シリウス2 魏孔(私設)

 

建国の多忙、そして職務に接点はない。
まるで恋人同士のように文をやり取りして次の“逢瀬”の日を決めた。
しかし逢ってみれば情などあるはずもない。
場所も酒も軍師が用意した。
或いは暗殺用の兵でも潜ませているかとも思ったが、無用の危惧だった。そのような血なまぐさい謀略をたくらむ相手ならば、もう少し魏延との仲も良いものだったかもしれぬ。
たとえば魏延は、同じ政略家でも法正とは気が合わないでもなかった。魏延と法正はともに有能であるが傲慢で、他者の思惑なぞ気に掛けず踏みつけにし、我を通す為には手段を選ばない。
諸葛亮とて戦場では奇策を為し知略を張り巡らせるが、政治や行政に関していえば彼は堅苦しいほどに潔癖だった。それがもともとの性格なのだろう。
きれいごとを好む清廉な軍師は、法正とすこぶる仲が悪い。それ以上に、魏延とは不仲だった。


酒を含む軍師の表情は堅かったが、それでもいくばくかの会話はあった。嫌なことを先延ばしにする時間稼ぎであろうとも。
彼は酒の製法について語った。
非常に他愛なく、興味深いものでもあった。

北は麦で酒を作り、南は米で作る。西方では果実で作り、東方では蜂蜜でつくり、騎馬の民族は馬の乳でつくる。山野の民は薬草を漬け込み、天子の後宮では芳花を醸す・・・

魏延は不遜にあぐらをかいて出された酒を含み、とうとうと語る白い顔を見、声を聞いた。
これほど近くでまじまじと見たことはない。軍議では切れるような鋭さを感じる、氷のような、または白刃のような容貌。それが、揺れる明かりのなかでは――繊細。
これを己が好きに扱えるのだと思うと、ふつふつと情欲が沸き上がる。魏延は火が燃え盛るように高まる性の情動を愉しんだ。
やがてついに杯を置いた。
「――軍師殿」
魏延の声は揶揄と嗤いと恫喝を含んでいた。
軍師の杯の水面が揺れる。
「こられよ」
「・・・・魏、将軍、――」
軍師は眉をひそめ、少しためらったのち懐から一葉の書片を取り出した。
「・・・・・・わたしの持つ財を目録にしてある。・・・これで、―――忘れてくれまいか」

財産というのも馬鹿馬鹿しいほどに乏しい目録だった。
軍師は私財を増やすことに興味を示さない。領地を得ても俸禄を得ても、軍備や行政につぎ込んでしまう。
それは劉備軍のほとんどの文武の将官に共通した特徴だった。その点でも魏延は劉軍の中で異質である。
戦場で酷薄なほど苛烈な戦をすることでは他の将にひけを取らなかったが、驕慢にして奢侈や享楽を好む性癖が、ひたすらに劉備をかついで私欲に乏しく質実剛健を旨とする劉備軍の中では浮くものだ。


魏延は胸中に生じた不快のままに書片を握りつぶし、灯りにくべた。
不機嫌な眼差しでみやると、軍師はうなだれ無言のままにじり寄ってくる。まるで初夜でもあるような振る舞いに、魏延は口端を上げた。
「何をそう怯えるのだ。あの夜は某を咥え込んで、淫らに悶えておられたものを」
「―――」
嫌悪と屈辱にゆがむ顔を引き寄せ、唇を指でなぞる。
「ここで、某を慰めてみよ、軍師殿」
驚愕に見開き、抗いをこめた視線を魏延はせせら笑った。
「うまく口で仕えて下されば、今宵は後ろを使わずにいてもよい」

