50題―36.無理矢理-3

 

掴んだ手首は、細かった。

彼がいつも羽扇を持つほうの手。
地上に神算を描き、扇のひとふりで数万の兵を動かせる人の手は。
哀れなほど非力だった。


体勢を崩す高雅な身体を片腕だけで支え、身体を半転させて寝台に押しつける。
「あなたは忘れても私は覚えています、諸葛亮殿。あなたが思い出すよう、まったく同じにして差し上げましょうか・・・?」
半狂乱に抵抗する肢体を難なく抑え込み、細腰をいましめる腰帯をほどき、両手を頭上にまとめて結びつける。三日前の夜とまったく同じ手順で。
熱と毒に侵されていたが、記憶は鮮明に残っている。
だが、違うこともあった。
夜更けであった以前とは違って日暮れ時であるので、花窓からは夏の日差しがうつろい射し込んでいる。
重々しく着付けた衣の前を左右に肌蹴ると、目を射るほどにまぶしい、光沢のある白い膚がさらされた。
喉もとに唇を落とすと、ひどく怯えた、だが理性を保ったかすれた声が懇願した。
「お止め・・ください。私は・・私は、応えられません」
片手で頭部をおさえて動けなくさせた趙雲は、強引に唇を重ねた。視界も意識も一部分が曖昧であった以前よりも、触れる感触が生々しい。自分だけが浮かされているように思った口内の熱さも、いまは同等に感じ、一抹の冷静さを保ったまま貪れた。
以前よりも激しく強張り、抵抗し逃れようとする様子は行き着く先を知っているからなのだろう。
絹のような手触りの膚は汗ばんでいた。それも以前とは逆だ。先の夜では、熱に浮かされて汗ばんでいたのは趙雲のほうだった。
口づけを繰り返しながら衣の前合わせを乱れさせ、中に手を忍び込ませる。諸葛亮の抵抗がいっそう激しくなった。
胸の突起に行き着くと、諸葛亮の背が痙攣した。
「・・・・・嫌・・っ」
体重をかけるようにのしかかり、口唇をふかく合わせる。
人差し指と親指をつかって小さな朱粒をこすり合わせると、強張って奥へ奥へと逃れようとしていた舌が、びくりと動きをとめた。それを良いことに舌を絡め、ゆるやかに吸う。
記憶に残るやわらかい感触が趙雲の舌に伝わった。記憶と現実が入り混じって口づけは甘さを増し、脳芯が愉悦に満たされる。
執拗に指でまさぐっていた突起へ、趙雲は顔を寄せた。固くなった突起を口に含み、カリ・・・と歯を立てる。
「ああっ・・・んっ、やめ、止めてください・・・っ」
痛みを与えるほど歯を立てたあとは、舌でねっとりと甘く舐めた。ときおり歯をたて、そのたびに震える背を撫で下ろす。背やわき腹に手を這わせるとまた震えが大きくなる。敏感でもろい反応に、趙雲は薄い笑みを浮かべた。
「・・・せっかく明るいのですから、趣向を変えましょうか」
趙雲の右手がわき腹を撫でる。諸葛亮の腰に残っていた細帯を解き、帯を寝台の下へ投げ捨て、長い衣装の裾までを大きく左右にはだけて、秘められた部分までさらさせた。
「やめ、・・・・・・・誰か、―――――!」
諸葛亮はついに叫んだ。
理性が崩壊しかけた表情を見下ろし、手を止めた趙雲は静かに問うた。

「人を呼びますか。・・・この有様をどう説明するのです」
両手を縛られ、長の衣装を脱がされた姿。上で押さえつけているのは、劉備の古参の武将で、諸葛亮の信任厚き、右腕ともたのむ護衛だ。
「今、人を呼ぶのなら、なぜあのあと私を処断しなかったのです」

諸葛亮を犯した翌日、目を覚ますとすでに諸葛亮は消えており、趙雲のもとに軍医長が現れた。
諸葛亮の命を受けてきたという。
差し出された薬を趙雲は飲んだ。
毒かもしれない、と思いながら。
軍のなかで総帥の劉備に次ぐ地位にある人を陵辱したのだ。反逆の大罪であるともいえる。皆の前で首を斬られても、または人知れず消されても、まったくおかしくない。諸葛亮にはそれが簡単にできる。
だが与えられたのは毒ではなく、毒を消す薬だった・・・・


