書簡の紐が、切れた。
葦編三絶。
書簡とは、木や竹の札を紐でつなげたもの。その綴り紐が三度断ち切れたという故事により、熱心に何度も繰り返し書を読むという意味となった。
だが孔明が呼んでいた書簡の紐が切れたのは、そんな理由ではなかった。届いたばかりではじめて目を通す書簡であったし、木片を綴じて繋いだ革ひもは新しいものだった。
にも関わらず紐が切れたのだ。以前にもこのようなことがあったと考えて、いいようのない恐怖に心の臓を掴まれた。
がたりと立ち上がった丞相閣下の青褪めた面貌に近習の間にも動揺がはしった。
「馬の用意を・・」
「お出ましで御座いますか。何処へ」
「漢中」
「な」
思いもよらぬ遠方の地名に文官らが言葉を失う中、動いたのは護衛武官。つねに孔明に付き従う彼らのほうがよほど丞相の扱いに慣れている。たちまちのうちに馬の用意が整って出発とあいなった。
わずかな合間に矢継ぎ早の指示を受けた官吏たちは目を白黒させ、振り返りもせずに行ってしまった道袍の背を見送った。
広い机に残されたのは、いまだ開いたままの読みかけの書簡。今朝がた漢中から届いたばかりの書状だった。
(なにか余程の大事か)
なら、なおさら出しっぱなしというわけにはいかない。片付けたとてまさか咎められることはあるまいと手を伸ばした文官は、絶句した。
(これは、・・)
どう見てもただの報告書だった。駐屯兵の数の推移や新造している砦の工事の進捗などが簡潔に記してあるだけの。やや機密ではあろうけれども大事ではない、各所の要害の地から定期的に届く報告の書簡となんら変わることはない。
ひとつ異なるのは、その書簡を綴じた革ひもが切れているだけだった。
魏延がその報を聞いたのは、雨のために作業を中断しようかという時だった。魏延はその頃北の魏領と接する険しい山脈を要害化しようと、連日にわたって土木作業の指揮を執っていた。
暦の上では秋であったが、とつぜんにやってきた驟雨は身体の芯を凍てつかせるほどに冷たかった。
報を受けて馬に飛び乗り、急ぎ陣屋へと戻った。
「知らせて下されば、迎えにあがりましたものを」
太守の居室に彼はいた。黒い道服。闇に浮く白い月のような容貌は、雨にあたったせいか青褪めている。
「・・・変わりないか」
「無論」
そうか、と覇気なくつぶやく様に魏延は唇をゆがめる。定期の報告を送ったはずだが。入れ違いになったのか。
「如何なされた。このように急に来られるとは」
魏延は喉の奥で嗤いながら近づき、細い頤を持ち上げた。
「――孤閨をかこつのがお辛くなられたか」
むろん揶揄だったがまるでその言葉を肯定するように唇が震えたので魏延は内心で驚いた。
すでに幾度となく躰を交わらせたが、彼のほうから求めたことは無い。
無理もないことなのだ、そう、最初から・・・
魏延はある成都の実力者が主催した宴の途中で席を立った。
招いた方の主催者と、招かれた主賓の両方が消えていた。館はざわざわと騒がしく、何かを探し回っている様子だ。どうやら主賓が逃げて隠れ、屋敷のもの総出で探しているらしい。
馬鹿らしい。
権力好きの策謀家である屋敷の主の狡猾な容貌が慌てふためく様を冷笑し、帰ることにした。付き合っていられぬ。
庭を横切る際にそれを見つけたのは偶然だ。
館のあるじが血眼になって探している主賓が、木の影でうずくまっていた。様子が尋常ではない。
朱に染まった顔、せわしない呼吸、自我を保っていない瞳。
いかに勧められようともまさか政敵相手に酔いつぶれるような飲み方はするまい。
なかば正気を失った様子から、なんらかの媚薬めいたものを含まされていることは明らかだった。
