合理的関係性  趙孔(私設)


*セフレ趙孔





炎天下の中ようやく帰城して建物の濃い影の中に入った孔明は、流れる汗をぬぐった。
「軍師様。お帰りなさいませ」
城の通用門では、矛を持った兵に丁寧な会釈をされて通され、中に入ると剣を佩いた兵とすれ違うたび拱手を受け、道を譲られる。

矛を持った者は下級の兵卒であり、警備の軍務中の彼らは拱手をしなくともよいということになっており、剣を佩いた者は部隊の中核をなす手練れの軍人である。
軍に参陣した当初はまるで知らなかったことをもう知っている孔明は、扇をひるがえしながら鷹揚に返礼をして進んでいく。

皆そろって丁重である。
軍師殿、軍師様と呼ばわりつつ拱手して脇へとよけて通してくれる。
主力である関羽、張飛の部隊は孔明を軍師と認めるではなく冷淡であるが、城の警備も受け持つこの部隊だけは、孔明を排斥していない。

彼らが敬愛してやまぬ将軍が、孔明を軍師と認めてことさら手厚い言動で接するから、将の部隊に属する者は孔明を丁重に扱う。
少し後ろめたい思いのある孔明は自然と足早になりかけるのを自ら制し、落ち着いた足取りで歩んだ。

「趙将軍は、ご一緒ではないのですか。何かありましたか」
心配そうに声を掛けてきたのは、顔見知りの部隊長である。
護衛としてついているはずの将がいないのだから、彼らが慕う大事な将軍の身に何かあったのではと案じるのは当然かもしれない。
「厩舎に張飛殿がおられて。趙雲殿はその相手をなさっている」
「ああ」
若い部隊長は納得したように頷き、悪戯っぽく微笑んだ。
「趙将軍は、軍師殿を逃がしたのですね」
「………」
図星である。劉備に心酔しきっている義兄弟は両人とも孔明のことが気に食わないらしく、こと張飛はしきりと絡んできて、馬鹿にした言動を取って貶めようとしてくる。

いつもならば別にどうということもないが、今日の外出はあまりに暑く。早く建物に入ってひと息つきたいというところに出くわして、うんざりと肩を落としていたら、前に出た趙雲が張飛に新馬の配置についての話題を振った。張飛も趙雲も騎馬隊を率いていることから会話は真剣なものになり、その隙に孔明は影が濃く涼しい城内へと入ったのだった。

「居室まで送ります、軍師殿」
「それには及ばない」
「暑かったことでしょう。沐浴をなさるといい。用意を申し付けておきます」
沐浴という言葉に心が動いた。まだ城になじめず、急に入浴の用意を頼める気安い使用人はいないので、助かる申し出だった。
「……かたじけない」
そうして送られたのが自身のではなく、趙雲の居室であったのは、沐浴の用意の都合上か、それとも警備の都合であるのだろう。






炎暑はげしい盛夏にあって、みずみずしい果実はなによりの馳走だ。
水気をたっぷりと含んだ桃は、その最たるもの。
薄刃を入れて切り分けた黄白色の果肉を口に入れると、果汁が口内に広がり喉奥へとすべり落ちてゆき、暑気に疲れた心身に潤いがしみわたる心地がした。


視察は順調だったが、道を歩けばもうもうと土埃が舞い上がり、照りつける陽光と不快な湿気を含んだ風には息が詰まりそうだった。
用意してもらった水を浴びてようやくさっぱりし、自室に戻ろうとした時に、ひと籠の桃をたずさえた趙雲が戻ってきたのだった。
「軍師と分け合えと、主公が」


趙雲は、主君である劉備の主騎であり、暫定的にいまは孔明の護衛ということになっている武人だ。
主騎をいうのは護衛役のことをいうのだとは劉備の陣営に参じてはじめて知ったことだったが、ともかくも劉備軍に参陣してからというもの、趙雲、字は子龍という武人が孔明の護衛として付くことになった。

劉備軍に前にいた軍師、孔明の友人でもある徐庶は、曹操の謀略によって人質をとられ、曹操軍に下らざるをえなかった。この出来事は、領土もろくに持たない弱小の勢力である劉備にさえも曹操は目を光らせているという証明であった。
それで徐庶と入れ替わるように参陣した孔明に、劉備は趙雲というとびきりの武人を護衛に付けてくれたのだ。