静かな冷たさをたたえた趙雲を、諸葛亮を見詰めた。
答えなど、聞かずとも分かっている。
諸葛亮は口を開きかけ、しかし何も言わずに首を振った。深遠をおもわせる美しい黒眸に、一片の叡智が宿る。
「・・・・あなたは・・・殺せません」
しぼりだすような声音で言って、諸葛亮は顔をそむける。
しばらく無言でいた趙雲は、手を伸ばし、諸葛亮の両腕をいましめていた布の結び目に中指を入れた。諸葛亮があれほど抵抗しても解けなかったものが、するりと簡単にほどけていく。自由になった諸葛亮は寝台で身を起こし、衣を強く掻き合わせた。


白々とした沈黙の果て、趙雲は口を開いた。
「・・・・・・私のものになってください」
また、沈黙が横たわる。
「すべてが欲しいなどというつもりは毛頭ありません。―――ただそのお心のひとかけらを、私に下さい」
趙雲の言葉を諸葛亮は悪い夢でも見るような表情で聞いていた。
血の気が引き、衣の合わせを握る手が震えはじめる。
「これまで通り、あなたを守りましょう。―――あなたの天下の大計を為す策を、誰よりも完璧に成し遂げましょう。敵将の首が欲しいとおっしゃるなら、何百でも御前に並べてみせる」
蒼白になった理知的な美貌を包み込むように、趙雲は手のひらで頬に触れた。
半眼に見下ろしながら微動だにしない唇に触れるだけの口づけを落とし、肩を抱いてやわらかく抱き寄せる。結われていない髪を指先で梳き、ゆったりと抱きしめたまま首筋に唇を這わせた。
そっと寝台に横たえさせる。
諸葛亮は、壊れそうな表情で唇を震わせている。
はかない薄着の襟を左右にくつろげ、趙雲はその痩身にゆるく覆いかぶさった。
「・・・・あなたは目を閉じているだけでいい。・・・御身を傷つける真似は、誓っていたしません」


口づけをしても反応はなかった。応えるわけでも、逃げるわけでもない。
無理に貪るような真似はせず、幾度か触れ合わせていると、諸葛亮が目を閉じた。震えている薄いまぶたに口づけ、唇を合わせる。うすく開いた口唇から舌をもぐりこませ、おびえる舌にふれると、抱いた身体がびくりと震えた。
「・・・・っ」
「・・・・声を上げるのも、こらえるのも、お好きに。私に声を聞かせたところで、何ほどのことでもないでしょう」
口づけの合間に言い、また口唇を重ねる。歯列をなぞり舌をからめ、相手の反応が薄いため溢れる唾液を舐め取りまたからめた。
唇で首すじをゆっくりなぞると諸葛亮はすこしうめいて逃れようとしたが、趙雲は腕に抱いて逃さなかった。
長衣の合わせを分けて開かせ、指を這わせる。わき腹や背を手のひらでなだめるように撫でながら、膚に唇を落としていく。
すでに日は傾いている。
薄闇に浮かぶ白い首や、鎖骨を舐め、胸の突起も口に含む。時折歯を立てると、目を閉じた諸葛亮の息が乱れる。舌先でゆるくころがすと、半開きの唇から吐息が漏れた。
薄紅であった突起が、濡れて徐々に赤味を増していく。 声を上げまいとしているのか、細指を口元に押し付けている。その隙間からときおり息が漏れた。
身体をずらして耳のふちを舌でなぞり、片方の手を下肢にのばした。
「・・・・・・・・・・っ」
力なく置かれていた諸葛亮の手に、力がこもり、敷布を握り締めた。
筋が立つほど力を込めて握り―――諸葛亮は起き上がった。

「―――やはり駄目です。私はあなたを・・・・・受け入れることなど出来ません・・・」
薄物を掻き合わせて、絶望的な声でつぶやく。
黒い眸を揺らめかせて、諸葛亮は顔を伏せていた。
肌蹴た衣の合間から陰影の濃い鎖骨や、片方の肩、しろい脚をのぞかせた姿を趙雲は見る。

目の奥に紅いものが横切っていく錯覚がした。
身体の奥底で、普段は凛々しくも清廉な微笑の裏に飼い慣らしている獣が目を覚ましかけている。
整った趙雲の顔に、ゆっくりと笑みがのぼった。凄艶な笑みが。
「なるほど、よく分かりました。――――あなたが私を受け入れる気など欠片も御ありにならぬことが」
おそろしいものを見るように黒眸を見開き、肩で息をする諸葛亮の頬を、趙雲は伸ばした指先で撫でた。
「・・・諸葛亮殿。賢いあなたらしくもない。悪い取引ではありますまい。あなたはこの趙子龍のすべてを得る。・・・代わりにあなたのごく一部を与えるだけで」
犬に、餌を与えるほどのことでしょうに。
ゆらゆらと揺れる諸葛亮の眸のなかで、さまざまな感情と計算とが浮かんでは揺れ動くのが見えた。
迷ってはいる。揺れている。
だが―――諸葛亮は首を振った。
「・・・・・・領地でも、金子でも、武器でも馬でも何でも・・・・・他のものを―――ほかの、ものなら何でも差し上げます、私の屋敷も、官位も――――」
言いながら激しく首を振る。
分かっているだろうに、趙雲がそのようなものに心を動かすはずもないことを。