魏延はそのとき、喉の奥で哄笑を噛み殺したのだった。
なんという僥倖。自分を毛嫌いしている相手、それも遥か上位に君臨する権力者が、このように弱った姿で。
「お辛いでござろう。さ、こちらへ・・」
獰猛な思惑を隠した猫撫で声で馬車にいざなった。
足元もおぼつかない様子にほくそ笑みながら引き寄せると、つまづきそうになりながら魏延の腕の中におさまる。
逃がさぬというように拘束をしている太い腕が誰のものかということは浮かばないように、力なく躰を預けきっている。さして離れていない私邸に辿りつく頃にはいっそう朦朧とし、ひとりで立つこともできない有様だった。
蜀入りしてよりのち劉備から賜った屋敷は立派なものだ。元は劉璋に仕えた武将が住んでいたのだろう。武門の名家のものであった館を気前よく劉備はくれたのだ。
自分の足で立つどころか頭さえもち上げられぬ様子でくったりとするのに頭から布をかぶせ、その布ごと抱き上げて館の奥に入っていった。家人をすべて下がらせる。邪魔はされたくはない。このものがここに居ることを知られてはならない。
寝所には寵童が主人の帰りを待っていた。魏延の好みであるとおりのたおやかな美童を、あごをしゃくる仕草だけで下がらせ、どいた後の牀台へ貴重なる供物をおろした。
寝台すぐ脇の明かりは消した。万が一にも彼が正気にかえらぬように。しぼられた明かりは、牀に敷かれた白い布団をぼんやりと照らす。
息をひそめ、獲物を前にした獣さながらに残忍に舌なめずりをしながら魏延は寝台に近づき、彼を覆った布をゆっくりと取り除いた。
粗末な布のなかからあらわれたのは、眉をひそめて情動にあえぐ白い顔だった。月光にも似た肌は赤く潤み、つめたいほど整った眉目は内なる官能に呑まれかけている。目を閉じているが眠ってはいないのだろう、開いた口から苦し気な呼気がもれ、繊細な手指が助けを求めるようにうごめいていた。
あの、軍師が。
この世のあらゆる叡智をあつめてつくりあげた氷の彫像のような者が。
私邸の閨のなかで扇情に色づき、潤んでいる。
こらえきれぬ興奮が背筋を走り抜け、魏延はごくりと唾を飲みこんだ。
手を伸ばし、礼装の堅い帯をはずして重い長袍を剥ぐと、息をつけたのかすこし意識が戻ったようだった。
うめき、触るな、身体が変だと弱々しく訴えてくる。
「・・ご案じ召されるな。少し薬を飲まされたのでござろう」
「・・くす・・り?」
牙を隠した声でささやくと、いとけない童のように見上げてくる。どのように声を繕っても、目を開いてしまえばその眼に写るのは獣のような顔なのだろう。またたき、
「魏、延・・・?――・・・わた、しは、」
もがくように身を起こそうとするのをやんわりと押し戻す。
「媚薬を、盛られましたな、軍師殿」
ひと言ずつ区切って言うと、よほど頭の働きがにぶっているのだろう、彼らしくもなくその言葉を唇の中で反芻し、やっと理解はしたらしいが、熱に浮かされたような表情にも口調にも鋭さはもどらず、呆然とつぶやくのみだ。
「・・其方が?」
「違う。某は助けて差し上げたのだ」
前門に虎を拒ぎ後門に狼を進むというようなものであろうが。魏延は皮肉に口をゆがめた。
「毒は抜いたほうが宜しかろう?お心安くして、目を閉じておられよ、軍師殿」
しかし軍師は力なく両腕を突っ張らせて逃れんとした。
「はは、お暴れなさるか」
抵抗される方が情欲が燃え盛る。逃げるものを押さえつけて犯すことに喜悦を感じる性分でもあった。
痛めつけても良いが、さて・・