「某も水を浴びてきます。ここに、いてくださいますか」
「ええ。戻られたら桃を食べますか」
「窓は開けませんように」
「分かっております」

さほど時をおかず戻ってきた趙雲は、まさしく水浴び後の姿だった。
もう今日は軍務につく予定はないのであろう。くつろいだ単衣に簡素な帯を締めただけの姿で、解き流した髪はまだ水を含んでいる。

髪を布で拭きながら窓辺に近寄った趙雲は戸板を開け放った。
日中の炎暑は夕刻になってようやくおさまり、風が吹き通って心地よい。
窓辺に生い茂った大樹の枝葉が暑気をさえぎり、さやさやと葉を鳴らして清涼な風を運んでくる。

趙雲がいないときに室の窓板を開け放たないというのは、二人のあいだの約束事のひとつだ。
このような粗末な城の、うらぶれた棟にある室でさえも安全ではないというのは殺伐としているが、劉備という主君を持った以上は仕方がない。

このように趙雲と交わした約束事はいくつもあるし、不文律というか、暗黙のうちに二人の間に為されている了解事というものもいくつかある。

涼風に吹かれながら卓につき、きれいに切り分けた桃をふたりで食べた。簡素な武人の居室にいっとき、芳醇な香りが漂う。
すがすがしい甘さとみずみずしさを堪能した孔明は、手をぬぐうために趙雲に断って手巾を借り、趙雲のためにもあたらしい布を用意して、ふと立ち止まった。
しばし動きをとめて見つめる先には、近くにいるのがようやく慣れてきた、しかしある部分ではまったく慣れない、生粋の軍人とでもいうような武人が、落ち着いた風情でくつろいでいる。

彼は十代の半ばから戦場に身をおいてきたという。凄惨な血飛沫を浴び続けていることが嘘のような艶のある髪だ。
常人が濡れ髪を解き流せば女人のように見えるかもしれないが、彼の場合は逆であり、雄々しさが勝っていた。
見事に鍛え上げられている体躯は、戦う男のものだ。

顔つきも言動も若々しいが、年は孔明よりも上の筈。どのくらい上であるかは聞いたことがないので知らない。
孔明の護衛だといっても、たとえば曹操が、孔明と趙雲のどちらかを配下を加えたいと望むかを想像すると、それはもう趙雲のほうだ。
武といい心映えといい、人の上に立とうとするものなら誰でも喉から手が出るほど欲しがる人材であろうことは容易に想像できる。それほどの男なのだ。


椅子に座っている趙雲の髪を見て、頭部を見て体躯に視線を走らせた孔明の眼差しを感じたのか、趙雲の視線も孔明のほうを向いた。
こういうことはよくある。
つまり、お互いにお互いを珍しいものを見るように見詰めあってしまうことは。
孔明は人生においてほとんど初めて、武によって生きている人というものが身近に在るということを経験しているところであり、おそらく趙雲のほうも、知によって生きようとする軍師というものを近くにおいたことはなかっただろう。


視線を外し、食べきれずに残った数個の桃を籠に戻すためにかがんだ孔明のあごに、趙雲の手が伸びた。
「孔明殿…?」
「あ、…うん…」
これも、趙雲との約束事のひとつ。
字を呼ぶことが、私的なやりとり……つまり、情事に類する行為に誘う合図となる。肯定の返事をするか、首を縦に振れば、承諾のしるし。
駄目だと口にするか首を横に振れば、その日はできない、あるいはしたくないという返答になる。
ふたりともがこのような早い宵に身体があくことはめったにないことで、なんとなく今日はこういうことがあるかもしれないと予感があった。

そのままほんのわずか力が加えられて、唇が重なった。
孔明が立っていて趙雲が座っていてという位置関係での口づけは不安定で心もとなく、孔明は常にも増して困惑した。
趙雲との不文律つまり暗黙の了解において、もっとも困ることは、口づけだった。
なにか、開けてはいけないものが開いてしまいそうな不安さがある。

すこし下へと引っ張られてとっさに開けた唇の中に相手の舌がはいってくる。
卓の上に置かれていた腕が上がって孔明の頭部に回り下へと引き寄せ、孔明は男に覆いかぶさるような形になって、口づけは一段と深くなった。
位置からして上にいる孔明のほうが優位なはずが、逆に侵略されているような心地がして、自然に眉が寄った。