恥辱に惑う白面を見ているだけで魏延のものは熱くなった。
「ほう、やはり後ろで味わいたいか」
いつまでも動かない軍師を、嗤いをふくんだ恫喝でうながす。
「某は、どちらでも構わぬ」
置いておいた酒杯を取り上げ、酒を注いだ。佳い酒だった。江南の年代物であるのだろう高価なものだ。魏延の機嫌をわずかなりと取り結ぼうと軍師が用意したのかと思うと、いじらしさと無駄な気遣いに笑いがもれる。魏延はゆっくりと酒を含んだ。
のろのろと軍師が手を上げ、魏延の帯に手を掛けた。帯は革製で鉤状の金具がついている。武官ゆえの頑丈なつくりのそれを白い手が外していった。
下衣がゆるむと一度手は止まったが、軍師は顔をうつむけたまま衣の奥に手を差し伸べる。繊手に包まれるとさすがに快が全身を走った。直ぐにひとまわりも大きく膨れるのにひるんだようだったが、意を決したように手のひらで包んで擦り出す。
十分な大きさに育った頃合いで魏延は、片手で酒杯を持ったまま、空いたほうの手で軍師の頭部を己が下へと導いた。

「裏に筋があろうが。その筋に沿って舌を這わせよ」
一動作のたびにひるむ軍師にじれ、卑猥な命令を口にする。
さっさと仕えればよいものを。こう長引かせられると余計に辱めたくなる。
軍師は先走りにぬめる先端に淡い色の唇を近づけかけたが、触れる前に、見ておられぬというふうに顔をそむける。
魏延はまた手を伸ばし、無理やりに含ませた。
「んぅぅ・・・っ!」
強引にしたせいで軍師の背が引き攣り、狭い口内で歯がかすめる。
はしった痛みに魏延は顔をしかめた。
「つぎ歯を立てたら、只では済みませぬぞ」
凄みを効かせると軍師がくぐもった声でうめき、首を振った。
腰をゆすって奥まで咥えさせる。
苦しさのために軍師は喉奥で悲鳴を引き攣らせ、手をついて魏延の躰を押しのけようとした。反抗の仕置きとして頭部に手をおいてさらにねじ込み喉奥をえぐると、目に涙をためた。
生あたたかい咥内の熱とねっとりとした肉の感触、舌や喉がひくひくとわななく震動が昂ぶりをうながす。上り詰めるには到底たらぬ刺激だが、存外に心地良く、魏延は湿った息を吐いた。
しばらく悦楽を愉み、ゆるゆると腰を動かす。
「ほら、舌を使いなされ」
「んぅ、ううぅ・・・」
赤黒く膨れ上がった陰茎を喉元まで呑まされ、咥内を行き来するそれに、軍師はかすれたうめきを上げた。
唇も舌も使おうとせずただ苦しげな様子に魏延は舌打ちをもらし、軍師の頭部を掴むと腰を押し付けて乱暴に揺さぶった。喉の奥を突くたびに軍師の背が引き攣る。無力な頭部をがくがくと揺らし、咥内を蹂躙して喉奥を犯した。


咳き込むのにかまわず床に引き倒して後孔をまさぐると、表情が動いた。
「後ろは使わぬと、――」
「うまく仕えて下さればと申したであろうが。あれで仕えたつもりか、思い知らせてくれる」
何の用意もない指一本をねじ込むと、苦痛の悲鳴が上がった。
痛みに身体がこわばるのが、さらなる苦痛を呼ぶのだろう。引き抜き、またねじこむ。
「――ぁ、あ・・・!」
容赦なく突き入れると、床に敷いた織物に押し付けられていた顔が歪み、ひくひくと嗚咽を漏らし始めた。
「泣いて済むとお思いか」
脆弱な様子に忌々しく吐き捨てたが、魏延は指を抜き、床に這った身体を抱き起した。