魏延は身体をかがめておおいかぶさり、下肢を密着させた。魏延のものはすでにゆるく勃ち上がりつつあったが、軍師のそれはいっそうに堅く張り詰めていた。二つの雄が布越しにこすれあう。
「ぁっ」
白いのどから上がった声に魏延はやりようを決めた。あまりに抵抗するなら暴力で支配し、痛みと屈辱に泣かせるのでもよかったが。この様子なら・・・快美にすすり泣かせるほうが良い。
「・・お抗い召されるな」
布越しの刺激というゆるい甘美にさえ目元を染めて息を継ぐ軍師の耳に魏延はささやいた。すると驚いたことに耳で感じたのか、ほそい身体がひくりと震える。薄い耳が見る間に深紅に染まっていった。
魏延が耳に唇をつけると羞恥に震えたように身をすくませ、耳朶を噛むと上擦ったうめきが上がった。
互いに着たままの礼装用の絹が身じろぐたびにしゅるりしゅるりと音を立てる。密に重なるままに膨らんだ股間同士がすれ合わされた。
布越しのやわい刺激を愉しんで魏延は自身を相手のそれに、ぐっと擦りつけた。他愛のない触れ合いであったが切羽詰まったように呼吸を呑み込むような気配がし――
「軍、――」
「ぁ、や・・・――」
びくりびくりと背を震わせて軍師は悶えていた。息を乱して泣きそうに顔をゆがめる。
下裾を割って手を突っ込むと両脚のあいだはぐっしょりと濡れ、生あたたかいものでぬめっていた。
軍師はあごを上げて息を乱している。
紅く染まった耳を玩弄しながら魏延は軍師の下肢を覆う布を取り除いた。細帯は付けたままに手探りで裾を割る。
「や、・・」
吐いたばかりの精でぬめった中心を鷲掴みにすると軍師は目を閉じて震えるようにささやいた。魏延はそれをなぐさみながら、襟の中に片方の手を差し入れた。
軍師の肌は絹地のような質感だった。肌の色も透けるように薄い白絹の色である。
泣き顔のような表情を見下ろしながら魏延は軍師の片方の手を取り、軍師の中心を握らせた。戸惑ったような気配を感じたが、上から手を添えてじっとりとしごきたてる。
しばらくして魏延は自分の手を離したが、軍師が自らのそれをなぐさむ手は止まってはいなかった。
「ぁ、・・ん・・・ぁあ・・」
身体に続いて思考も溶けているのだろう、情欲をはらんで潤むあえぎに理性はない。
つたない手つきに魏延は喉の奥で笑った。なんとお可愛らしい自慰であることか。この軍師、いったい普段はどう処理しておるのか・・・
「はは、それほど佳いか」
「・ぁ、・・あ・・気持ち、い・・・」
「、―――」
思わぬ軍師の反応は、爛れた性の享楽に馴れた魏延でさえも驚かせた。
軍師に入れられた媚薬がうつったとでもいうように、じりじりと情欲がくすぶる。腹の底を炙られるような性欲を感じて笑みを消した魏延を前にして、軍師はすすり泣きをもらしはじめた。
しびれた手指ではうまく自らを絶頂に導けないらしく、もどかしげに悶えている。
たどたどしい手つきで己のものを擦る軍師の手をどかせて、自分の手に変えた。
握りこむと彼の身体に戦慄がはしった。さいなむとますますしとどに濡れ、堅くしこっていく。
「あ、・・あぁ・・っ、ん・・・、ぁ、あ」
頬を上気させ、腰をくねらせて・・軍師は猫のように見悶えて、魏延の胸に顔を摺り寄せて、達した。
軍師は唇をひらいてせわしなく息を継ぎ、ぐったりとしている。揺れる火影のなかでも目尻が紅く染まっているのが見て取れた。いや全身があかい。
魏延は荒々しく彼の両脚を割り広げた。
媚薬を用いられ、二度も吐精したせいか軍師の後孔はさほどの抵抗もせず魏延の指を飲みこんだ。だが狭い。
(よもや。はじめてか?・・まさか・・)
これほどの麗姿で、あれほど武将や文官に取り巻かれていながら?