不安定な姿勢が心もとなくなった孔明は男の肩に手を置いた。重みをかけても、鍛錬と実戦で鍛えた男の体躯はゆるぎもしない。
近付いた身体に興がそそられたのか、首筋に唇が近づき、舌で舐められた。
微細な心地良さが背筋を伝った。肩に置いた指に思わず力がこもる。

おそらく趙雲は孔明の皮膚を嫌いではない。
北の生まれである孔明の皮膚は、長江以南では目立つほど白い。軍に所属する猛者たちと比べればなめらかであろうから、北方の女人に触れているようでよほど興をそそるのか。
そうでなければ男である孔明の皮膚に口をつけたり、舐めたりはしまい。


「…っ」
耳朶に舌が這い、耳を唇でくすぐられて軽く息が上がった。
ふたたび口唇が重なって深い口づけをされる頃には、膝から力が抜けていた。
「するなら、寝所へ…」
つぶやいてから孔明はふと顔を上げた。
これは前戯で、行為は深まっていくのだろうと孔明自身は期待しているが、彼のほうはどうなのだろうか。

「あなたに時間がおありならば」
「ありますが。――どういう意味ですか」
問いが返ってきて、眉を寄せた。
趙雲はそれでいいのだろうか。彼は忙しい。劉備や孔明の護衛をつとめる一方で、騎兵の一軍を率いているのだ。己の鍛錬も欠かさず、兵を鍛え、城の警備の指示も出している。

護衛相手の新任軍師と、夜までも一緒に過ごすことになって、面倒くさくはないのか。

「あなたは軍務でお忙しいかと、趙将軍」
孔明は相手の予定を心配しただけだ。いわば親切心から。
というのに、将は艶やかに目を細めて口元をゆるめ、予想外の言葉を発した。
「ああ…、時間を掛けて可愛がってよい、と?」
可愛がる、の言葉を脳が咀嚼して一瞬ぽかんとしてしまった孔明が口を開こうとした時、趙雲にいきなり膝裏をすくわれ抱き上げられた。

孔明は長身で、世間では偉丈夫と称される体躯をしている。それをこうもたやすく抱き運ばれると驚くし、いらぬ羞恥まで湧いてくる。
「趙将軍、…!」
「孔明殿」
寝台に降ろされるやしようとした抗議が言えないままにやわらかく字を呼ばれ、同じほどやわらかい口づけが額に降ってくる。
やわらかいのはそこまでで、荒く唇を塞がれた。触れ合わされたと思ったら舌が口内に忍びこんでくる。
性急に口内をさぐられ舌に絡みついた。異質なものが口内を行き来する違和感に孔明は怯えたが、舌先を甘噛みされると薄れてしまう。

「……う、…ん」
何度も強く吸い上げられたあとは頭に霞が掛かったようになっていた。
普段の理知はすっかりなりをひそめ、頼りなげに見上げるさまを、口づけを解いた趙雲が見つめる。
見下ろされて居たたまれなくなった孔明は身じろいだ。
端正でもあり、野性味をたたえた勇猛さもある容貌は稀有なほど男前で、見惚れそうになる。
と同時に、武人のたくましい体躯がかもす威圧感に、萎縮しそうになる。
趙雲に対して劣等感のようなものを感じるのはどうしてなのかよく分からない。彼があまりに男らしい男であるからか。あるいは、その男らしい男に抱かれる側であることか。


本当に時間をかけて可愛がられた。
まず、寝台横の卓の物入れから場違いなほど良い匂いのする香油が取り出された。以前の行為には無かったものだ。わざわざ用意したのかと疑問に思ったが、質の良い潤滑剤があるのは有難いことなのだろう。

芳香を漂わせる油が奥処にほどこされ、執拗なほど丁寧に奥まで解された。
「…もう、お願……い…、あ、あっ…!」
喘ぎながら懇願しても駄目で、奥処をまさぐる指が増えただけだった。
とうに衣は脱がされていて、汗ばんだ肌に唇が這う。
舌がとらえられて音を立てて啜られ、秘所に入れられた何本もの指が淫靡な動きを繰り返した。
呼吸が苦しくなると唇が外され、今度は胸をいじられた。尖ってきた朱粒を唇と舌で愛撫され、奥孔のなかではたまらなく感じる性感帯の上で小刻みに指を揺らされて、自分のものと思えない甘えた声がこぼれでる。