脅しても背をゆすってなだめても軍師の嗚咽は止まらず、その儚げな風情に欲情した魏延が後孔を犯しても、身体のこわばりは解けぬままに痛苦のみを受け入れた。
快美に乏しい交わりだった。媚薬を入れられていてさえ熟してはいなかったが、素の軍師は青く固い果実のように味気がない。
「余計に痛むものを。力を、抜くのだ」
「・・ぅ、う」
内部を侵す肉塊を受け入れずに拒もうとすればするほど痛みは強く苦しさは増すばかりというに、軍師は身をゆるめようとしない。
強情な、と怒りを覚えるが、じきに魏延も気付いた。
彼は身体のゆるめ方が分からないのだ。まごうことなく、初物であるのだろう。
ほかの男を知らぬ、身体・・・
かの曹操すら羨み欲しがるほどの勇将たちの上位に立ちつつ、守られてきたのか。

あの、男も。
この身体を、知らない――・・・

「ぎ、えん・・もう、やめ・・・くるし・・い・・・・」
「―――」
息も絶え絶えの悲痛な訴えに、魏延は浅いところを擦って己がものを絶頂に導き、身体を離した。
軍師の雄のものは委縮して強張っているばかりで、なされた行為に彼がかけらほどの悦楽も感じなかったことを如実に示していた。





次の密会も同じ場所だったが、酒はなかった。明かりも少なく、薄暗い。
前にもまして軍師の表情には嫌悪と憂いが色濃くただよい、もはや一言も口を開かず虚空をみつめ、薄暗がりで彫像のように身を固くしていた。

「・・けだものめ」
寝所に突き倒し乗り上げると、彼はひくくつぶやいた。
「豺狼とは其方のような者を指すのであろう」
豺狼――山犬と狼。転じて欲深く無慈悲なことをいう。
魏延は吐き捨てるように笑った。
「何を今さら」
顔をそむけた軍師は、すべてを拒むように身を固くした。
魏延は彼の衣を乱して素肌をなぐさんだ。
首筋を唇で辿り耳を食み、胸の朱粒を噛んで舐めた。
冷えた彫像のように無反応であったが、全身を撫でさすり唇を落とすと、さざなみが立つように震え出し、息を乱した。
弄るな、と軍師はちいさくつぶやいた。吐息のように細い声だ。
「早う、・・・終わらせよ」
語句は命令であったが、語尾がふるえている。魏延は低く笑った。
「貴公も愉しまれよ。その方が早く終わろう」
物理的な時間を言ったのではなかった。どのみち魏延は軍師を嬲り尽くすつもりだ。ただ苦痛よりも甘美を感じる行為の方が時が過ぎるのがはやく感じるだろうと言ったまでだ。

「ほう、少しは・・」
軍師の中心には反応があった。それでもまだ抗いの方が大きく、身体に快楽の火が灯っているという状態からは遠い。
恥辱に頬を染めるのを無理に抱き寄せ、強引に握りこむ。
「いつもどうされておいでなのだ、自慰は」
応えがないのを責めるように強く握りこむと苦痛のちいさな悲鳴をあげた軍師が顔をそむける。より乱暴に力を籠めると、か細い声で、ほとんど、しない、とつぶやいた。
「ほう?では頻繁に女人を御しておられるのか」
意外だと言外ににじませると軍師はもう口を開かなかった。
その様子に否定を感じた魏延は内心で瞠目した。他者と肌を合わせることが、ほとんど無いのか。そして自慰さえしないと?
おそらくそれが真実だった。媚薬が入らぬ素の軍師の、不感症とまではいわないが薄くにぶい反応が、そのことを裏付ける。
多忙。潔癖。理由はそのあたりか。
なんという孤独な。
つめたく空虚な、気味の悪いものを呑み込んだような気分になった魏延は、その不快さに獣のようなうなりを発し、軍師の中心を乱暴にわしづかんだ。
会話によってかもう萎えかけているのを強く握り上下に擦ると、軍師が息を呑んだ。
「さわ、るな・・」
「煩い。――黙られよ」
じかに擦るとさすがに反応がある。勃ちあがった花芯を魏延はさいなんだ。
「う、ぅっ・・、・・・」
堅く目を閉じ、声を殺そうと乱れた息だけを吐き出すのは、快楽を拒もうとしているのだろう。
だが声も表情も、わずかずつに変化していった。
嫌悪と困惑の震えから、そうではないものへ。
花茎はしだいに張り詰め、先端の穴からは透明な蜜が溢れてくる。
性感が高まっているのは確かであるだろうに、感じているのを拒むように時折くるしげな息を吐き首を振る。