「・・ぁ、いや・・ぁ・・・」
快美に潤んでいた声にも、恐れが混じり始めている。後ろを使い慣れているのならば、媚薬で意識がかすんだ状態で抵抗はすまい。
魏延は軍師をうつぶせにし、両手を掴んで頭上の敷布に押し付け、香油でぬめらせた指をふたたび突き込む。
「っ、痛い・・ぁあっ・・・」
嫌がりながらも奥処の中は熱くうねって魏延の指を締め付けている。おしげもなく香油を足しながら抜き差しを繰り返すと、指の動きに合わせて水音がひびき、声に切なさが混じり始めた。
最初は一本だった指を増やしていく。根本まで押し込んだ数本の指でだいぶん滑りのよくなった内部をじっくりと掻き回すと、あ、あ、と泣きじゃくるような声がもれた。
そのとき。軍師はある者を呼んだ。あざなだった。
すがるような、切なげな響き・・・
情人であろうかと思う。その者と軍師の親密ぶりを考えれば不思議ではない。だが・・・
魏延は指を抜き、下衣をくつろげて自身を取り出した。片手で数度しごき硬度を上げてから、震える蕾にそれを擦りつける。
背後からねじ込むと媚薬でさえも衝撃を消せなかったのだろう、悲鳴が上がった。喉が裂けるような悲痛な悲鳴を耳に入れながら、魏延はさらに腰を進めた。
「いた・・い・っ、や、あ、やぁっ、やあああ――」
必死に頭を振り逃れようともがくが、あまりにも非力な抵抗だった。
「・・っ、たすけて、――」
軍師はまた、さきほどと同じもののあざなを呼んだ。
魏延は逃げようとする腰を引き寄せてさらに奥に突き込み、玉が光るようにすべらかな傷一つない肩に噛みついた。かすれた悲鳴が上がり、やがてそれは嗚咽にかわった。
翌朝。
「おう、起きられたか」
魏延は機嫌よく笑った。軍師はまるで信じられないものを見るように魏延を見、そして混乱したように辺りを見回している。
「湯の支度が出来ておりますぞ、軍師殿。某が入れて進ぜよう」
軍師の顔に困惑と嫌悪がはしった。それは彼がいつも魏延を見るたびに浮かべる表情だ。いつもなら不快になるその表情を鼻で笑い、魏延は寝台に近寄った。
容赦なく掛け布を剥ぐと、軍師の裸身が露わになる。
それはまったく見ものだった。 肌は白濁やなにか分からぬような体液に汚れ、異臭を放っている。月をもあざむく雪白の肌のあちこちに朱色のあざのようなものが浮いており、肩や太ももには噛みあとまであった。まさに喰い散らかされたような有様だ。
あまりの事に声も出ず、かろうじて局所に布を掻き寄せる軍師に魏延は声を立てて笑った。
「覚えておられぬか?昨夜の事」
「魏延・・・?そんな」
魏延は指で細い頤を持ち上げた。
「ほう。某が相手では不満のご様子。はて、誰なら御心に叶うたのか」
「―――」
なにか言葉を発しかけた軍師の喉がぐぅと不穏に鳴り、魏延の手を振り払って逃れ、そこらの布を掻き寄せて口元をおおった。数度くるしげに嘔吐いたが、何も出ない。
「・・ぅ」
「、軍師」
舌打ちをもらしたが、さすがに魏延も手を貸した。新鮮な水を飲ませ、青銅の盥を用意すると、軍師は飲んだばかりの水と一緒に黄色がかった液体を吐き戻した。
魏延は彼の裸身に単衣を着せかけた。
ひそかな安堵もある。媚薬が、どの程度のものか知れなかった。まさか廃人にするほどの劇薬ではなかろうと思っていたが・・。
この軍師があのまま正気に戻らず、性の快美に狂うだけの生きものになっていたとすれば、首謀者ではない魏延とて処刑はまぬがれまい。
まあその時は、最期までこの身体を虐げて愉しんだであろうが、と魏延はくつくつと笑った。
「湯殿にお連れいたそう。身体を清め、横になられるがよい」
当然のことながら正気の軍師は魏延の存在に困惑し、嫌悪して顔をそむけて抗った。しかし傷んだ身体で魏延のような屈強な猛将に抗えるわけもなく、やすやすと浴室に運ばれてしまう。
貴人は人に裸体を見せることを忌避する。沐浴する際も全裸にはならない。あまりに抵抗するので魏延も無理に単衣を剥ぎ取ろうとはしなかった。
その代わりもう一つの責め苦は容赦なく与えた。
両ひざをつかせて向かい合わせに抱き込み、魏延は彼の後庭に太い指を突き入れ、奥処に入った白濁を掻き出そうとした。
ずいぶん奥にあるものだと魏延は他人事のようにおもった。魏延の情事は自らの情欲を満たすだけのもの。後始末などしてやったことがない。
時間を経た精液は指に絡まってねばつくのみで、思うように排出はされない。
魏延は急がなかった。普段は慎ましく閉じているはずの穴を広げ、太い指を執拗に奥まで入れてはまた入り口まで引き抜いてを繰り返し、敏感な内壁をまさぐった。
掻き回すとぐちゅ、ぐぷというような下劣な音が立つ。