「ん…あ、あぁっ、だめ──」
「だめ、ですか?」
「ん、……い、いい、そこ、…ああぁ、ん…っ」
声は、殺さなくてもよいのだと言われている。
男の喘声など不快であろうと以前は唇を噛み締めていたのだが。
趙雲にとっては、自分の手管によって相手が乱れて上げる声を聞くのは愉しいのだそうだ。
だから声を殺さなくともよい、と。

「ふ、…あ、あ――」
羞恥は感じないでもないが、増やされた指に腹側のしこりをこするように撫でられると、高い声を上げてしまう。
「もっと、……もっと、して」
それに好いところを伝えたほうが、互いに快を得やすいでしょうと驚くほど端正な顔をした武人の説得に、まあ男同士に恥じらいは必要ないし、合理的であるなと孔明は説得されたのだった。

胸を甘噛みされる刺激に身をよじる。秘所では幾本も入った指をぐるりと回されながら深いところまで抜き差しをされ、ぐちゅぐちゅとねっとり湿った水音が響いていた。
もっとして、とねだった箇所を責め立てられて、快楽のあえぎは切羽詰まったものになり、やがて追いつめられた悲鳴になる。
「や、あっ、あぁ……いくっ……やっ、あぁぁ…!」

深く感じ入り嬌声を上げて絶頂した孔明を見下ろして趙雲は満足そうに口元をゆるめ、放心する孔明の口を塞いで熱い口内を味わった。
内壁は絶頂によって痙攣し、趙雲の指をきつく締め付けてくる。
趙雲はゆっくりと指を蠢かして弱い箇所をえぐった。足先がびくりと震え、脱力していた腰に力が入る。
「や、ぁあ、そこ、やあぁ」
「…ここが好いでしょう?」
「や、…ひぃ――」
たまらなくなる箇所を確かめるように探られ、指先で押したり指の腹でこすったりを繰り返している。
じらされるように周囲をなぞられるともどかしく、強く押されると身体が跳ねた。
達したばかりの身体には強すぎる刺激で、勢いを失っていた孔明の男根はふたたび勃ち上がり、とろりと精が流れ出た。

強すぎる快楽に孔明は頭を振った。
「も、もう、しないで…」
「しては、いけませんか」
子どものようにこくりと頷くのを見て、趙雲は秘所からそっと指を抜いた。
「あ」
それすら感じて声を上げる。
達したというのに満たされてはいない。身体の奥底で熱がわだかまり、もっと強い快楽を求めて貪欲に疼いている。

欲にまみれた目をしているくせに、趙雲はそれ以上の行為をしてはこない。
もうしないで、といった孔明の言葉を守っているのか、と思い当って愕然とする。

「孔明殿…」
字を呼ばわりながら耳元に口を寄せてくる。耳朶に流し込まれた声と荒い吐息にぞくりと背が震えた。震えはうずきとなって全身へ伝播した。刺激されつづけた中のしこりが甘くうずいてたまらない。
「…………い…いれて、」
顔をそむけ、かすれた声で口にする。言わなければすっとこのままである気がした。
「…いいのですか。お嫌でしたらこれ以上は――」
わざと、意地悪をしているのだろう。
そうに違いない。自分の手管で相手をとろけさせ快を極みまで追い詰めて、もう入れて、欲しい、なんて淫らな懇願を口にさせるのは、さぞかし良い気分であろうとおもう。
「……いい、欲しい」
単衣を無造作に脱ぎ捨てた趙雲がおおいかぶさってくる。下肢を濡らしたまま無防備に横たわる孔明の両脚をかかえて膝裏を上げた。
あられもなく晒された奥孔に、猛ったものが擦りつけられ、ぬるりという感触とともに先端が挿ってくる。

「あ―――」
本来ならば受け入れる箇所ではない筈の後孔がたくましい怒張を呑み込んでゆく。
狭隘な肉壁をゆっくりとわけいってくる剛直の圧迫感が苦しくて、額に汗が浮いた。
「……痛みますか、軍師」
「…大きい」
背をしならせ目をかたく閉じ、苦鳴をこらえて端的に答えると、低い苦笑の気配があった。
「もっと小さい方が、よかったですか」
「……馬鹿なことを」
笑う余裕はなかったが、詰めていた息を吐き出すと内壁が少しゆるむ。
たぶん高価であろう香油をふんだんにほどこされ、執拗なほど丁寧に解された中はやわらかく蠕動して、苦しさの向こうに快美の扉が開きかけている。