かたくなな様子を、魏延は嘲った。
「あの夜の痴態はつぶさに覚えておると言うたでありましょうが。乱れようと構わぬ。嫌がろうと、どうせすることは変わらぬのだ。愉しんだほうが互いによかろうが」
「・・う、あ、・・あ、・・」
軍師は口技だけではなく、快を受け入れるのも感じるのも、喘ぎ方さえも下手で稚拙だった。

背後から抱いた身体の脚を開かせ、後庭をなぐさんだ。
抗うと酷くする、という脅しが効いたのか抵抗はない。
乱暴にはせず、香油のぬめりを借りて開かせていった。
二本目が抵抗なく呑み込まれるまで待って、先日探り当てた箇所を探す。
「う、・・あ、ひぃ・・あ」
不安そうに身体を揺らしていた軍師は、其処をえぐると如実な反応をみせた。びくんと背をこわばらせてのけぞり、見悶え始める。
内部もうねって、細かく震えながら締め付けてくる。
嫌だ、と戸惑ったように口走るのに、魏延は喉の奥で笑いをもらした。
「何処が御嫌か。虚言を申されると、――」
「魏延、・・・こわい・・」
「――ふ、」
素直であるのは、心地よかった。どこまでも不慣れな様は面倒であるものの一方で存外に悪くはない。いかなる性の手癖も付いていない身体を好きにする優越と愉悦がこみ上げた。
あふれるほどに含ませた香油が内部の熱で溶けて、芳しい香りを漂わせている。後庭の内壁もほころんで抵抗がなくなり、魏延の太い指を受け入れた。ことさらに淫靡な水音を響かせるように抜き差しさせると、軍師の躰がこまかく震える。
必死に声を噛みしめようとするのに、声をこらえずとも良い、と魏延は笑った。指を増やして弱いところをこねるように弄ると、こらえきれない嬌声が上がり、それからもう喘ぎが止まらなかった。

どこにもすがるところのない軍師は、背後にいる魏延に身体や頭部をすりつけて喘いだ。中心は昂ぶり、先端からとろとろと蜜をこぼしている。
「は、ぁ・・っ・・う・・ぁ・・」
もう抜き差しにはさほど抵抗がない。後孔のなかの軍師の弱い箇所は挿入したばかりのころよりだいぶん膨らみを増し、指先で撫でるたび軍師の身体を跳ねさせた。
あえぎが切羽詰まったものになったが、魏延は彼の前を放っておいた。後ろだけで達することのできない軍師は、くるしげに悶える。

「挿れますぞ、軍師殿」
魏延は軍師の後ろに剛直を押し当てた。軍師の腰が引け、後ろを振り向く。
「・・・・は、入らぬ。・・・無理、だ。そのようなもの・・は、いるわけがない・・」
以前の交わりよりは理性をたもっているのだろう、いきりたった魏延の剛直を目に入れて身を震わせるのに、魏延は唇を曲げた。
「ひぃ、ぁ、あ――」
香油で潤んだ其処にたくましくも野太い先端が呑み込まれていく。首を振ってずり上がる痩身を肉の盛り上がった腕で拘束し、狭い肉の輪をこじ開けていった。
圧迫はあるが、もう三度目である。前の二回よりは抵抗がすくない。
更に腰を抱え込んで、ねじ込むように突く。
「あああっ!」
「ほら、入ったであろうが」
「ぅ、・・うう、」
軍師の後ろは引き攣った喘ぎと呼応するように痙攣し、魏延を強く締め付けた。
うごめく肉壁の感触を雁首で感じる。香油で潤んだ内部の熱さと竿を絞るように締め付ける狭さに快楽が突き抜け、さしもの魏延も短い息を吐き出した。
中の具合もさることながら、全身で感じる膚の吸い付くようななめらかさが興奮を呼ぶ。

