執拗に馴らした軍師の奥処はとろけて男を待つばかりになっている。魏延は其処に自身の切っ先を押し当てた。
「待て、やめ、あ、」
腕を突っ張らせて腰を逃そうとするが、抗いに伸ばされた手をつかまえて指をからめて牀台に押し付け、そのまま圧し掛かった。

あれほど解したというのに入口はひどく狭く、ずぶりと亀頭が呑み込まれるや諸葛亮の背がしなり、苦鳴がもれた。
「やっ・・・ひ、ひぃっ・あ、・・ああああ」
「く、ッ」
締めつけの強さに魏延もうめきを上げた。だがもう我慢は限界をとうに超えており、腰を掴んで揺すり上げた。
浅いところで小刻みに揺すり、隘路がすこし広がるやいなや奥へと突き進める。

切れの長い黒眸に、薄い涙の膜が張った。透明な雫は見る間にあふれだし、常ならば明晰かつ聡明この上ない瞳から零れ落ちた。
「嫌、だ・・・・こんな、・・無理、・・・だ・・っ」
諸葛亮が拒絶して身を堅くするので、魏延のほうにも痛みがある。
身をかがめて口づけをすると、きついばかりの締めつけがわずかに緩む。
舌をからめて甘く吸えば、こわばっていた軍師の背がゆるんでいく。
そういえば口づけがお好きであった、と思い出し、繰り返し口を合わせ、片方の手は指を絡ませて握りしめ、力任せに腰を押さえつけていたもう片方の手を放し、背を撫でてやる。
耳やうなじに舌を這わせると、軍師の身体から小さな震えが返ってきた。
狭隘な肉壁に押し包まれ、腰奥の熱塊が渦を巻いた。

「動いてよいか、軍師、なあ、」
情欲をたぎらせた魏延は問うた。
「や、・・だ・・・んっ・・・そなた、大きすぎる、・・・っ」
「・・・」
軍師の不用意な発言で、魏延は自身のものがまた更に大きさを増した気がした。
「御嫌などと言わないでくだされ。無理強いはしたくないのだ」
腹の中でぐるぐると喉を鳴らして牙を剥く凶暴な獣をなんとか押さえつけ、切実な思いで乞うた。
おのれがこのように人に乞うとは、まったく人生とは何があるか分からない。
魏延は、軍師から許されないままに奪うだけ奪っても、それでも別にかまわない。
無理強いはしたくないとは言ったが、力づくで犯すことだってやろうと思えば簡単に出来ることだ。
床のどこかに転がっている筈の媚薬を探し出して使っても良かったし、暴力で支配して嬲りつくすこともできる。
奪うことは容易に出来るし、奪い尽くしたいという気もある。
だが叶うことなら、許され、乞われ、求められたい。

「俺は、軍師とまぐわいたい。軍師から乞われて、情を交わしたいのだ。のう、軍師は俺を、求めてはくださらぬのか」
しばらくの沈黙のあとで、諸葛亮が弱々しく首を振る。
「嫌、ではない・・・そなたと情を交わしたいという思いは、わたしにもある。・・・けれど、」
「けれど?」
「苦しいし、痛む・・こわい」
「左様か。分かった。こたびは、優しゅうする。次は、いますこし俺の思うとおりにさせてくれ」
返答をまたずに口を塞ぎ、動かさずにただ揺するようにした。
これで次回の言質はとった。次こそは奥まで貫いて突いてやる。


優しく、ただ優しく魏延は軍師の身体を揺さぶった。
口づけをするには身体を折り曲げねばならない。少々無理な体勢で前かがみになると、たくましい魏延の腹筋が軍師の雄を擦った。
「あ、ぁ、ん」
まぎれもなく快をまとった声音に気をよくした魏延は、腹筋で彼のものを刺激するよう擦りながら身体を揺すった。