じっくりと馴らすように奥まで貫かれ、ゆっくりと引き抜かれてゆく。中がうごめいているのが自身でも感じられて。
しがみつくものを求めて、広い背に手を回す。
汗でしとどに濡れた膚が密着する快感に身をゆるませた隙をつくように、怒張は腰を揺すり上げてずるりと内壁を押し進んだ。
「あ、ひ、ああぁ―――」
目を閉じると、額に汗が流れる。
「………全部はいった…?」
「ええ…」
「あなたは、…気持ち、いいのか……?」
「……いい、ですよ…とても…軍師、孔明、どの」
「んん…っ…そう、…よかった」
互いの快を確認するのは大切なことだ。情が無い交わりとはいえ、いやだからこそ互いへの思いやりは必要である。

ふっと気を抜いた途端、しこりをつぶすように抉られたのは、きっとわざとだ。
「ん、……あ、あ、ああっ、…あああぁんん」
快をまとった喘ぎに、中にはいったものが更に大きくなり、隘路を押し広げるような怒張の膨らみに、ひくひくと内壁が震えて絡みついた。
「もっと、して…」
「あなたは―――!」
言った瞬間、熱くて硬いものがばちゅりと音を立てて勢いよく突き立てられた。その衝撃に耐えるために広い背にしがみつくと、腰を掴まれて激しく腰を打ち付けられた。
内部で律動されるたび頭の中まで掻き混ざられているようで、脳裏が沸騰しそうに熱い。
「あっ…んっ…はげし…い…ああっ、」
ぎゅっと締まる中を掻き分けるような抽送を繰り返された。
奥を強引に突かれたかとおもうと、浅いところで腰を揺らすように抽送されて腹側のしこりを押しつぶされ、快楽の熱が次々と湧きおこる。
趙雲の雄芯が奥を突くたびに身体が跳ね、しこりを抉られると中がびくびくと痙攣した。
小さな絶頂が幾度も幾度もやってきて、脳裏が白くかすんでゆく。

鍛えた首に腕を回すと、身体を折り曲げるようにされて口づけをされた。そのせいでより奥まで趙雲の怒張を呑み込んでしまう。
「ん、んん…ふぅ…っんんん」
窮屈な恰好ゆえに身体に力が入り、より趙雲を締め付けてしまい…締め付けたせいで孔明自身にも快が跳ね返って見悶えた。

密着した腹部では、見事に割れた武将の腹筋によって擦り上げられた孔明の男根が絶え間なくとろりとした雫をこぼして、吐き出したいという欲が高まるばかりで苦しく、目尻が潤んだ。
「ひ、あ、ああっ、んっ、…!しりゅ、…も、出したい、しりゅう、」
懇願した瞬間さらに奥まで穿たれた。
強く腰を押し付けられてたくましい怒張で奥を突かれる衝撃に脳裏が白く染まり、思考も理性も消し飛んだ。
「あ、ぁあっぁん…!おく、や、やだ、こわい、きもちい、」
貫かれた奥の深い場所から鮮烈な白炎が燃え上がり、脳から足先まで焼き尽くしてゆく。

快感が過ぎておそろしくなる。逃げ出したくなってかぶりを振るが、たくましい腕と体躯にがっちりと拘束されて身動きなんて出来ずに身悶えた。
「軍師……熱い……あなたの中、は…」
「んんぅ…、ひ、ぁ、あ、――熱いのは、あなたのせいだ、趙子龍…―――んんぅッああ…!」
もうこれ以上は入らないという奥まで貫かれて、悲鳴がもれる。
「やああ、っいや…ぁ…」
「軍師…!」
更に大きさを増した気がする昂ぶりに奥深くを抉られて、何度も繰り返し執拗に突かれ、寝台がきしんでひどく淫らな濡れた音が連続するなかで、自分のものではない荒い息づかいにも昂ぶった。

