投果と宝玉  趙孔(無双)

 



驚愕の表情を浮かべた男は、普段の器用さを発揮できずに少しもたついた。
「あ、あ・・・ッ、」
手首に巻き付いた綾紐を解くために彼が身じろいだ拍子に躰のなかにあるものの位置が分かって、思わずあられもない声を上げてしまう。
手首に巻き付いていた紐がやっと外された時は心の底から安堵した。

武人らしく堅く荒れてざらついた手のひらが頬に触れた。
孔明も手を伸ばして趙雲の頬に触れた。
「孔明、殿・・」
意志の強い黒い瞳が揺れている。長めの前髪が震えるように揺れて孔明の額をくすぐった。
「子龍・・」
ほんの少しだけ癖のある黒い髪。くっきりとした眉の下の黒い瞳。端整な顔立ちをしていても、逞しい体躯は武人としての勇猛も男性としての獰猛さもふんだんに持っている。
その獰猛さに色香を感じている。
惹かれるはずの無いものに惹かれている。
それが特別でない筈がない。
この人は、わたしの特別なのだ。


「御嫌では、ないのですか」
「嫌がっているように、見えますか――ああ、――ん、・・っ」
言葉を裏付けるように内部が彼自身を締め付けてしまい、孔明は上擦った声を上げた。男根を深々と咥え込まされている状態で本当はこんな会話を交わす余裕などある筈もない。

「近頃私を避けておられた」
「・・・・嫉妬、しておりました」
目の前にある幅広い肩に手を掛け、皮膚に手を這わせ、そして逞しい体躯に手を回した。しなやかな筋肉の動きを全身で感じる。
「・・嫉妬?なにに対して」
「あなたの、縁談に・・・っん、ぅ」
「そのようなもの。とうに断っております。主公も、誰でも、一兵卒に至るまで知っております。私に想う方がいることは。知らないのは、・・・あなたお一人くらいなものです、孔明殿」
「そのような、――――は・・・っ、あ、あ・・」
少しだけ抜けでるような動きを見せたものが、それ以上の熱を持って深く突き入れられて呼吸が乱れた。
半ばまで貫かれて吐息が乱れ、中を埋めていた雄芯がずるりと抜き去られていく感覚に目をつむって喉をそらした。
「っ、あぁっ・・!」
嬌声がこぼれる。
肉壁を擦りながら差し込まれる男根が引かれ、抜けかける前に再び貫かれた。段々と深く這入って来る。とうとう奥まで貫かれ深みで留まり、馴らすようにか小刻みに揺らしてくる。くちゅくちゅという淫靡な音がして気がおかしくなりそうな羞恥を生むが、すでに理性など遠い。内部に在る趙雲を感じながら締め付けて悦を追う。

「あ、あ、・・・子龍」
天下の智者だと称される孔明の脳内は蜜のようにとろけて、もう趙雲のことしか考えられない。否、感じられなかった。
「孔明――ああ、」
感情と情欲とが重なり連なり合ったように切なげで熱のある声音で呼ばわれ、――続いた快楽に意識が飛びそうになる。
大きな手で腰を包むように掴まれ、衝撃を感じるような深さを貫かれた。
「う、っあ・・ん」
「嫉妬も、独占欲も。私の方こそ。果実を贈り宝玉を捧げたとて、あなたが私のものになど、なる筈がないのに」
奥のまた奥を小刻みに突き、ずっずっと恐怖を感じるくらいこれまでにない深みへと侵入してくる。
「せめて、今だけは。私のものに・・・!」
「――あ、あ、あぁっ!」
とろける肉壁を舐めるように蠢いてより奥へと亀頭が届いた。ぐっ、ぐっと腰を揺すぶられ、挿入が深くなる。衝撃のままに孔明は高い喘声を上げた。