瞳の奥に剣呑なものをちらつかせながら、いっそやさしいほどの声音で、趙雲は言った。
「・・・・では、どうあっても私を受け入れては下さらぬ、と?」
「・・・・・あなたのことは、かけがえのない人だと思ってます。ですが、私は―――」
必死で言い募るのを、趙雲はくすりと笑んでさえぎった。
「―――――与えられぬのなら、奪います」

「趙雲殿・・・離してください・・・っ」
逃れようとする体を、趙雲は喉奥で笑い羽交い絞めた。
「嫌です、嫌――――!」
「そのような事を。おっしゃてくださいますな・・・」
うなじに口付けながら背後から手を這わせて胸をまさぐり、片手では裾を割った。
「・・・・嫌ぁ‥‥やめっ‥‥!」
恥も外聞もなく半狂乱で助けを求め抵抗するのを身体で押さえつけて封じ、趙雲の手が諸葛亮の花芯を包みこみ、五指をからめて擦り上げた。
「嫌―――誰か、あ、ああ」
「誰に、助けを求めておられるのです。あなたの護衛はここにいるというのに」
趙雲の右手が震える花芯を強く握り込み、裏筋を指先でなぞり上下に擦った。
「いや、いや・・・・ああ・・・・っ」
「勃ちあがっておられますよ。このように・・・・」
「ひ・・・・!」 
力任せにぎゅっと握りこまれて、諸葛亮は悲鳴を上げた。
力を込めてぎりぎりと握りこむと、泣き声が上がった。 
「やめ・・・・痛・・い」
「・・・・・あなたがあのまま目を閉じていてくだされば。いくらでも優しくして差し上げたのですが」
「・・ふ・・・・ぅっ・・・・う」
嗚咽を漏らし始めた諸葛亮の耳に口付け、趙雲は痩身を仰向けに寝かせ、まといつく衣を左右に分けた。
花芯は、狼藉によって赤く腫れ上がっている。痛みによりすこし萎えてしまったものに、趙雲は唇を寄せ――鋭く歯を立てた。
「――あっ・・・・いぁっぁっ」
跳ね上がって暴れる腰を掴んで押さえつける。趙雲の口に含まれたまま、諸葛亮の腰はびくびくと揺れた。痛みに泣く身体をゆっくりと撫で上げ、趙雲は舌を動かした。
諸葛亮のそれはひどい苦痛にすっかり縮こまり、震えている。もう一度軽く噛むと、過剰なほどに反応して身体が跳ねた。
「ふ、ぅ・・・・・ぅ」
もう嗚咽しか聞こえない。趙雲はさらに歯を立てた。先端にも、茎にも。痛みを刻み付けるように何度も執拗に。可憐な色をした諸葛亮の花芯はこどものそれのように小さくやわらかくなってしまい、趙雲の意のままに痛みを刻印されていく。
花芯をぺろりと舌で舐めた趙雲は身体を起こし、むせび泣く軍師を抱き寄せた。
「私は、あなたに拒絶されるとひどく胸が痛むのです。それで、つい、あなたにひどいことをしてしまいそうになる・・・・・・ですから、あまり嫌だなどとお言いにならないほうがいい」
趙雲はゆっくりと唇を重ねる。涙の味がする口内をなぞり、震える舌をからめて吸い上げる。
「諸葛亮殿、どうか。足を開いてくださいませんか。あなたのほうから・・・・」
諸葛亮が泣き濡れた目を開いた。慈悲を乞うような、崩壊寸前の壊れそうな表情をして、必死に首を振る。
趙雲は諸葛亮の下肢に手を伸ばした。目を細めて薄い笑みが浮かべた表情に、諸葛亮が震えだす。
「趙雲殿、どうか・・・・」
「どうか、とは?」
「どうか・・・・どうか、もう、やめて・・・・・下さい。私は・・・・・」
趙雲の笑みが深くなった。
「懲りない方ですね、あなたは―――」
趙雲は諸葛亮の背を無造作に寝台の方に押した。
突然平衡を失った肢体は、哀れなほど非力に寝台に這わされる。背骨に沿って手のひらを這わせた趙雲は、腿の内側をぞろりと爪でなで上げた。背を片方の手で押さえ、もう片方の指先が、なだらかな背と臀部のふくらみの果てにある秘奥に行き着く。