「あ、あああん―――!」
熱と快の熱風に煽られて、熱も快も趙雲に伝えながら、内壁をひどく痙攣させて孔明は吐精した。
淫らに収縮してきつく締めつける内壁を、さらに深く埋められた。
腰を抱え込まれて掻き回すように揺すられ、肉襞を抉るような抽送が幾度も繰り返される。
「…孔明殿……っ」
熱くかすれたつぶやきと共に、燃えるようにも溶けるようにも熱くなっている最奥に趙雲の熱が弾けて、また熱さの波がやってくる。
「……、…あ‥あ…っ」
放たれる迸りの熱さに孔明はふたたび絶頂に達し、更に趙雲を締め付けて昇りつめていた。



あまりの熱と暑さに意識がふつりと途切れそうになる。
「……もう一度水浴がしたい…」
「ええ。終わったら、そうしましょう」
優しげな甘い声が聞こえて、力が抜けきってだらりとしている身体を抱き上げられて、向かい合わせに座るような姿勢にさせられた。彼のものを咥え込んだままである。
先ほど確かに達したというのに硬さが失われていなくて、いま終わったのでは、と言い出しづらい雰囲気だった。

首すじに顔を埋め、甘えるようにする仕草は年上の男とは思えぬ可愛げがあったが、体内を埋める怒張はその見事な体躯にふさわしく太くたくましい。
寝台に横たわっているより更に逃げ場なく拘束されて、より深みをうがたれる。
圧倒的な熱量に揺さぶられ始めると視界が揺れた。






趙子龍は堅物である、という噂は、いったい何なのだろう?
性技は上手いし、手も早い。

そもそも孔明は、趙雲と付き合っているわけではないのだ。
もちろん、そういう関係になったことには驚いた。
きっかけは、なんともいえない。劉軍に参陣した孔明の悩みは深く、眠れない夜が続いていた。晴耕雨読の農夫から一転して、中華全土を巻き込む戦乱の最前線にて果てしなく不利な戦局をくつがえす知略を求められる。孤独と重責に押しつぶされそうだったとき酒を飲んで、気が付いたらそういう関係になっていた。
多分どこにでもある話なのだろう。
男ばかりで構成される軍団内では珍しいこともないに違いない。


総じて都合のよい関係だった。
とくに頭脳が疲れ切った夜などは、激しめの交合がよい。
理性を飛ばして欲を放出し合うのは気持ちよくて適度に疲れ、心に鬱屈したものまでが解消され、朝まで眠れる。

孔明にとって都合がよいように、趙雲にとっても都合よい――のだろう。おそらくは。
まだ婚姻するつもりがないのなら、女人を相手にするわけにもいかないだろうし。
あれほど兵にも民にも好かれる武に長けた偉丈夫だから、男の相手にも困らないだろうが、困らなさ過ぎて、逆に、気軽には手を出せないのかもしれない。選ばれなかった者の恨みを買いそうだ。屈強な兵しかいない軍で男同士の痴情のもつれで刃傷沙汰になぞなったら、主君に面目たたないだろう。

その点孔明ならば、護衛という名目で互いの居室を行き来しても不自然ではないし、まさか孔明と趙雲がいかがわしい関係であるなど、誰も思うまい。
互いの欲が解消される上に、同衾すれば夜間の警護は不要であるから、たいそう合理的である。


孔明としてはこの関係を是非もうしばらく続けて行きたい。
とすれば、孔明が気を付けるべきことは。
好きにならないこと。これは大切だ。好きになってしまったら、恋情の無い関係だからこその利便性を損ねてしまう。
あとは、周囲にばれないよう振舞うことと、彼が飽きたらすぐ解放してやること、束縛をしないことくらいか。




真夏である。早朝であってもまといつくような暑気が立ち込めている。
今日も暑くなりそうだった。
「朝餉は、桃にしよう。趙雲殿」
切れ長の双眸に白玉を刻んだような白皙の容貌。軍師らしく衣冠を整えた孔明が振り返ると、趙雲も武装を整えていた。
眉頭がきりりと引き締まった端正な容貌は、蒼銀の鎧と相まって朝日に光り輝くようにまばゆく凛々しい。
「桃もいいですが。粥と菜も食べてください、軍師」
武神のような偉丈夫がひどく所帯じみたことを言ったので、孔明はおもわず声を立てて笑った。

ああ。本当に、気を付けなければならない。
好きに、なってはいけないのだ。

 






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(2024/8/15)

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