男根の感触を肉壁へと感じさせるように、ずっずっと動かし擦りつけると、まだ慣れとはほど遠い身体は快を呼び入れるにはいたらず、軍師は苦痛と不快を訴えて首を振った。
「やめっ・・・ぅんっ・・・もう・・やめ」
「はは。・・・やめられませぬな」
熱くねっとりとした粘膜の感触が、興奮を高める。
白絹のような色と質感の膚がうるわしくも心地よく、上がる声もまた心地よい。普段のつめたくも凛然たる美声を知っているだけに余計に。
容易く手に入る娼妓や枕童子を相手にするのと比べようもない、愉悦である。高貴なものを好きに扱い、啼かせているという愉悦が肉体の快を助長した。

呑み込ませたままに動きをとめた魏延は、軍師の前に手を伸ばした。
絶頂の寸前まで昂ぶっていた中心は、挿入の衝撃によってやや萎えており、にぎると怯えたように一段と小さくなる。
無理に開かされた両脚までも緊迫に引き攣るので、魏延は握ったものをやんわりとしごいた。
軍師は腰をよじって逃げようとするが、後孔に魏延の雄を納めさせられていて叶うはずもない。かえって中のものを締め付け、圧迫の苦しさに悶えるので、魏延は筋肉の盛り上がった腕で彼の身体を拘束し、彼の中心を上下にさすり、親指で先端を擦った。
やがて鈴口から透明な液がこぼれはじめると、そのぬめりをうつすように竿全体をじんわりとしごく。
「ぁあ・・・、あ・・っ」
軍師が感じるほどに中がうねって、魏延の肉を甘美に締め付けた。
普段は自分勝手に自分の快だけを貪る魏延には、相手の快楽が自分の悦に繋がるというのは、あまり無い経験だった。
これはこれで悪くはない。刺激がゆるやかである分、蜜のようにとろりとした悦楽が全身をめぐる・・・


魏延は一度抜くと、軍師の身体をしとねの上にうつ伏せにして覆いかぶさり、ゆっくりと己のものを後方に沈めた。
「・・っ、・・あ、あ」
挿れるあいだに上がった声音は怯えてはいたが、苦痛だけではなかった。
ゆっくりと後孔に自身を挿入し、またゆっくりと抜き出す。
「、あ・・いや・・だ、・・ぁ・・・や、」
上がった声は惑乱を含んでいた。軍師の中心は張りを失ってはいない。魏延が握ると、全身が震えた。
ゆるやかに前をしごきながら、同じくらいゆるやかに魏延は腰をゆすった。あふれるほどに施した香油に濡れた肉壁が淫らにまといつく。
魏延は彼の前をあやしながら、浅い所で探るように腰をうごめかせた。やがて軍師の背が打たれたように引き攣る箇所をみつける。
「あぅ、ああっ・・!」
「ここが、宜しいのか?」
「や、・・っや・め・・ゃ・・、あぁっ!」
おそらく嫌だ、止めよとでも言っているのだろうが、喘ぎとともに吐き出されるのは意味を為さない断片だけだった。
硬度を増した先端からはとめどない雫が流れ出して敷布にまで滴っている。
そこを突きながら、次第に抜き差しの動きを激しくすると、蜜をこぼす中心を握られたままの軍師は後孔で雄を締め付けて悶えた。
内部は変わらずに狭かったがもはや締め付けは拒絶ばかりではなく、抜き差しに支障ないほどにやわらかく解け、魏延の雄に道を拓いている。