深く突かれて無意識に仰け反ると、逃さないというように逞しい腕に抱擁された。これ以上ないほどに深く繋がり身体を重ね合わせて触れ合わせている。
躰同士を密着させて趙雲が腰を蠢かせる。
「ふ、ふかすぎ・・・んんぅ、あぁ・・っ」
質量を増してゆく熱に抉られて、孔明はもう息絶え絶えにあえぐだけだ。すがるものを求めて趙雲の逞しい体躯に両腕を回すと、それ以上の力でもって抱き返され。潤んですべる奥処のなかにひときわ突かれ、中で蠢く。
奥へと奔る衝撃に脳裏が白く灼けた。
「いっ、あ、あ」
激しくも甘い蹂躙に悶えていると、ふと趙雲の気配が変わった。
おそらく彼は孔明の事を気遣いながらも自らの快を求める動きに変えたのだ。
「あ・・・ッ!」
切羽詰まった声が口を衝く。孔明自身も自身の快を追うことを止められなかった。足を更に押し広げられながら趙雲の熱を受け入れ、全身で彼を感じながら、衝撃と快楽に喘声を上げ続ける。
内壁は男根を包みこみ繊細に締め上げ、締め上げる内壁に質量と熱を増した男根がさらに奥を抉り、互いの悦と快と欲とが高まりとめどもなく膨れ上がった。

何度も押し上げられ揺らされる中で、繋がっているのが確かに彼なのだと何度も何度も自身で確かめ、また彼によって刻むように彼自身を確かめさせられる。
押し殺した声、欲に掠れた吐息。そして熱っぽく呼ばれるおのれの字。
「孔、明、・・・!」
強い刺激に、もう堪えることは出来なかった。限界へと押し上げられる。
「あ、あぁっ・・・!あ、ん あぁぁ―――」
痙攣する四肢をがっしりと押さえ込まれて快楽を逃すこともできないままに、絶頂を迎えようとする孔明の奥に、更なる刺激が加えられる。
どくりと腹奥に感じる過ぎるほどに熱い飛沫を注がれて、今まさに男が己の中に射精したのだということを生々しく感じてしまう。雄の情欲そのものの灼熱を秘所に注がれた孔明は目を見開き、そしてきつく閉じた。
孔明は自分と同性の将の厚く堅い背に痕がつくほどに強くしがみついて、自身の絶頂を迎えた。




駄目です、止まらない、もう一度だけ、孔明殿―――
一度だけとは言われたものの、実のところ一度では済まなかった。
蕩けた肉孔に少しも衰えぬ雄々しい肉塊が突き入れられ蠢き。抉られて、揺さぶられて、突き上げられた。膨らみのない薄い胸と言わずくびれのない腰と言わず余すところなく手を這わされ唇で辿られた。
誠忠の人だと称され戦場以外では温和だと評される将。そんな評判など一掃するような激しさで一心に求めてくる。
「ッん・・・や、は、ぁ、・・・あ・・っ」
「欲しい、と。仰ってください」
「ん、ん、あ、・・・欲し、い・・・・あなたが。子龍―――」
「私も。欲しいのは、あなただけです、孔、明・・!」
「あっ、あ、ああっ、あ、んっ・・!」
ひどく揺さぶられて貪られて互いに欲を煽り押し付け合って互いを感じ合った。




あくる朝。
立てない孔明は「風邪気味」が「本格的な風邪」になってしまったと主公に奏上して休みを取った。身体中朱色の情痕だらけで手首には縛られた痕やら掴まれたあざまでが残っていて、明日以降も風邪だからと首も手首も厚着をして隠さなければならないだろう。
昼過ぎに、少々ばつの悪そうな、それでいて酷くすっきりとしたという表情の趙雲が粥を持ってきた。
薬草入りの粥を食べてやっとまともな声が出せるようになった。

「あの医官見習いが苦心して薬草を調整したのです。すっかり軍師殿に心酔しているようだ」
寝台の脇の椅子に座して孔明の食事を見ていた将がすねたように言うので、眉を上げた孔明は言い返す。
「率いる全軍の兵から心酔され憧憬されている方に、言われたくはないですね」
「劉備様との距離、近すぎませんか」
「あなただって、劉備様との距離は近すぎるほど近いですよ」

大人げのない口論をして、嫉妬と独占欲はお互い様なのだということを吐露し合った。

 






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(2021/5/1)

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