舌と舌とを絡めて吸い上げると、白い身体は揺れて声が上がった。すすり泣きのような声が細く響き、内壁がしぼるように魏延を締め付けて、まつわりついてくる。
密に重なる体の熱さが欲を煽った。
圧し掛かる体勢では苦しいかと身をすこし起こすと、太い亀頭が軍師の腹側の壁に触れた際、軍師の身体が跳ねた。
「あっ、あ ・・っ・・・やっ、ぎえん、や、そこ・・っ」
「ん?どこだ?」
「やっ、あぅ・・・っ、や、あ、あ・・!」
「ここが好いのか」
狭い肉壁を押し広げながら腰を進ませ、すこし抜き、好く感じるらしいあたりを狙って雁首をこすりつけると、軍師が身を震わせ、内壁で魏延を締め付けてくる。
二人の腹に挟まれて揺れる諸葛亮のものから、とぷりと透明な液があふれだした。

ようやく抽送といえるものができるようになり、激しくはせぬよう渾身で自制しながら魏延は腰の動きを早めていく。
腰を掴んで律動させると諸葛亮は見悶え、あえかな喘声を吐き、奥に近いあたりを突くたびに背をのけぞらせた。

突き入れるたびに潤んだ奥処からみだらな水音がする。
「・・・は、あっ、ん・・・深、い、あぁあ」
まだすべては入っていない、と魏延は口にはしなかった。怯えられてはたまらない。
身をかがめて今一度口を吸ってから魏延は身を起こし、はぁと荒い息を吐き、腰を掴んで揺さぶった。水音と抽送の音がいくども響くなか、諸葛亮の腹の上で跳ねる彼の男根をきゅうと握りしめる。諸葛亮が息を呑んで首を振った。

「あっ・・・ふっ、あ、・・あっ!」
快を拾うてはいるようだが、中で達するほどではないとみた魏延は、軍師の雄芯をやさしくしごいてやった。同時にみずからの陰茎を出し入れする。

「ん、あっ、や、・・・あ、あ、あ―――っ」
諸葛亮は一瞬硬直し、身悶えて吐精した。動きを止めて内部の痙攣を愉しみ堪能し、脱力する身体を抱き直した魏延は突き上げる速度を速めていく。
達したあとの軍師の腹の中は甘くとろけるように魏延の雄にまつわりついてたまらなかった。
互いに汗をかき、その汗ばんだ身体が密に絡み合うのが、快を分け合っている証のように思えて心地良い。
「く、出すぞ、軍師・・っ」
何度も腰を打ち付け、あまい内壁を陰茎で味わいさらに腰を深みへと突き入れて、魏延は奥へと向けて勢いよく射精した。
「や、あうっ、ふあ、あ、ああ・・・!」
軍師の足先が震え、切ない声が上がった。
「く、・・・・おお、うぅ・・・」
熱い飛沫を叩きつけられた諸葛亮は見悶えて、さらに魏延を締め付けてくる。狭い中での締めつけはきつすぎるほどだが、それがまた快を呼び、魏延は腰を蠢かし最後の一滴まで出し尽くした。


腰を掴んでいた手を離すと、諸葛亮は荒く息を継ぎながら褥に沈んだ。
魏延もまた荒く息を吐き、ひどく名残り惜しく思いながら彼の中から陰茎を抜き出す。ぬるりとした内壁にたまらない悦を感じながらゆっくりと先端まで抜くと、白濁がこぼれでる。
ぞくりと背が震えた魏延は、落ち着きかけた息がまた荒くなるのを感じ、離したばかりの腰を思わず掴んだ。

「・・言っておくが、もう、無理だ、魏延」
その人らしくもないしおれた声音に歯噛みしそうになるが、欲情を超える愉悦に包まれる。
これで、この者は自分のものだ。
ようやく結ばれることができた。

乱れていてもさらりと手触りのよい髪を撫でる。
「痛まれるか、軍師?」
「ああ、痛い」
食い気味の即答で、哀れなほど顔をしかめているので、本音なのだろう。諸葛亮は魏延に対してだけは本音をあまり隠さない。そこがまた愛しくもある。

たわむれのような口づけを交わしていると、くったりとしていた諸葛亮からさらに力が抜けていった。
「始末はつけておくゆえ。休まれよ」
「ん・・」
次はもうすこし奥まで貫きたい。その次か次かまた次あたりには思うさま揺さぶることもできるだろうか。
不埒なもくろみを抱きつつ、寝息を立てはじめた恋人の身を清めるため、魏延は牀台から身を起こしたのだった。


 







(2024/7/27)

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