「ああっ、あ、い、や・・・だ、・・い、やぁ・・・!」
ひときわ惑乱した声があがり、軍師の背が緊張した。
そのままひと息に昇り詰めようとする彼の男根の根元を強く握った。
「ひぁっ、あ──」
「・・・これは、好い・・・絡みついてくる」
射精を無理に止められた軍師の内壁は、包みこんだ魏延のものに絡みつき、締め付けを増した。心地よさに魏延は感嘆の吐息をもらし、しばらく中を愉しんだが、やがて甘美な包括を味わいながら軍師の中に射精した。
「っぁ・・・・!」
かすれた悲鳴を上げた軍師の性器からも、白濁が吐き出された。


身体を離すと軍師は呆然としていたが、やがてしろい面貌は惑乱にゆがんだ。
男になぶられて快を感じ、貫かれて精を吐いた。
清廉な軍師は、己の身に起きた快楽の逃れられぬ証を受け止めきれないのか。

「軍師殿」
魏延は軍師を仰向けに組み敷いた。手に手をからめて敷布に押し付けると、彼は茫然と魏延を見上げた。
色の薄い繊細な唇がふるえている。黒眸は潤んで、政庁での怜悧など見る影もない。
耳朶に唇を寄せると、それだけで息を震わせ、いっそう怯えたように見上げてくる。
「・・・・さわるな」
眸のなかに怯えと動揺が広がる。
「もう、・・・終わったのであろう?はな、せ・・」
「終わった?まさか。あれしきで某が満足するとでも?」
軍師は目を開き、魏延を見た。無言の懇願を無視し、ふくらみのない胸へと口を寄せる。
朱色の頂を口に含むと軍師の身体は刺激に反応して引き攣った。
「・・ぁ、や・・・やだ・・、いや・・!」
舌先で転がし、頃合いを見て吸うと、涙まじりの悲鳴があがり、彼の精一杯であるのだろう力で押し返そうとする。
非力な抵抗を押さえつけてそのまま乳首をなぶった。甘噛みすると、陸に打ち上げられた魚のように身体を跳ねさせる。
もう一方も指先で押しつぶしながら舌を使うと、こらえきれないように短い嬌声が立て続けにあがった。
練り絹のような白い膚とあかく腫れた朱尖との対比が、閨の薄闇の中でも艶やかで、魏延は口を笑みの形にゆがめた。
黒い髪が乱れて天漢のように敷布に流れている。嬌声をこぼす口はあかい。
ほとんどの部分が白と黒。その中にごくわずかに存在する赤の、なんとあでやかなことか。

自身でさえもおそらくほとんど触れていない花芯に無骨な指を絡めると、うわずった声がもれた。先ほど吐いた精が絡んだそれは、ふたたび勃ち上がりかけている。
嫌だ嫌だとうわごとのように繰り返しているが、身体は反応してしまっていた。
「好いので御座ろう?ほら」
先端をぐちゅぐちゅとこね回すと、ひときわ高く啼く。
「うぅぁ・・っ・・・あ、あ・あ」
腰を揺らめせる様に魏延は喉を鳴らした。
性急な仕草で両足を掴んで開くと、濡れた奥処に自身を押し込む。
ずちゅりと水音を立てて呑み込まれ、先の交わりよりもずっと熱く蕩けた内壁に包まれた。
「いや、ぁ…ッ…」
熱っぽく潤んだ、相変わらずの狭さが目もくらむ快を招き寄せる。
背を反らせて身もだえる軍師の背骨に沿ってゆっくりと手で撫でおろし、は、と息を吐いた魏延は心地よさに笑った。
もう嫌だ駄目だ、・・・もうやめてお願いと、なりふりの構わない懇願――かすれた哀願があかい口からついて出てきた。
「・・・は、どこが御嫌か」
両手で細い腰を掴んで、ゆるゆると腰を動かした。内部はとろける蜜のように甘くぬかるんでおり、狭さもうねるような締め付けも心地よいばかりである。
「貴公の中はもう、某に道をつくっておられる。うまく呑み込んで、締め付けて・・・好う御座いますぞ」
「・・・ぅ、」
屈辱に軍師は一瞬顔を歪めたが、その黒眸は焦点を失ってかすんだものになっていた。