「軍師殿、締め付けが過ぎる。出すどころか、引き込むようではないか。淫乱な穴でござることよ」
魏延は卑猥な弄り言を繰り返し口にした。
このために汚れた身体のまま捨て置いたのだ。
夢ではない現実なのだと思い知らせるために。男にどこまでをされたのかを、十分に分からせるために。誰に穢されたのか、ゆめ忘れることのないように・・・
軍師は唇を噛み締めて声を押さえていたが、やがて魏延の襟に顔を埋めて泣き出した。
魏延は、抗う気力さえ残っていなさそうな身体を引き寄せ、繊手を取って己が股間に導いた。湯に濡れた単衣の上からそれに触れさせると軍師は身体を引きつらせ息を呑んだ。
はくはくと息を吐き出すのにかまわず、猛々しく勃起して薄い布地を押し上げている男根を握らせ、振りほどけないように上から手を重ねて動かす。
「軍師殿のいやらしい穴を嬲っておったら、兆してきた。慰めてくださろうな?」
軍師は首を振り手を振りほどこうとする。まだ入れたままの後孔の中で魏延は思わせぶりに指をうごめかせた。
「某は、此処を使うても良いのですぞ。昨夜はそれは上手に呑み込んで下さったのだからな」
半分以上虚偽だった。軍師の其処は媚薬にほころび溶けかけていたが、最後の最後では魏延を拒んでいた。
其処は傷こそ付いていないが痛々しいほど腫れ上がり、いま突き入れれば軍師の精神もろとも壊してしまいかねなかった。
精のぬめりを借りて魏延はその中を探った。魏延の男根は無理だろうが、二本程度の指ならば抵抗なく呑み込まれていく。
自由なほうの片手をつき首を振って逃げようとするので、魏延は自分の股間に重ねて宛がっていた手を離させ、自由になった手指を濡れた下衣に忍び込ませて彼のそれを衣から引きずり出した。
朝日の中で浴室は湯気が立ち込めている。その中で魏延の太い手に握られたそれは色が薄く、子どもの持ち物のようだった。花芯と呼ぶのがふさわしいような初々しさに、相手の年齢を推し量った魏延は呆れる。
やめよ、と彼は顔をそむけてつぶやく。
無視して魏延は花芯をあやしながら彼の中を探った。膝立ちにさせた腰を抱え込むように腕を回し、指を揃えて突き上げれば全身でおののく。弱った身体に襲いかかる刺激が強すぎるのか、軍師は弱々しくかぶりを振った。
腫れた後孔のなかは熱く、二本の指で中をえぐると拒絶のまじった喘声が上がった。前もあやしながら魏延は中を探り、ここかと思う場所を掻くようにえぐるとびくんと身体が跳ねる。
そこを狙って突きながら出し入れすると、声に涙がまじった。
「ぅ、・・・やめ、やめよ。・んっ、・・其処はいや、いやだ」
「御嫌であられると?はは、このように濡らしておいて・・」
その性感帯に指をあてて小刻みに突きながら、魏延は彼の前を絞り上げた。先端から透明な液があふれて魏延の手を濡らしている。
前と後ろ、両方の動きを速めると、軍師は背を引き攣らせ、大きく躰を震わせて精を吐いた。
魏延は軍師の繊手を取って、自らの雄に導き、すでに硬く張り詰めたそれを握らせた。嫌がるのを片手で押さえて強く上下させる。浴室は濃厚な性の匂いに満たされた。
今にも気を失いそうに憔悴しているくせに軍師は帰ると言い張った。
「ま、良かろう。―――して、次の逢瀬はいつに致しましょうか?」
「―――――なに?」
狂人でも見るような視線に、魏延は彼に近寄り顔を上げさせ、せせら笑うような調子で言った。
「貴殿の躰の虜になり申した。某が飽きるまで付き合って頂こうか、軍師殿」
「・・・断る」
言葉は拒絶であったが、その蒼白な顔は怯えと震えを含んでおり、無遠慮にあごを掴む魏延の手を振り払いはしなかった。
魏延は無力な獲物をいたぶる肉食の獣さながらの酷薄な笑みを浮かべ、嘲笑を篭めて低く恫喝した。
「宜しいのか。このこと、ばらされても。神仙のごとき軍師殿が媚薬を含まされ犯されたと。たいした醜聞ですな」
「―――」
「貴殿の痴態の全てつまびらかに覚えておりますぞ。・・・そう、夕べ貴殿は自らのものを慰めてそれは淫猥に喘ぎ、しかしながら上手く達けず、某にすがって――」
「――――やめろ!」
言葉こそは気丈であるが、表情はもう崩れていた。彼は手で顔を覆った。
「・・・・・・言うな。誰にも」
魏延は肩を揺すって笑った。
「承知つかまつった」
それが、はじまりだった。
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(2017/12/14)
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