其処に指を当てると、諸葛亮が首を何度も振り這いずって逃れようとする。構わず趙雲は指先を押し入れた。諸葛亮の喉からとがった悲鳴が上がる。
乾いた場所はわずかの緩みもなく異物の進入を拒むが、揺らして奥へとねじ込んだ。
諸葛亮の背の上から押さえつけていた趙雲は、するりと指をぬくと、後口に入れたのとは別の指――右手の中指を諸葛亮の口に含ませた。
「・・ん・・・・、ぅ・・・っ」
嫌がり、口内で逃げる舌に無理矢理押し付けて唾液をからめ、その指を後口に含ませた。わずかなぬめりを得て先ほどよりはすべらかに呑み込まれていく。
わずかの優しさもない動きで、単調なほど平坦に趙雲の指は其処を馴らした。脈打つ襞がわずかに緩むと、2本に増やして差し入れる。
「嫌・・・・・・・・・」
拒絶の言葉しか吐かぬ諸葛亮のあごを、趙雲は指先で持ち上げた。
「―――お嫌なら別に、馴らさずに突き入れても良いのですよ、諸葛亮殿。私のものを呑み込んで血を流すあなたを見てみたい気がするくらいなのですから」

「・・・・・・・・・・」
世界が崩れ落ちていくのを見るような表情を浮かべる諸葛亮の眸から、光が失せた。
その眸は開いたままで、目を開けたままとびきりの悪夢を見ているようだった。

抵抗がなくなり、あらゆる力をうしなった身体を抱き起こし、背後から抱き寄せる。
再び力なくもがき始めた身体を押さえた趙雲は、後ろから自分の胸に諸葛亮の背をもたせかけさせ、長身のわりに細い脚を大きく開かせた。前の夜と同じように、どの部屋の卓にも置いてある明かり皿の油をすくい取り、秘部に含ませてゆく。身体と精神の抵抗とはうらはらにそこはたいした抵抗もなく趙雲の指を呑み込んだ。
背後からあごを取り、嫌がる唇に口づけしながらゆっくりと指を抜き差しする。
指を花芯に伸ばすと、さきほどの狼藉におびえきってびくりと震えた。手のひらでやわらかく包みこみ、わずかな痛みも与えないように繊細に前後にゆすると、緩やかにだが快の反応が返ってくる。
角度を変えて内襞をなぞっていると、抱いた身体に緊張がはしった。ほそい首に唇を這わせ、耳をやわらかく噛みながら、花芯に五指をからめてやさしく擦ると、腰がびくりと引き攣る。
「いや、止めて・・・・止め・・・・・」
もう一度油をすくって2本の指で送り込むと、くぷりと濡れた水音を響かせた。
深みのある箇所を突いた瞬間、はじかれたように諸葛亮の身体がはねる。
「あ、ぁあ‥‥いや・・・っ」
その箇所がある内壁をつよく押すように深く責め、あわせて花芯も擦りたてる。
「‥ひ‥‥ああっ、ひ・・・ぁ・・・・・・や、いや、嫌―――」
「・・・・・挿れますよ、諸葛亮殿」
「や――――止め、・・・・・ぁぁあ!」
ゆっくりと、趙雲は昂ぶりで其処を突き入れた。身体をずりあげようとした動きも腰を掴まれて引き戻され、自身の重みで深みまで貫かれる。
受け入れた熱塊が内壁にある敏感な箇所を突いた時、諸葛亮の身体がびくびくと震え、精が吐き出された。

「ああ、あ、あぁ・・・・・っ」
吐き出された精を指にすくい取り、趙雲は舌を出して舐めた。白濁にまみれた花芯に手指をからめ、扱きながら腰を突き上げ、揺さぶった。
諸葛亮の悲痛な泣き声が木霊する。
嗚咽はやまず、やがて深い沈黙に包まれた。











趙雲は、そっと涙の痕をぬぐった。
花窓の外は暗く、居室は闇に満ちている。
ぱしゃん・・・・・・と水の音をさせて、趙雲は手巾を手桶に戻した。
寝台からは、だらりと白い手が落ちている。
趙雲によって清められ、夜着を着せ付けられた諸葛亮が、意識をうしなって横たわっている。
なんの力のない手を取り、寝台に戻そうとした時、諸葛亮が身じろいだ。
意識を失ってさえ、彼は悪夢の中にいるようだった。
閉じたまぶたが震え、ひとすじの雫がこぼれ落ちた。

「・・・・・・・・・・殿・・・・・劉備様」

血の気を失った唇が、つぶやく。



分かっていた。
彼の心の一片さえも、己のものにはならぬことを、とうに知っていた。


趙雲は窓辺に立った。
窓の外は闇夜だった。月も星もない、深遠の闇が広がっていた。







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(2013/8/24)

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