三度目の密会は強引に自邸に連れ込んで行った。
魏延は白い背中を見ながら、腰を進めていた。軍師は弱々しく寝台に這い、腰だけを魏延に支えられて上げている。
「っん、はぁ・・・あ・・っ、・・あぁ・・・」
揺さぶるたびに白磁のようにすべらかな背がおののき、切れ切れの喘ぎがあがった。細い指があがいて敷布にしわをつくり、解けかけた黒絹の髪がうねって揺れる。
政庁では清雅な羽扇をはためかせて文武の百官の従わせる男に、獣の恰好をさせて受け入れさせている。
・・・たまらぬ。
背徳が興奮を呼んだ。ことさらに膨張した雄におびえるように中が収縮する。
「はは・・・怯えなさるな」
じんわりと擦り上げるほどに内部は熱を増して締まり、ゆるやかに突くと潤みを帯びた内壁がやわらかく男根に絡んでくる。
喘ぎは、控えめな、すすり泣くようなものだった。
嬌声というほどのものでもない。

魏延は一度抜き、軍師を仰向けに直してまた挿入した。
羽交い絞めにするように脇に腕を通し、身体を密着させるとともに、ぐ、と男根を突き入れた。
奥に突き当たると、目が見開かれた。
「もう少し奥まで挿れさせて下され」
「っ、・・・無理だ、もう」
ぐ、ぐ、とねじ込むと喉がのけぞり尖った悲鳴が漏れる。腕と全身で押さえ込んで痩身が強張るにもかまわずに、最奥のさらに奥をこじ開ける。
「ひ、・・・―――」
もう声にはならなかった。息も出来ない様子で弾かれたように背をのけぞらせ、喉も震わせてがくがくと痙攣する。
「軍師、息をなされよ」
「あ、ひ、ヒィ・・・ッ」
はじかれたように軍師の呼吸が戻った。拘束を振りほどかんと激しく見悶えるのだが、剛勇の武人の腕も身体もこゆるぎもしない。
「これですべて入り申した」
すべて納めさせて魏延は満足の息をつく。この最奥をうがった者などおるまい。
最奥に這入りこんだまま揺すると、限界をあらわす甲高い悲鳴と共に黒い美眸が見開かれ、滂沱の涙がこぼれ出た。
「や・・・ぁ、あ、・・・!」
「お辛いか。すぐに好くなり申す。そのうちに、佳くてお泣きになるようになりますぞ」
ぼろぼろとこぼれる涙は止まる気配もなく、強張り切った肢体は無言の悲痛な悲鳴を上げ、魏延の声など届いている様子もない。肢体も何もかも理知など欠片もあらぬほど惑乱しているのに、ただ穿った最奥だけはきつく収縮して蕩けるように熱く蠢き、魏延の凶暴な熱を煽った。
「怖い、・・・あ、あ・・・・」
「軍師、殿」
「や・・ぁっ、たすけ・・・」
助けて、と彼は口走った。或いは以前のように想う男の名でも呼ぶのかと思ったが、彼は溺れる者のように魏延の野太い首に掻き付いて、全身を痙攣させた。
「やあっ、あっ、ああ――」
繋がった奥処も全身も余すところなく密着させて、軍師は泣きながら絶頂した。痙攣する最奥に、魏延も己の欲望を注ぎ込む。
「・・・あっ・・・」
体内に放たれる感触に、軍師が身を震わせる。彼の可憐な中心も切なげにふるりと震えた。達したはずだが、花芯は精を吐き出していない。
「中で達されたのか」
自慰すらほとんどしないような無垢のものが奥で達することを覚えて、もう戻れるものか。
堕ちた、・・・
魏延は口の先から息を吐くような笑みをこぼした。


 






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(2018/1/14)

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